第191話それぞれの親登場
★
「それで、そいつはそんなに面白いやつなのか?」
目の前ではタック王子とタック王子に似た顔と髪の色の男が会話をしています。
「ああ親父。あいつは今まであった人族の中で一番だな」
タック王子の父親。つまり魔国アトラスの魔王バチルス様です。
「ふぅーん、それは面白い子ね。今から会うのが楽しみだわ」
透き通るような銀髪に豊かな表情。
ルナと話をしているのはシルバーロード王国のアルテミス女王。こうして並んでいるところを見ると年の離れた姉妹にしか見えません。彼女は月の魔力を吸い取り永遠に若さを保っているという噂は本当なのでしょうか?
「うん。きっとお母様も気に入ると思う」
「その若者はグレーターデーモンを倒してのけたというのだろう? 私たちもハイデーモンを倒したがいまいち物足りなかったからな。一度手合わせを願いたいものだ」
そんな観察をしているとアナスタシア王国のアーサー王……つまり私の父がそんな冗談を口にしました。
「お父様、滅多なことは言わないでください。ただでさえ臣下たちには今回の件で渋い顔をされているのです」
「そ、それはそうなんだが……ほら、実力を測って優秀だったらお前の婚約者候補にしても良いかと思ってだな」
「あら? もし気に入ったら私もルナの婚約者にと考えているのだけど?」
アルテミス女王とお父様が視線を交差させます。
「あっ、あのっ!」
その場に控えていたアンジェリカ王女が口を開きます。
「何かなアンジェリカ王女?」
「どうかしましたか?」
2人の視線がアンジェリカ王女へと向くと、彼女は顔をやや下に向けてしまいました。
「……いえ、エリク様はもう少しでこちらに到着するようです」
彼女は何かを言おうとして俯きました。各国の代表を相手に発言する勇気はないようです。
「お父様。私とエリクは良き友人関係にあります。勝手なことを言われて人間関係をかき乱されては困ります」
「そうだぜ。大体今回のことは俺たちが勝手にやったことなんだ。こんなことであいつに貸しを作ったと思ってねえからよ」
「権力を笠に着る。そういうのエリクが嫌ってるからやめて」
私たちは今回のスタンピードの発生で国に連絡を取りました。
モカ王国にいる友人を助けたい。だから前線に出ることを許してほしい。
その結果、なぜかそれぞれの親と近衛騎士が転移魔法陣から現れたのです。
アレス国王も度肝を抜かされたようですが、ある意味最強の助っ人に違いありません。
それぞれが指定の街を守るということで話が落ち着きこうして危機を乗り越えたのです。
そして今はモカ王国の一室に戻りこうしてエリクが戻ってくるのを待っている状況です。
「むっ、それはいかんな」
「ええ。なるべく友好的に接しなければ、甘い物で釣るのはどうかしらね?」
「権力にこびないとはますます気に入ったぞ」
理解したのかわかりませんが取り敢えず無理強いはしないようです。
彼に無理強いをしたところであっさり躱されるのがオチでしょうけど。
「それにしても会う前にもう少しエリクとやらの話を聞いておきたいな。君たちにとってエリクはどんな人物なんだ?」
お父様が質問をしました。
「えっと……」
「そうだな……」
「まあ、一言でいうなら」
アンジェリカ王女もタック王子もルナも、そして私も同じ評価が浮かんだのか視線が交差すると。
「「「「いろんな意味で斜め上な人物」」」」
「「「はっ?」」」
この答えが予想外だったのか、珍しく目を丸くしています。
「いや、意味がわからんのだが……?」
魔王バチルス様が困惑気味に聞いてきました。
「とにかくちょっと目を離すと何かをやらかすやつだからな」
「とても興味深く、刺激的なお方ですわ」
「うん。凄く変な人」
「あれはいわゆる天然ですね」
これまで巻き込まれてきた数々の事件が思い浮かびます。
彼が何かをするたびに周りが巻き込まれてしまうのですが、終わってみれば結局全員笑顔になりそんな私たちをきょとんとした顔で見てくるのです。
あんなにも暖かく居心地が良いと感じたのはこれまで生きてきた中で初めてです。
口には出しませんがタック王子もルナもアンジェリカ王女やロベルトも。皆エリクの優しさに触れて彼に惹かれているのでしょう。
「そんな人間が本当に単独でグレーターデーモンを倒したというのか?」
「想像がつきませんね」
「かっかっか、なんにしても面白いやつに違いねえよ」
実感がわかないのか首を傾げている各国のトップ。だけど私には確信がありますね。エリクのことだからどうせすぐに彼らの評価をひっくり返してしまうということに……。
——コンコンコン――
「失礼します。ガイル騎士団長とエリク指揮官がお戻りになられました」
いよいよ噂の当人が到着したようです。
全員が無言になりエリクがこの部屋に入ってくるのを心待ちにします。
すこし時間が経ち、外に気配を感じるとドアが開きエリクが入ってきました。
スタンピードから実に数週間ぶりの再会になります。
「エリク様。無事で何よりですわ」
「よおエリク。久しぶりじゃねえか」
「元気そう。良かった」
「怪我はなさそうですね、まあエリクなら当然でしょうけど」
私たちは友人の凱旋を暖かく出迎えます。
「皆も大丈夫そうだね。今回は助かったよ。本当にありがとう」
エリクも朗らかな笑顔を私たちに向けます。私達が再会してなごやかなムードをだしていると……。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか……?」
「折角の再会に水を差して申し訳ないのだけど……」
エリクとの再会を喜んでいる私たちに各国のトップが焦った声を上げました。
「えっと……?」
エリクは初めてあう人間に話しかけられて戸惑いを覚えています。私は彼の耳に口を寄せると。
「私たちの親です。今回の助っ人に駆け付けたんですよ」
「なるほど。今回は助力頂きありがとうございました」
一応王族なのですが、エリクは特に気にした様子もなくお礼を言いました。
「良かったらその後ろのそれについて説明をしてもらえないだろうか?」
「そう言えば紹介がまだでしたね」
エリクが指さす先には手錠と足枷をされ、口に棒を咥えさせられ全身がボロボロになっている…………。
「こいつはグレーターデーモンです。折角なんで本人から情報を引き出すために連れてきました」
「「「なっ!」」」
私の予想通り、エリクは見事親たちを驚かせることに成功するのでした。
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