第188話レッサーデーモン
「来たぞっ! 作戦通り3人1組でレッサーデーモンを囲めっ! 深追いはしなくていいっ! 後衛は魔法で援護を! ダメージを与えられない人間は壁となってデーモンの進行を止めるんだっ!」
ガイルさんの指示で全員が展開していく。レックスとミランダは急遽組まされた騎士と一緒に突撃していく。
僕はそんな彼らを不安そうに見ているのだが……。
「そんな不安そうな顔をするな。守る者がいる人間というのはどこまでも強くなれる。彼らの覚悟を信じてやれ」
ガイルさんの言葉に頷く。
確かにレックスとミランダの成長は目覚ましいものがある。
きっかけは僕が与えた装備なのだが、彼らは今回のスタンピードで実戦をこなし、急激に力をつけているようだ。
このまま鍛えていけば恐らくだがアカデミーの生徒達に紛れても遜色ないレベルになるだろう。
僕がそんなことを考えていると、ガイルさんが言葉を続けた。
「それに俺たちには周りを心配する余裕なんてないぞ。なにせたった2人であいつに挑まなければならないんだからな」
そういうと一際大きなデーモンを睨みつけるのだった。
平原の所々で戦いが繰り広げられている。
少数のグループにわかれた彼らは8体のレッサーデーモンと戦闘を行っている。
この場は少数の騎士と兵士、冒険者もいるが、初めて戦うデーモン相手では苦戦は免れないだろう。
だが、イブにこっそりと魔法で援護するように言ってあるので問題はないだろう。
「敵の大将を倒して瓦解させるのが定石ですね。僕らの仕事は皆が頑張ってくれている間にあの大型のデーモンを倒すことですね」
それこそが僕らがレッサーデーモンと戦わない理由だった。
「おまえなぁ……。ハイデーモンを相手に簡単にいうなよ」
ガイルさんの判断なのだが、デーモンは上位存在になればなるほど身体を構成する魔力の量が増す。そうすると威力の高い魔法や魔力武器が必要になるので、生半可な実力では返り討ちにあうのが必至。
なので、この場で最も強いと思われる僕らが相手をするという作戦になったのだ。
「もちろん僕だけならそんな言葉口にしませんよ。王国で随一の騎士団長であるガイルさんの力は僕も知っていますから。苦戦なんてするつもりありません。瞬殺を期待していますからね」
何せ、冒険者として名を上げて王国に取り立てられ騎士団長まで上り詰めたのだ。
その実戦経験に裏打ちされた実力は僕も学ぶ部分が多く、モンスターの生態や弱点についてなどこれまで色々と教えてもらっていた。
そんな僕の挑発ともとれる言葉にガイルさんはニヤリと笑って見せると……。
「ふっ。若者の期待には応えなければ騎士団長失格だな。お前には特等席で俺の剣技を見せてやる」
良かった。いつものガイルさんに戻ったようだ。僕はスラリと2本の剣を抜くと。
「では行きましょうか」
まるで狩りにでも誘うように僕はガイルさんに声を掛ける。
「そうだな、さっさと片付けて他の援護に回るとしよう」
ガイルさんも剣を抜くと走りだすのだった。
★
「はあっ!」
レックスの剣が一閃する。
レッサーデーモンは俊敏な動きで下がるとその攻撃を避けた。
「くそっ!」
「待てっ! 深追いするなっ!」
焦って追いすがろうとするレックスを騎士が静止する。
「2人とも道をあけてっ! ファイアランス!」
ランスと呼ぶにはふさわしくない業火が平原を走りレッサーデーモンを直撃する。
「ガァァァァァァ!!」
レッサーデーモンの悲鳴が木霊する。
「凄いな……」
「はぁ……はぁ……」
伝わってくる熱気に騎士は眉をひそめる。周囲の警戒を切らすことなく燃え盛る中心を見ていると……。
「グォォォーー!!」
レッサーデーモンがもだえ苦しんでいた。
エリクから貰った魔導具で全力の魔法を放った。これに耐えられた存在をこのスタンピードの中で見たことがない。
だが、炎の中からレッサーデーモンが抜け出してきた。
「まだ動けるのっ!?」
ミランダは驚愕を浮かべる。
「くるぞっ! 相手の動きは鈍っている。後衛まで届かせるなよっ!」
「わかってますって!」
ミランダを守るようにレックスと騎士が前に立つ。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「くたばれええええええっ!!」
2人はタイミングを合わせて斬りかかると……。
「えっ?」
騎士の剣は腕に食い込む程度の威力しかなかった。
「うっそだろ……?」
だが、レックスの剣はレッサーデーモンの肩から腰までを斬り裂いていた。
「ははは、これならいける」
エリクが剣に細工したことは既に聞いている。思いもよらぬ幼馴染みの凄さにレックスは笑みを浮かべると。
「この場は俺たちが守って見せる!」
レッサーデーモンを討ち取ると剣を掲げて周囲を鼓舞してみせるのだった。
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