第187話デーモン

「敵が現れたというのは本当なのか?」


 街の外にて僕はガイルさんと話をしている。

 周囲には状況がよくわからないままに防具を身に着けた兵士の姿がある。


「ええ、西の方から飛んでくる影があります」


 あれからイブの報告を受けた僕は急いで戦える人間を招集すると迎え撃つ準備を始めた。


 周囲には魔法の明かりを作っており、まるで昼間のように明るい。


 今回。緊急事態ということもあってか街の近くで戦闘を行わなければならない。

 なので、出し惜しみをするつもりがなく、僕も装備を固めていた。


「え、エリク……本当にくるの?」


 魔道士ローブを身に着けたミランダ。向こうには隊列に組み込まれたレックスもいる。


 できれば参加してほしくなかったのだが、一緒にいた都合で秘密にすることができなかった。


 だが、装備を考えると余程の相手でなければ平気だろう。



「き、きましたっ!」


 緊迫した声が鳴り響いた。魔道士が光魔法を遠方に放つとそこには…………。


「デ、デーモン……。だと?」


 ガイルさんの驚愕の声が響くのだった。




「デーモン? それはどんなモンスターなんですか?」


 レックスパーティーのメンバーが質問をする。


「デーモンはモンスターではない。それらとは異なる存在……【悪魔】だ」


 この世界には人間以外にも様々な種族が存在している。

 エルフやドワーフ、魔族など人間と近しい姿をした者。

 精霊など自然から発生した者。


「だが【天使】や【悪魔】と呼ばれる存在は神が生み出した眷属とされている。当然強さもモンスターとは比べ物にならない」


 ガイルさんは険しい顔をすると淡々と周囲に言葉を投げかける。


「で、でもあいつらの数はそんなに多くない。俺達はこのスタンピードを最後まで戦い抜いてきたんだ。あのぐらいの人数なら囲んで叩けばよいのでは?」


 確かにデーモンの数は少ない。大型のデーモンが1体に人間と同じサイズのデーモンが8体。こちらは50人はいる。数の力で押し切ればよいと考えるのが自然だが……。



「デーモンはどちらかというと精霊に近い存在なんですよ。身体のほとんどが魔力によって構成されている。だから倒すには魔法もしくは魔法を纏った武器が必要になるんです」


「なっ!」


 僕が書物で得た知識を伝えると、彼は口をパクパクさせた。


「魔道士と魔法の武器を持っている人間は集まってくれ。他はバックアップだ」


 僕の説明が現場に浸透したことを見計らって、ガイルさんはその場の全員に呼び掛けた。

 相手がデーモンではダメージを与えられる人間が限られてしまう。敵と接触する前に隊列を組みなおす必要がある。


 魔道士と騎士の何人かがガイルさんの元に集まっていくのを見る。

 僕はしばらくその光景をみると合流しようと考える。だが……。


「お、おい。お前まさかいくつもりか?」


 意外なことにレックスのパーティーメンバーの1人が声を掛けてきた。


「ええまあ、幸い僕は魔法剣を持っていますからね」


 そういって腰に刺さっている2本の蒼朱の剣をポンと叩く。


「や、やめておいた方がいいんじゃ? だって、あなた……後方支援しかできないんでしょう?」


 もう1人が不安そうにそう言った。


「私も書物で読んだことがあります。悪魔はたとえレッサーデーモンでもCランク相当の強さがあるって。あそこに見えるのは小さいほうが恐らくレッサーデーモン。身体が大きいのは多分ハイデーモンに違いないわ。ハイデーモンはBランク相当のはずよ」


「なっ! そ、そんなのこの人数で勝てるわけ……」


 一般的にそれぞれのランクのモンスターを討伐するのには同ランクの冒険者なりが複数必要と言われている。


 スタンピードでは一部の例外を除くとそこまで強いモンスターは現れていない。

 ゴブリンやコボルトなどFランクモンスターがメインだ。


 ここにきていきなりBランクとCランクの、しかもデーモンが相手となると話が違う。

 討伐に魔力装備が必要な時点で難易度が2ランクは上がるだろう。


 状況を察したのか顔を青ざめる。そんな中……。


「わ、私だって行くよっ! この装備があれば戦えるもん!」


 ミランダがそう宣言した。


「駄目よミランダ!」


 悲鳴にも近い声がする。無理もない、相手のランクを聞いたばかりだというのにミランダが無茶を言い始めたからだ。


「え、エリクは私が守るんだからっ!」


 どうやら僕が参加することを決めたのが原因らしい。僕自身は全く問題ないのだがこれはどうしたものか……。


 僕は困惑するとレックスを見る。彼ならばミランダを止めてくれるのではないかと期待したからだ。


「当然俺も行く。俺達はパーティーだ。エリクは俺が守るからな」


「君もか……。できればミランダを止めて欲しいんだけど」


 もっとも大切な存在だからこそ危険から遠ざけたい。僕は彼らを何と説得するか考えて眉を寄せるのだが…………。


『まあいいじゃないですか』


(おまえ、そんな気楽に言うなよな)


 イブが軽口を挟んでくる。


『いざとなれば2人だけはイブが絶対に守ってみせますから』


 イブは僕との約束をたがえない。デーモンは迫ってきており問答をする時間がない。僕は覚悟を決めると……。


「わかった。だけど絶対に無茶はしないでくれよ?」


 2人に言い聞かせるのだった。

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