第160話【固定】の能力で魔法具作成

     ★


「何? 最近市場の様子がおかしい?」


 副議長は書類をチェックしながら部下の報告を聞いていた。


「はい。なんでも、難易度が低いわりに報酬が良いダンジョンが発見されたらしく、そこで得たドロップ品のポーションが優秀なんだそうです。探索者をはじめ、冒険者などもそのポーションを買いに市場を訪れているらしく賑わいを見せているとかです」


 副議長は部下の報告を聞き顎に手をあてると。


「ふむ、それはこの島の現状から考えると良い傾向だな」


「そうなんですよね。これで島の活性化に繋がってくれたら言う事無しかと」


「まあその考えは甘いだろうな」


「どうしてでしょうか?」


「割りの良いダンジョンが見つかったところで収入が上がるのは探索者達だ。彼らはこの島で金銭を得て島の外――レーベ港あたりで散財をしているのだ。結局のところ島に金を落としてもらわない事には意味がない」


 それが出来ないからこそアスタナ島は現在経営難に苦しんでいるのだ。


「そういえば例のエリクとかいう若者が何やら色々やっているようだな」


 これ以上その話をしても仕方ないだろう。副議長は話題を変えた。


「ほう、例の若者ですね」


 エリクの行動はアスタナ島の議員達もチェックしている。

 昨年、前代未聞の12単位を取得してB級ライセンスを保有した学生だ。


 一見すると物腰穏やかな少年のようだが、文武共に秀でていることが先日発覚してからは議員の間でも注目を集めている。


 カリスマ性があり、周囲には常に人が集まっており、その中には各国の王子や王女までいる。自分の陣営に取り込むことができれば大きな権力を得ることもできると考える議員も多い。だが、現在は議長が目を光らせているので手を出せないでいるのだ。


「島の復興について取り組む旨を伝えに来てな。1週間後に成果を見せると招待状まで送ってきたのだ」


「それは……可能なんですかね?」


「本人は自信ありそうだったがな、若者の無謀な行動だろうな」


 その場では軌道に乗った際の協力を約束してしまったが、そんな都合の良い展開はあり得ない。


「その若さこそが羨ましいですな」


 部下が遠い目をする。彼等もかつてはこの島に根を張り生涯を捧げると誓ったのだ。島のために一生懸命行動するエリクを見ていると言い知れぬ感情が湧いてくる。


「いずれにせよ、1週間後には見に行かねばなるまいな」


 他の議員達も招待されているのでここで顔を出さなければエリクのメンツを潰すことになってしまう。


「万が一にも成功するようならいいんですけどね」


 部下のつぶやきに副議長は答えを持たなかった……。


     ★



「さて……久々に内職をするかな」


 僕はワールド内の【装飾品】の宝物庫に用があった。

 ここには、これまで収集したアイテムが丁寧に鎮座されている。


「とりあえず、適当な物でいいんだけど……この宝石でいいか」


 僕は目についた手頃な宝石を手にすると宝物庫を出た。







「クエエェ」


「キャルゥ」


 扉から出るとカイザーとキャロルが僕に飛びついてきた。


「よーしよし、今日は一緒にいてやれるからな」


 二匹を撫でまわしながらも僕は表で活動をするイブのことを考える。


 イブは今頃集めた人員を効率よく配置していることだろう。副議長にお願いしたところ島に住んでいる人間を集めるのに協力してくれたのだ。


 今までは何かをするにしてもイブが実体を持たなかったので全部自分でやらなければならなかった。だが、今はイブがいる。彼女は僕の意をくみ取りながら実行してくれるので安心して任せられるのだ。


「とりあえず片手間になってしまうけどごめんな」


「キャルキャルキャル」


「クエックエックエェ」


 だからこそ僕も頑張らねばと思うのだった。






「えっと……【付与】を増幅すると【固定】になるんだな?」


 僕は現在、イブがまとめておいてくれた恩恵に【増幅】を使った時の効果を見ていた。

 それというのも、その能力の一つがこれからやろうとしている事に有効だと判断したからだ。


「……ひとまず増幅を発動っと」


 悩んでいても仕方ない。僕はとりあえずやってみてから考えるべきと判断すると【付与】を【増幅】する。


「さて、次にこの何の変哲もない宝石を置いて……」


 ワールド内にいるときはいつだってイブがいて横から「何をするんですか?」と聞いてくれるのだが本日は合いの手がはいらない。


「キャル?」


「クエ?」


 だがカイザーとキャロルが気にしてくれているようなので二匹の顎を撫でてから続きをする。


 僕は初めて試みるそれに対しやや緊張をすると、ゆっくりと大きく深呼吸をしてから……。


「僕はこの宝石に【クリーン】を【固定】する」


 宝石に手をかざすと、いつもの要領で【クリーン】を使って見せる。

 すると、普段とは比べ物にならないほどの魔力が吸われ宝石が輝いた。


 やがて、宝石の輝きが収まり僕も軽い疲労を覚えると。


「これで【クリーン】の魔法具が完成したはず」


 早速カイザーとキャロルにお願いすると二匹はそれぞれが宝石に触れた。


「クッ、クエェェェ~」


「キャ、キャルゥ~~~」


 二匹揃って気持ちよさそうな声で鳴く。どうやら成功したようだ。




 【固定】の能力はスキルや魔法などをアイテムに固定化できる能力なのだ。

 この世界には魔道具と魔法具が存在している。


 魔道具というのは本人の魔力を使う事で封じられた魔法を使う事が出来るアイテム。

 魔法具というのは大気のマナを取り込むことで誰でも自由に魔法を使うことができるアイテムの事だ。


 今の魔法文明では魔道具を作ることが出来るだけでも一流なのだ。

 そして一流の付与師が掛けられる魔法にも限界がある。


 それは本人の使える魔法に限られるという事。なので、魔道具は一般的な水を出すものだったり火を出すものだったり程度しか作られないのだ。


「とりあえず魔法具なら古代文明のダンジョンドロップってことで押し通せるしな」


 僕は続けて他の宝石にもどんどんクリーンを固定化させていく。

 一度の増幅時間が1時間なので一つ固定化させるのに5分と考えると12個作れれば良い方だ。


「これも計画の要になるから、なるべく多い方がいいしね」


 僕は残った時間を必死に魔法具作りに費やすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る