第159話ゲーム

     ★


「ツーペアよ!!」


 勢いよくトランプがテーブルに叩きつけられる。


「おっと、スリーカードだ。俺の勝ちみたいだな」


「ううう、タック王子に負けるとは……」


 マリナが悔しがる姿をよそにチップがタックへと移っていく。ポーカーによる清算がおこなわれているのだ。


「これがJとAが最初から揃っているのは…………」


「またブラックジャックですか!?」


 一方、少し離れた場所ではルナとセレーヌがブラックジャックをプレイしている。

 彼らはトランプカードを手にすると難しい顔をしつつもゲームを楽しんでいる。


「あっ、アンジェリカ様。その牌当たりです」


 ロベルトが申し訳なさそうに自分が揃えていた牌を倒すと……。


「ま、また私がビリですのっ!?」


 アンジェリカは涙目になりながら点棒を支払った。

 こちらのテーブルではアカデミーの生徒達が別なゲームをしてはわいわいと楽しそうにしていた。


 彼らが何故このようなことをしているのかというと。


「それにしてもエリクのやつ。こうして遊んでろってどういうつもりなんだ?」


 エリクが見たことも無いような遊具を大量に用意してルールブックを置いていったからだ。


「しかも肝心のあいつはソフィアと消えちまってるしよぉ」


 島を発展させる業務にソフィアが加わったとエリクから聞いたときは驚いたが、エリクのやること。皆あっという間に納得したのだが、釣りをしたり遊んでいたりといまいち何をしているのかわからない。


 本人の秘密主義は今に始まったことではないのだが、いつも驚かされる身になって欲しいというのも彼らの意見の一つだ。


「エリク様なら私から【コールリング】を借りていかれましたよ」


 タックの疑問に答えたのはアンジェリカ。彼女は眉を寄せて牌を睨みつけ少し悩みながらも牌を切る。


「ほう、一体誰とつながっているコールリングだ?」


 【コールリング】というのは対になっている二つのリングで、お互いに嵌めた状態であればどれだけ離れた場所にいても会話が可能という魔法具だ。

 主にダンジョンでドロップされるのだが、その利便性の高さから人気があり、王侯貴族から大商人まで狙っているので高額で取引される品物だ。


「……うーん。……お父様ですわ」


「あっ、それ当たりです」


「ええっ!」


 思考を遮ぎられて牌を切ってしまったのか、相手の当たり牌を切ってしまい悔しそうな顔をするアンジェリカ。


「アンジェリカ様の父上って国王ですよね?」


 マリナが横から会話に入ってくる。アンジェリカは涙目になりながらも振り返ると頷く。

 国王と会話をするためにリングを借りるエリクもそうなら、貸すアンジェリカもおかしい。マリナは口元に手をやりそんな事を考えていると……。


「うーん、このタイミングで王様に連絡。また何かしでかしそうな気がする……」


 まさに今皆が考えていたことをルナが代表して発言した。


 すると沈黙がその場を支配する。

 何せこの場にいる人間はアカデミーでエリクの行動を見てきているのだ。


 常識外な行動や、誰かを助けたりなど。

 そんな皆だからこそ次にエリクが何をするつもりなのか気になっている。


「ところで、あいつ随分とソフィアと仲いいよな付き合ってんのか?」


「ひっ!」


 タックが気楽な様子で思ったままの発言をすると周囲の温度が幾分下がった。


 アンジェリカは牌を力いっぱい握っているし、他にもピリピリとした魔力を放つものもいる。


 ロベルトが思わず悲鳴を上げてしまったのだが、それが彼の不幸だった。タックの関心をかってしまったのだ。


「ロベルト。お前はエリクと付き合いが長いんだろ? やつの好みの女とか聞いてねえのかよ?」


「い、いえ……タック王子。じ、自分はその……」


 周囲の視線を一身に受けたロベルトは脂汗を浮かべるとその場から逃れようとするのだが…………。


「あら、ロベルトどこに行くのかしら? 時間はたっぷりあるのだからその辺について聞かせてもらえないかしら?」


 アンジェリカが腕を掴むと逃げられなくなった。



     ★




「とりあえず、イブの方はできる手配はしておきましたけど」


「うん。こっちもある程度の根回しは済んだよ」


 王様から快い承諾を貰った僕は用事を済ませるとイブと合流した。


 この島の土地を扱う業者との下見に加えて、役員や副議長との交渉などなど。


「そっちは問題ないか?」


「ええ、各国を回って品の良い品物を仕入れてきましたからね。見た目を重視したので金額はかさみましたけど」


「イブのセンスなら信用できるからね。多少金がかかるのは仕方ないさ」


 僕がそう受け応えると。


「ふふふ、マスターのために頑張りました」


 嬉しそうに寄ってきた。

 目の前にイブの頭部が覗き、僕は撫でるべきかどうか考えると。


「それで、いつから始めるんですか?」


 見上げてきたイブと目があう。


「1週間後かな?」


 研修だったり、手配する事だったりそれなりに時間が必要だ。

 僕は頭の中で軽く計算をすると約束した日にちを言った。


「ふふふふ。楽しみですねぇ」


 祭りは準備が一番楽しい。

 イブはこれから行う事が楽しみなのか僕を見ると満面の笑みを浮かべるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る