第151話ゴッド・ワールド
「うっ……身体が重い」
朝起きてみると、最近ではなった覚えのない倦怠感を覚えた。
「昨日は久しぶりに魔力も体力も使ったからな」
イブとの戦闘はこれまでにない程の経験を僕に与えてくれたようで、今でもあの戦闘を思い出すと気が高ぶってくる。
僕は別に戦闘マニアではないが、実力が拮抗した相手との試合は格闘ゲームにも似た楽しみがある。
「それにしても予想外だったな」
ザ・ワールドが使えなくなったかと思ったらイブが出てきて、さらに実体化しているのだから。
「とにかく今日からはできることも増えたし気合を入れてやっていくとするかね」
僕は重たい身体を起き上がらせると本日の予定を思い出すのだった。
「なるほど……君はそちらのソフィアさんをライセンス保持者に推薦すると言うのかね?」
「ええ、B級ライセンス持ちを手玉に取った実力もありますし様々な技能を有していますから」
僕はイブとともに議長の前に立っている。その理由はイブに探索者の資格を取らせたかったからだ。
「し、しかし……なんの実績もない人間にライセンスを与えてしまっては今後似たようなことが起こった場合に……」
だが、議長は眉間にしわを寄せると苦い顔をして見せる。確かにタックやマリナやルナのようにアルカナダンジョン攻略をした実績もない。ぽっと連れてきてさあ「ライセンスを与えましょう」と言うのは頷き辛いのだろう。だが……。
「別に断るのは自由ですけど、彼女ぐらい強い人間を引き込めるチャンスなんてそうはありませんよ」
僕が利点について述べると。
「先輩。ソフィアは頼み込んでまでライセンス欲しくないですからもう帰りましょうよ」
イブが帰りたそうな演技をする。
議長とてこれが良い方法だと理解しているのか、焦りを浮かべると。
「ま、待ってくれ。私の一存では決定できないが、至急議会を開く。それで何とか通して見せるから」
なるほど、流石に議長の独断では通せないが、議会をすれば話を通せるということか。
「ソフィアを引き込めばライセンス持ちが負けたという話は打ち消せますからね?」
破ったものが身内であるならば問題はないのだ。アスタナ島の面目を保つこともできるし、イブにライセンスを持たせることができWIN-WINとなる。
「う、うむ。何とかして見せるから待っていてくれ」
僕の言葉に議長は冷や汗を浮かべて頷くのだった。
「あの人可哀想でしたね」
歩きながら僕とイブは会話を続ける。
「そうかもね。だけど、せっかくイブがライセンス取れるチャンスを得たのなら取っておきたいじゃないか」
アスタナ島のライセンスは他の探索者ギルドでも通用する。
将来、挑むダンジョンには入場に人数制限がついたりするのだ。その時にイブがライセンスを持っていてくれたなら、ある程度の制限を下げる事が出来るようになる。
「流石マスターですね。そこまで考えていたなんて」
イブは前にでるとターンを決め無条件に僕を褒めた。そんなイブの瞳をみて僕は確信する。
「そのぐらいイブも考えていたんだろ?」
何せ、毎日きっちりと授業に出ては単位を集めていたのだ。ライセンスを取るつもりが無ければ授業に出る必要すらないのだから。
「まあ、そうなんですけどね……。実際にイブが活動できればマスターの代わりに働くことも可能ですから」
そこでふと首を傾げると。
「あれ? だったらこのまま授業にでて単位を集めれば良くないですか?」
そうすればこんな内輪で話をつけるまでもなくライセンスが手に入るのでは?
イブがそんな疑問を僕へと投げかけてきた。
「勿論そうすればライセンスに届くとは思うけどさ、ザ・ワールドにも篭りたいし無駄な時間は省くべきだろ?」
ライセンスの件はごり押しで何とかなる。なんだかんだで持っていると便利な資格だし得られる権利も大きいので取得は必須だ。
だが、イブが授業に出てしまうとその時間をがっつりと取られてしまうのだ。
僕としては、一刻も早くザ・ワールドの新機能を把握して色々な事をしたいと思っている。
そうすると単位の取得で何日も待つのはありえないのだ。
「流石はイブのマスターですね。理解しました」
イブはそう言うと僕の目の前に立ち笑顔を見せてくるのだった。
「さて、それじゃあ。ザ・ワールドに入りましょうか」
あれから人気のない場所に移動するとイブが早速提案してきた。
「約一年ぶりか。楽しみだな」
イブによると内部が大幅に変わっているらしい。僕は期待に胸を膨らませる。
「とりあえず入り口でも開くか」
そして、早速ザ・ワールドへの入り口を出そうとするのだが……。
「待ってくださいマスター」
突然イブが手を握ってきた。
「ん? どうしたんだ?」
僕が聞き返すと。
「入り口からだと中心まで距離があるので、とりあえず転移魔法で案内しますよ」
どうやら今度のザ・ワールドは相当な広さを持つようだ。僕はそう考えると。
「そうなの? じゃあ頼んだ」
「はーい。それじゃあ動かないでくださいね」
ふわりと風を感じると、目の前に絹のような金髪の頭部が見える。どうやらイブが抱き着いてきたようで、柔らかい感触を身体中に感じる。
「それではマスターを新しいザ・ワールドに案内しますね」
次の瞬間、身体が引っ張られる感触とともに僕とイブはザ・ワールド内へと転移するのだった。
「ここが……ザ・ワールドの中なのか?」
僕は周囲を見渡すと驚き声を上げた。
「はい、そうですよ。【スター】を取り込んだせいで随分と変わっちゃいましたけどね」
まるで神殿を思わせるような大理石で囲まれた空間だった。
そこら中に神気のような神々しい雰囲気が漂っている。空間の中央には見慣れた台座があるのだが、台座の中心の、イブのコアが嵌っていた場所には窪みが出来ている。
周囲を見渡してみると三階構造となっており、ぐるりと一周見てみると一方向を除くとドアがあった。
また、壁には多数のダンジョンコアが埋め込まれている。見た記憶があるので僕が今までに入手してきたダンジョンコアだろう。
「ここがザ・ワールドの中枢になります。今まで獲得したコアの管理をしたり、ザ・ワールドを操作したりする場所です」
「あのドアは何処につながってるんだ?」
一階は時計回りに11部屋。二階と三階は12部屋ずつあるようで、気になった。
「あのドアの先は【宝物庫】ですね。マスターがこれまで収集した武器やアイテムを種類ごとに部屋分けして飾ってあります」
プレートには【武器】【防具】【装飾品】などと書かれている。上の階には【鉱石】【鍛冶】【錬金】なんかもあるらしい。
少し中を覗いてみたのだが、僕がこれまで手に入れたアイテムが整理整頓されていた。
「ここって【神殿】の中なのか?」
この雰囲気は恩恵の【神殿】が発動したものに似ている。神々しいオーラが漂っているのでそう思ったのだが……。
「いいえ、違いますね。ここは【ザ・ワールド】が進化した世界――【ゴッド・ワールド】ですよ」
「ゴッド・ワールドか……確かに名前の通りかもな」
漂ってくる雰囲気からしてそれっぽい。
「とりあえず何がどれだけ変わったか見てみたいんだけど……」
中枢からして相当な広さだ。他の部分も気になった僕はイブに聞いてみた。
「はい。御案内しますよマスター」
僕はイブに案内されるとゴッド・ワールド内を歩き回ることにした。
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