第150話ソフィアの正体

「さて、どういうことか説明してもらおうか?」


 あれから、僕は彼女の手を引くと闘技場から連れ出した。そして人気のない場所を見つけるなりそこで彼女を問い詰めている。


「せ、先輩怖いですよ? あと、顔が近いです」


 そう言って「あわあわ」言いながら逃げようとしたので壁に手をついて逃がさないようにする。


 すると、ソフィアはあちこちに目を向けると気まずそうにうつむいてしまった。


「白状しろ。これは命令だからな」


 僕がそう言うとソフィアは顔を上げる。


「どうしてわかったんですか?」


 首を傾げると上目遣いに見つめてきた。どこか不満そうな悪戯がばれたような表情だ。


「はぁ……本当にイブだったのか」


 僕は溜息を吐くと目の前の美少女を見てみる。

 するとイブは「あっ」と口を開いて見せると……。


「もしかして当てずっぽうですか。マスター?」


 自分が嵌められたことに気付いたのか悔しそうな顔をする。


「いや、さっきの戦闘の最後ぐらいで確信したよ」


 顔は違うが仕草はイブそのもの。これが初対面の時からどうにもソフィアを警戒できなかった理由というわけだ。


「まず、タックやマリナにルナの事を『さん』付けで呼んでいた」


 僕は指を一つ立てる。


「そ、それは講義の時にそう呼び始めたのかもしれないじゃないですか?」


 まあその線も無くはない。なので次の指を立てる。


「僕の使える能力を見破っている事」


 透明化の魔法を使えるはずが無いと断言したり【幻惑】だと看破したり、僕の恩恵を知っている素振りを見せた。


「うっ……確かに」


「あとは三つ目なんだけど【神殿】での祝福だな。あれは正直肝が冷えた」


 焦って転移魔法で不意打ちして決着したけど、あれで暴れられたら勝ち目がない。

 イブはそとにいながら神殿に祈れるようだが、僕は直に祈らないと無理なのだ。


「ちょっと調子に乗り過ぎました」


 イブはそう言ってベロをだして可愛らしく反省して見せる。


「なるほど、それだけの情報から洞察したわけですね。流石はマスターです」


 感心そうに僕を褒めるイブに僕は言うのだが。


「いや、戦闘前から疑ってたんだけどな」


「どうして!?」


 驚き声を上げるイブに僕は教えてあげる事にした。


「その答えはルナから『あの金髪の女から去年のパーティーで暴れた仮面の男と同じ魔力を感じる』と言われた。これでめでたくソフィアはイブということになったわけさ」


「まさかルナさんに見破られるなんて……」


 イブは悔しそうな表情を浮かべる。

 そんなイブに僕は聞きたい事がいっぱいあった。


「さて、何故こんな事をしたのかきいていいか?」


 わざわざタックやマリナを倒してまで僕との戦闘を希望したのだ。何か理由があるに違いない。


「それはですね、マスターには強い相手との戦闘経験が足りなかったからです」


「どういう意味だ?」


「マスターは強いです。ですが、これまで苦戦したことが無いのが弱点となります。実力が拮抗した相手との対戦の場合、勝敗を分けるのは潜り抜けてきた修羅場の数です。仮に同レベルの相手と死闘をすることになった場合、マスターが負ける可能性があるのです」


 確かに、この恩恵のお陰か苦戦を強いられた経験はない。タックやマリナにルナなど、強い恩恵を持つ彼らを相手にしても負ける事は無かった。


「なのでイブはマスターに苦戦をしてもらおうと思ったのでソフィアとして戦いを申し込んだんです」


「それなら別に名乗ってくれてもできただろ?」


 僕の疑問にイブは首を横に振る。


「相手がイブだとバレちゃうと気が緩むと思ったんですよ」


 確かにその通りだ。少なくとも相手がイブだと確信したあとは危機感は無かった。


「まあ、納得しておくよ」


 実際。これまでで一番の実戦だったから。イブは僕と同等の力を持っていると確認も出来たしな。


「ところでイブ。ザ・ワールドから反応が無くなってるけど、どうなったんだ?」


「あっ、それはですね。無事に解析を終えて今は中が作り変わってる最中なんです。今入ると移動物に轢かれたり、次元のはざまに吸い込まれたりする可能性があって危険なので、完全に封鎖しているんですよ」


「作り変わってるって中の構造が?」


 こうして話しているからにはアルカナコアの解析は終わっているのだろうと見当はついていたが、中の作り変えは聞いていない。


「アルカナコアのお陰でザ・ワールドにも色々変化がありましたからね。その影響がでているんですよ」


 そう説明すると指を立てる。僕は何気なくその手に触れてみる。


「マスターどうかしましたか?」


 蒼い瞳を向け不思議そうな顔をするイブ。掴んだ手からは柔らかさと共に暖かさが伝わってくる。


「このイブは実体だよな? アルカナコアの恩恵はイブを実体化させるって事だったのか?」


 これまでは幻惑を使って姿を投影していた。

 だが、今回は違う。何度も触れあったし、息遣いが感じる距離まで近づいたりもした。

 更には食べ物を摂取している姿も見ている。どう考えても僕達と同じに見える。


「完全に無関係というわけではありませんけどね、恩恵はちゃんと用意されてますよ。他にもいろいろと驚く事間違いなしなので、期待してもらえればと思います」


 どうやら楽しみにしろと言う事らしい。


「それは解ったけど、いつになったら入れるようになるんだ?」


「そうですね、恐らく後少しで終わるので明日にでも入れるかと」


「明日か」


 ようやくザ・ワールドに戻れるかと思うとわくわくしてきた。

 これで久しぶりに温泉に入ったり、野菜や果物にミルクなどを補充したりも出来るようになる。


 カイザーやキャロルも撫でまわしたいし、ザ・ワールドが開かれたらやりたい事が盛りだくさんだ。


「そういえば、その幻惑いつになったら解くんだ?」


「やはり気付いてましたか。流石はマスターですね」


 【幻惑】は対象を絞ることで威力が増す。僕がイブに対して透明化した姿を見せたのと同様に、イブも僕に今の姿を見せている。

 そのせいで他人から得た情報が混乱して、真実に到達するのに時間が掛ったのだ。


 タック達を倒したのは金髪と聞いていたのに、目に映るソフィアの髪の色は青だからな。


「マスターはこっちの姿と元の姿どちらがお好みですか?」


 イブが上目遣いで見上げてくる。サファイアのような蒼い瞳が真っすぐ僕を見つめている。


「そうだな、今の姿も良いけど、元の姿の方がイブと再会できた気がする」


 僕は少し考えると思いつくままに言った。


「解りました。じゃあ幻惑を解きますね」


 そう言うとイブの姿が変化して一年前に見たイブの姿が現れる。綺麗な金髪に蒼い瞳。白い肌に誰もが見惚れる美貌。

 僕は手を伸ばしてイブの頬に触れてみる。

 幻惑が解けると実体もなくなるのではないかと危惧したが、どうやらそこは大丈夫なようだ。


「マスターくすぐったいです」


 頬を撫でてみると餅のような柔らかさと暖かさが手に伝わってきた。イブは身をよじるが離れる事は無かった。


「ああ、ごめん。本当に触られるんだなと思って」


 恩恵の力ではないと言っていたし、謎が多い。何となく触れていると落ち着くので暫く撫でているのだが……。


「マスター。誰かこっちにきますよ」


 イブのレーダーに誰かが引っかかったようだ。


「そうか、あまりこうしているのも良くないな。イブは学生としてこの島に滞在してるんだよな?」


 僕はイブから手を離すとイブの現在について聞いてみる。


「はい、お金を渡して身分登録しておきました。でももうマスターと戦う目的は果たしたので消えましょうかね?」


「いや、それについては僕に考えがあるから、暫くそのままでいてくれ」


 せっかくお金を支払ったのなら有効な利用方法がある。


「はーい、それじゃあ、あてがわれた部屋に戻りますね。汚れちゃったからシャワーも浴びたいですし」


 そう言って僕の横をすり抜けていく。


「イブ」


「何ですか。マスター?」


 僕が声を掛けると不思議そうな顔をして振り向く。


「お帰り。また会えて嬉しいよ」


 これだけは言っておかなければならない思ったので伝えておく。

 イブは一瞬目を開く。次の瞬間嬉しそうな笑顔を浮かべると。


「こちらこそ、これからまた宜しくお願いしますねマスター」


 そう言うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る