第144話海水浴
「ルナ、いきますよー」
「……えい」
「わっ! こっちに飛ばさないで下さい」
太陽が照り付ける中、三人の美少女が水着姿でビーチボールで遊んでいる。
マリナはシルクのフロントVビキニを身に着けており、引き締まった太ももに零れ落ちそうな胸が強調されている。
セレーヌさんは白のフリル付きのワンピースに麦わら帽子とお嬢様を思わせる佇まいだ。
ルナは……どうみてもスクール水着としか思えない恰好をしている。
三人ともとても似合っているので砂浜を訪れている全員の視線を釘付けにしていた。
さて、何故僕らがこうして砂浜にいるのかというと、勿論海水浴をする為だ。
先日、到着するなり会議に参加させられた僕らは「アスタナ島が衰退しない為の集客方法の提案」という厄介極まりない仕事を投げつけられた。
確かにB級ライセンス持ちということで島の運営に口出しする権利があるのだが、冗談ではない。
去年もアルカナダンジョンを攻略したりパーティーのデザートを作ったり。
他にも、正体を探りに来た人間の追及を躱したりと色々大変だったので遊ぶ暇がなかったのだ。
なので、今年の僕はそうそうに仕事を適当なところで切り上げてバカンスを楽しむつもりだった。
「なあ、これってどう考えても遊んでねえか?」
僕の隣に立ったタックが呆れた様子を見せてくる。
僕はテーブルに置いてあったトロピカルジュースをすすると。
「何を言ってるんだタック、これは立派な調査だよ。アスタナ島を立て直す為に、まず僕らがお客さんの気持ちになって遊んでみる必要がある。その上で不満点を纏めて改善しないといけないんだ」
僕は調査と言う名目で砂浜でうだうだしていた。
島の立て直しなんて特に興味はない、とにかく仕事をしているふりをして最後に適当なレポートと改善案を出すつもりだ。
それ以外にも色々と考えたい事もあったからなのだが…………。
昨晩の現象について考えるためにビーチチェアに腰かけているのだが、どうやら思考の海に沈むのをタックは許してくれないようだ。
「まあいいか。ところでお前、誰の水着が一番好みなんだ?」
付き合いもそこそこになってきたせいか、タックが下世話な話を振ってきた。
僕は質問の意味をかみ砕くと目の前の三人を良く見てみる。
それぞれがとても魅力的な美少女で正直甲乙つけがたい。
冷静な判断で見るなら全員似合っているから同着で良いのではないだろうか?
「二人とも何をしてるんですか? 折角なので一緒に遊びませんか?」
そんな事を思っているとマリナと目が合った。
彼女は海水で濡れた身体からしずくを滴らせながら髪をかき上げてこっちにきた。
「エリクもやろう」
ルナが僕の手を引いた。小さな手が水で濡れていて海水の冷たさが伝わってくる。
「男二人で固まって何を話していたんですか?」
セレーヌさんは何を話していたのか気になるようで無垢な視線を向けてくる。
「べ、別にそんな対した話じゃ……」
僕は三人の水着姿は等しく似合っていると思っていたが、今の反応を見る限りタックの中の一番は決定だな。
「今晩どこのレストランに行こうか話してたんですよ」
その話を振ると妙なラブコメでも見せつけられそうな予感がしたので、僕はセレーヌさんの追及を避ける事にした。
「お、おう。その通りだぜ」
「何か怪しい感じですね……」
セレーヌさんはタックに近寄ると視線を向けた。そうなるとタックは平静でいられない、至近距離からセレーヌさんの水着姿を見る事になり身体を赤くする。
どうやらラブコメゾーンの回避に失敗したようだ…………。
セレーヌさんに至近距離から見つめられているのが気まずかったタックは距離を取ると。
「おっし、俺らも混ざるか! 手加減しねえからな」
そして何故か僕を巻き込んでビーチバレーへと繰り出した。
その後は流石B級ライセンス持ちということで、ハイレベルな攻防をしてみせるのだった。
「ふぅ……今日は遊んだな」
あれから海水浴を終え、それぞれが自由時間となった。タックとセレーヌさんは疲れたからと部屋に引き上げていったし、ルナとマリナは二人でお風呂に入るらしい。
アンジェリカやロベルトは単位取得の為の授業で忙しいので邪魔をするわけにもいかない。
そんな訳で僕は砂浜で一人星を見ながら考えていた。
「オープン・ザ・ワールド」
何度目かのコールをしてみるが、反応が無い。どうやら何かが起きているのは間違いないようだ。
「まあ、イブなら何とかしてくれるだろう」
何かのトラブルだとしても彼女に任せておけば間違いない。
これ以上考えたところで何かが解るわけではない。
僕は気を取り直して星空を見てみる。
「うーん、やっぱり去年に比べたら星の数が少ないよな」
アルカナダンジョンが攻略され、跡地となった場所は中に入ると空を見上げられる空洞にすぎない。
降り注ぐ星々が無くなったため星屑も採取出来ないし、討伐時にモンスターから得られていたアイテムも入手できない。
他にもこの時期に新婚旅行や結婚式などを挙げに来る旅行客も激減しており、全体的な収入減に繋がっていた。
元々たくさんのダンジョンが生成されるという事もあり、冒険者や探索者の数は減っていないのだが、彼らはそれほどお金を落とす事は無い。
この島で出稼ぎをしてはレーベ港へと帰り豪遊をするのだ。
そんな訳で、復興の為には観光客を呼び戻す必要があったのだ。
流れ星が流れた。
僕は折角だから他力本願に島の復興を願っておこうと祈りを捧げて見せるのだが……。
「ん?」
何かが動いた気がした。目を凝らして空を見上げていると……。
「わわわわっ! どーいーてーーーぇーーー!」
何かが降ってきた。僕は咄嗟に身体を引いて避けると…………。
――ズドンッ――
何かが砂浜に落下して砂埃が立ち込める。
「な、なんだ?」
流石に想定外だったので目を凝らして目の前をみる。
結構な勢いで落ちてきたので砂が舞い上がり視界が塞がれた。
「ウインド」
僕は魔法で風を起こすと砂を海側へと押し戻す。
するとようやく落ちてきたものが目に入った。
「ぺっぺっ……砂が入っちゃいました。うぇぇ」
落ちてきたのは目に涙を浮かべて砂を吐きだそうとしている女の子だった。
空のような透き通った青髪にサファイアのような蒼の瞳。整った顔立ちもそうだが、陶磁器のような白い肌に滑らかな曲線を描く身体は見ていて思わずため息が漏れそうになるほど。
純白のドレスに身を包んだその姿はこれまで見たことがないほどの美少女だった。
「あの……大丈夫かな? 結構いい音したけど?」
あまりにも現実離れした容姿に驚きつつも僕は声を掛けてみる。
「あっ、うん。大丈夫です」
「起きれますか?」
僕が手を差し出すと、彼女は手を取り立ち上がる。その際に柔らかくも暖かい感触が伝わってきた。
彼女は身体についている砂を払いのけると。
「ありがとうございます。親切なんですね……えーと……」
「僕はエリクだよ」
「エリクさんですね。私はソフィアと言います」
名乗りを上げると満面の笑みを浮かべた。
「君は招待旅行の学生さんかな?」
これほど目立つ容姿ならば集合した時に気付きそうなものなのだが、見た記憶がない。
「あっ、そうですよ。招待旅行の学生でーす」
「どうして空から落ちてきたのかな?」
この辺に高い建物は無い。空でも飛んでいたのか、あるいは違う能力なのか……。
「あっ……エート」
いずれにせよ優秀な恩恵を持っているのだろう。基本的に良く知らない相手に情報を渡す事は無いので言いあぐねているようだ。
「答え辛いなら無理には聞かないからさ」
腹を探られたくないのは僕も同じ。彼女がどんな恩恵でどのように空から降ってきたのかは不問にしておこう。
「エリクさんって何年生ですか?」
「僕? 僕はモカ王国総合アカデミーの二年生だよ」
「そうなんですか! ソフィアは一年生なんで先輩ですね」
いきなり距離を詰めてくるのだが、何故かそれほど不快に感じないのは彼女の態度が僕のパーソナルスペースのギリギリを突いているからだろうか?
「宿まで送って行くから今日はもう戻った方が良い」
僕はそう答えると彼女から距離を取って歩き出す。
「明日からの講義で一緒になったら宜しくお願いしますね」
宿に着くと彼女はそんな事を言ってきた。僕はその言葉に適当に答えながら。
(まあ、僕は単位が足りてるから参加しないんだけどね)
内心で呟くのだった。
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