第142話新しいペットその正体は!?
「アイシクルランス」
氷の刃が飛び、目の前のモンスター達を串刺しにする。
「続いてファイアーピラー」
絶命したかどうかも解らなかったモンスター達だが、間髪入れずに放った火の魔法で火柱に囲まれて燃え尽きる。
「最後にウインド」
そして風で灰と残り火を巻き上げて消す。
「ふぅ……こんなもんかな?」
今全滅させたのはDランクモンスター。
アカデミーの学生達なら倒せなくはないのだがそれなりに数がいたので倒しておく。無用な危険は侵さないのが今回の訓練だからだ。
僕は魔核を回収するとアイテムボックスへと収納した。
「タックとマリナさんもこの程度なら問題ないだろうし、もう少し外周を回ってみるかな?」
僕等はベースキャンプを中心にして三方向へと散った。
そして、そこから時計回りに巡回することで学生達の訓練を見て回っているのだ。
「こういう時は強い人材がいてよかったな」
この授業はある程度のモンスターを間引きできる実力者が何人かいるお陰で成り立っている。
僕はタックやマリナさんにルナさんと協力をお願いした。
何せ、アルカナダンジョンで実力が証明されているので、安心して任せられるからだ。
「少し森側も見ておくか、まさかとは思うけど山脈からドラゴンとか来ないとも限らないし」
モカ王国を真っすぐ西に向かうと森が広がっている。そしてさらに西には光が差し込まない程の濃い森があり人間では到達できない領域となってる。そこから先は遮るような山脈が北まで続いている。
この山脈の頂上はドラゴン種などの強力なモンスターが生息しているらしく、時折迷い込んだレッサードラゴンが人里に現れる事がある。
こうした行事でのドラゴンの襲来はお約束。誰かがフラグを立てようものならレッドドラゴン辺りがベースキャンプに飛来する可能性もある。
なので、事前に確認をしておこうと考えるのだった。
「流石にこの辺はちょっと気配が違うかな……」
偵察ついでに森の付近まで来てみる。ここまでくるとそこそこ強いモンスターの気配が漂ってくるので僕も警戒していた。
「少し上級訓練になるけど、今度はこの森手前にキャンプを用意してアカデミー上位50人ぐらいに絞って訓練とかありかも」
ここならCランクからBランク果てにはAランクぐらいのモンスターが出てくるだろう。
ダンジョンの中であれば罠や間合いに気を遣わなければ追い込まれるところだが、平原であれば人数も掛けられるし比較的安全に討伐できる。
強力なモンスターとの実戦を経験しておくことでパニックに陥る確率を減らすこともでき、ダンジョン本番での生存率も上がることだろう。
「とりあえず、今度もう一度下見にくるか……」
タックやマリナさんにルナさんを連れてくれば戦力は十分。僕は偵察を終えて戻ろうとすると…………。
「ブルルルルッ!!」
「ん? なんだ?」
生き物の鳴き声がしたので僕はそちらへと向かってみる。
「あれは、レッサードラゴンと争ってるのは……馬?」
数匹のレッサードラゴンが黒馬に襲い掛っている。
レッサードラゴンは単体でもBランク相当のモンスターでそれが数匹となるとB+ぐらいだろうか?
黒馬はまだ子供なのか身体が小さく、このまま放っておけばやられてしまうだろう。
「ブルルッ! ブルッ!」
レッサードラゴンが牙と爪を振るい襲い掛かる。ちょっとした金属ぐらいの硬度があるそれは確実に黒馬の身体を傷つけ血が流れる。数に対応できずに追い詰められていく。
そんな黒馬を見ていた僕は…………。
「ツインスラッシュ!」
双剣を抜き放つと突進をした。そして瞬きする間にその場のレッサードラゴンを斬り裂いて命を奪った。
「まあ、素材としてそこそこ優秀だし、イザベラさんもそろそろBランク解体したいって言ってたからな」
黒馬と戦うのに夢中でこちらを見ていなかったので楽に狩る事が出来た。
「さて、アイテムボックスにしまうか」
ザ・ワールドが無いとイブのサポートが受けられず不便だ。
僕は剣をしまうとぶつぶつ言いながらもレッサードラゴンの死骸を回収していく。
「ブルルッ!」
よろよろと立ち上がると警戒心を浮かび上がらせてこっちをみている黒馬。
「そのまま放っておくと他のモンスターにやられそうだな……」
僕はライフポーションを取り出すと黒馬に飲ませてやる。
「ブルルンッ!」
「わっ!」
すると、身体中から傷が消えた黒馬は警戒心を無くし、僕の身体に顔をこすり付けてきた。
「なんだ、結構人懐っこいやつなんだな」
僕はわりと動物が好きだ。前世でも暇な時に動物の動画なんかも見ていた。
黒馬の毛並みが素晴らしく、いつの間にか撫でまわしていた。
「ブルルル」
黒馬も気持ちよさそうな声で鳴く。
「そういえば、そろそろ10ヶ月か……カイザーとキャロルが懐かしいな」
イブが解析に入ってからもう10ヶ月も経つ。その間はカイザーもキャロルもザ・ワールドで面倒を見ているはずなので僕は動物との触れ合いが足りていなかった。
「そういえば、ロベルトとかも騎馬を持ってたよな?」
遠距離の移動は魔導車がメインなのだが、近場だったり草原などの魔導車が通るのに適していない場所は騎馬で移動する事が多い。
貴族の一部は乗馬などを嗜んでいるので、アカデミーにも厩舎が存在している。
カイザーやキャロルみたいな希少モンスターは大騒ぎになるので外で飼えないが、こいつなら飼ってもいいのではないだろうか?
「お前、僕と一緒に来るつもりは無いか?」
僕が聞くと黒馬は「ブルルルル」と返事をした。そして……。
「乗せてくれるのか?」
頭を地面に下げ乗るように促した。
「馬具がないからバランスは悪いけど、思ってるより力があるな……」
僕はそれ程重いわけではないが、剣を身に着けている。だが黒馬はしっかりと立ち上がってみせた。
「丁度いいからこのまま見回りに戻るとするか」
僕の言う事が解るのか示した方向へと進む。僕は飛行でバランスをとりつつ黒馬に乗ったまま移動をするのだった。
★
「そろそろ、訓練終了時間ですわね」
アンジェリカが周囲を確認すると戻ってきた学生達がベースキャンプで休憩をしていた。
誰一人死者を出すことが無かったのは、当人たちの実力もさることながら、見回りをした人間が危険なモンスターを事前に間引いたお陰だ。
「あとはエリクが戻ってくるだけなんだが……」
ロベルトが全員の点呼を終えてトリスタン先生に報告をしていると。
「ん。戻ってきた……」
遠目に映ったのか、ルナが平原の先を指差した。
「ん、あいつ何かに乗ってねえか?」
タックもその方向を見ると目を凝らして見せた。
「二人とも良く見えますね、私には見えませんよ」
ルナは魔力の形で判断し、タックは魔族なので身体能力が人間より高いから見る事ができた。
「どれどれ……」
メリダが遠くを見る【スコープ】で確認をすると頬を引きつらせる。
「どうかしましたか? メリダ先生」
引率のトリスタンがメリダに質問をするのだが、信じられない表情を浮かべて口をパクパクさせている。
「エリク様がまた何かされたんですか?」
アンジェリカの言葉にその場の全員に緊張が走る。
「お、おいっ! あれって……まさか……」
タックの表情が変わった。どうやらメリダが驚いている原因が解ったらしい。
「ただいま戻りました。近隣のモンスターの打ち漏らしも片付けて来たし、戻り遅れた学生もいないですよね?」
エリクはそれから降りるとトリスタンに確認をする。
「ああ、エリク。それよりお前それ……」
皆を代表してトリスタンがエリクに聞く。
「こいつですか? レッサードラゴンに襲われていたところを助けたら懐かれてしまって。折角だから飼おうかなと思って連れてきたんですよ」
周りの人間は「まじかよこいつ」みたいなこわばった顔でエリクを見た。
「そ、そのエリク君……その馬なんだけどね」
メリダも実物を見た事は無く、外れている可能性も考えていた。
だが、この場にはそれと遭遇したことがある人物が二人もいた。トリスタンとタックだ。
「よーしよし、疲れただろ? 戻ったらレッサードラゴンの肉をやるからな」
楽しそうに黒馬とじゃれ合うエリク。そんな光景を見せつけられながらタックが前にでると。
「エリク良く聞け!」
「ん。どうしたのさタック?」
次の瞬間タックは言った。
「そいつはAランクモンスターのナイトメアだぞ。魔国でもテイムできた人間がほとんどいない希少種だ」
「へっ?」
「「「「「「……………………」」」」」」
当人にとっても予想外だったのか、エリクを含む全員が黙り込む中……。
「流石エリク。私達の斜め上を平然とやってのける……」
ルナの突っ込みだけが草原に広がるのだった。
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます