第140話問題児様達が他国から追放されてきたようですよ?
演習場から三人を生徒会室に連行する。
生徒会室には書記さんがいて、汚れている僕らの姿をみるなりぎょっとした顔をする。
僕が「少しこの三人に話があるから」というと、察してくれたのか逃げるように部屋を出て行ってくれた。
彼女が出て行き、生徒会室のドアが閉まると…………。
「タック王子が悪いんですよ!」
マリナさんが声を荒げてタックを睨みつけた。
「なんだぁ? てめえだって剣を抜いただろうがっ!」
タックも負けじと睨み返すとマリナさんを糾弾する。それに対し……。
「だいたい、私はあなたと違って国を追放されてきたわけじゃありません。一緒にされると迷惑です」
マリナさんが悔しそうな顔をする。喧嘩の発端はタックがマリナさんに声を掛けたことらしい。
「なんだとっ! 俺だって追放されたくてされたわけじゃねえよ。親父の大事な杖を折って紛失したから追い出されただけだ」
シーソラスの杖に関してはそのうち返却するつもりはある。
だが、それは同等の杖を生み出したあとになるのだが、現状でザ・ワールドが閉じているので研究する事が出来ないのだ。
「まあまあ、二人ともその辺にする」
とにかく冷静になれとばかりに唯一落ち着いているルナさんが二人を取りなそうとするのだが…………。
「お前に言われたくねえっ! 素で追い出されてきたくせにっ!」
「私はあなたがやらかさないように監視として送り込まれたんですよっ!」
マリナさんとタックが不本意とばかりにルナさんに怒鳴り返した。
だが、ルナさんは涼しい顔をすると……。
「私はただ……」
無表情に抑揚のない声を出すとルナさんは言った。
「留学してきたどこぞの国の王子が私を婚約者みたいに扱おうとしたから魔法を使っただけ。1週間で効果は切れるように配慮した」
以前話をした通りに彼女は本当に言い寄る男に魔法を掛けたようで、その風評が伝わったために国外へと送り込まれたようだ。
目の前では三人がお互いを罵倒している。ここまで本音で言い合えるのは逆に仲が良いのではないだろうか?
おそらくアルカナダンジョンを一緒に攻略したので気安い関係なのだろう。
――パンッ――
僕は手を叩くと意識をこちらに向けさせる。
「三人とも注目。またこの場で喧嘩するなら特大魔法をぶち込むからね?」
編入生からの呼び出しということで演習場を訪れた僕が見たのは斬り合い、魔法を放ち続ける三人の姿だった。
大賢者と剣聖と魔法剣士。本気でぶつかっていたので、言葉での説得をあきらめて制圧してみせた。
何故かタイミングが悪く訪れた新入生達がいたのだが。これが思っていたよりもおとなしく、僕が友好を示すと首を縦に振って恭順してくれた。
その時の顔が真っ青だったのだが、おそらく上級生と話すのに緊張していたに違いない。
「ちっ……横暴なやつめ」
理解したのかしていないのか、タックが舌打ちをする。
「私は悪くないのに……」
追放をからかわれてタックに切りかかったマリナさんも同罪です。
「結果オーライだから気にしない」
ルナさんだけは追放されて喜んでいるようだった。
「はぁ……まったく。とりあえず汚れをなんとかするか」
久しぶりに全力で運動したせいか汗が出て気持ち悪い。さらに、土ホコリやらで汚れているので顔や髪もパサパサしている。
これは一刻も早く解消すべきだ。僕はそう判断すると自分にクリーンを掛けた。
「うおっ! なんだそれっ?」
目ざとく聞いてきたタックに僕は答える。
「これ? クリーンって魔法だよ。身体中の汚れから身に着けている物の汚れまで落とせるんだ」
「地味だけど、ダンジョン探索だと身だしなみを整えられないから有用かも」
観察していたマリナさんが魔法の利点を的確に見抜いてきた。
「凄いじゃねえか、俺にもかけてくれよ」
気楽な様子で頼んでくるタックを僕は半眼で見ると。
「もう暴れないと約束するならいいよ」
「安心しろ、俺は約束は守るぜ」
軽い口調のタックを見ると僕はクリーンをかけてやる。
「凄げえな……、身体中から汚れが落ちて今まで体験したことがない気持ち良さだ」
どうやら気に入ったようだ。僕は続けてマリナさんにクリーンをかけてあげようと考えていると……。
「まって、そのクリーン私がやる」
そわそわしていたマリナさんの肩をルナさんが掴んだ。
「この魔法をルナさんがやるって?」
僕の質問にルナさんは頷く。
「私の【大賢者】はあらゆる魔法を扱うことができる。エリクのクリーンは今見た。できるはず」
魔法に関しては負けられないとでも思ったのか、ルナさんは目に炎を浮かべると言い切った。
「まあ、それならやってみてもいいんじゃないかな?」
僕も興味がある。僕がコアによって習得した魔法をルナさんがどのように再現をするのか。
「じゃ、じゃあルナお願いしますね?」
胸元で手を組んで緊張した様子を見せるマリナさん。
自信満々なルナさんに対し不安があるようだ。
ルナさんはマリナさんに手をかざすと魔法を使った。
「…………クリーン」
手のひらが輝き、マリナさんの身体から蒸気が立ち上る。
「ふわぁ……これは……確かに……極上のエステを受けたような気持ち良さがありますね」
頬が紅潮し艶めかしい表情をマリナさんは浮かべる。どうやら僕と同等のクリーンをルナさんはつかえているようだ。
「これは流石に驚きました。凄いですねルナさん」
見ただけで再現できるというとことは、恐らく彼女なら転移魔法や飛行魔法も奪えるのではないだろうか?
そんな事を考えているのだが…………。
「……もだめ」
だが、次の瞬間。ルナさんはカーペットの上にへたり込んだ。
「どうしたんですか?」
僕が聞いてみると……。
「凄く、魔力使った。これ普通に疲れるよ?」
「そうなんですか?」
僕としてはそんなに疲れるほど魔力をこめていないのだが……。
「たぶん、熟練度が足りていない。魔力の消費を抑えるためには練習しないといけない」
なるほど、僕の場合はコアからの恩恵でいきなり熟練度がカンストしているが、ルナさんの場合は魔法を扱えるだけで熟練度を上げていく必要がある。
ルナさんはよろよろと立ちあがるとそう分析して見せた。
これならば簡単に魔法を再現させられなそうだ。僕がそう考えていると……。
「どうしたんですか?」
彼女は僕の服の裾を掴んで上目遣いに見上げてきて言った。
「魔力が足りなくなったのでクリーンお願い」
この場で汚れているのはルナさんだけ。僕は苦笑いを浮かべるとルナさんにクリーンを使うのだった。
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