第130話包囲網2
「ダメですね、証拠がなければ断定できません」
あれから数日が経過した。
ルナとマリナは仮面の男と思わしき人物を特定すべく動いていたのだが……。
「直前でロストした」
どういうわけか目的地に到着する寸前で魔力の反応が消えたのだ。
「おそらくはあの方で間違いないと思うのですが…………」
ダンジョン内でのやり取りで、マリナは強い違和感を覚えたのだ。
その時は流してしまったが、あれこそが仮面の男の真実に迫るためのピースなのだ。
「このままだと他の連中に出し抜かれる可能性もある」
ここ数日、他のメンバー達も探りを入れている。
グランドクロスの聖騎士アーク。神殿の聖女フローラ。大魔導のロレンス。
アスタナ島からも懸賞金が掛けられているし、マリナやルナの国からも「それ程優秀な人間なら取り込みたい」と言われている。
見つけた人物は仮面の男を隠すに違いない。あれほど規格外の存在だ。秘匿して自分達だけで利用したいに決まっている。
「それは不味いですね……」
中でも、神殿のセレーヌとタック王子が怪しい動きを見せている。
あの二人はマリナやルナと同じく、アルカナダンジョンの最後に仮面の男と接している。証拠一つさえ見つかればもっとも近い位置にいると言って間違いない。
「とにかく、残された日数は今日と明日の夜までです」
この招待旅行も明日まで。明日にはアルカナダンジョン攻略を祝ってB級ライセンス以上と貴族以上が参加できるパーティーがある。
それが終われば後はそれぞれが帰国することになっているのだ。
「でも、尻尾を掴ませてくれないよ」
そうなのだ、対象はあの日以来魔法を使っていないらしく、完全に行方が途絶えている。
「一体どうすれば…………」
追い詰められたマリナがテーブルに突っ伏していると……。
「少し、お話よろしいでしょうか?」
「えっ?」
宿泊施設のロビーで話をしていたマリナとルナに二人の人間が話しかけてきた。
「タック王子に……セレーヌさんでしたか?」
「アルカナダンジョン攻略の際はお世話になりました。マリナ様。ルナ様」
形式に乗っ取った挨拶をする。
「こちらこそ、噂にたがわぬ治癒魔法と補助魔法のおかげでこちらもこうして生き延びられました。神殿と貴女に多大なる感謝を」
「うん。ありがとう」
社交辞令を返しつつマリナの思考は回転していた。なぜこの二人が接触してきたのか……。
「まだるっこしいのはいらねえ。俺達と組まないか?」
「組む……? ですか?」
マリナは口元を手で隠すととぼけた様子でタックに返す。
「しらばっくれんなよ。ここにいる連中全員が仮面の二人を暴こうとしている。なんせあの二人は最終日のダンジョン出口が開くまでずっとあの中にいたんだからな」
「確かに私達も探ってはいますが、あなた方と組むメリットが……え? 今なんと?」
「消失トリックが解ったの?」
タックの言葉尻を捉えた二人は困惑の視線を向ける。
「さてな。だが、このままじゃあ俺達が先に見つけちまうかもしれないな」
「くっ!」
「……む」
勝ち誇ったタックの態度にムッとする二人だったが……。
「タック君。そういう態度が誤解を招くんですよ」
「てめぇに関係ないだろうがよ」
「てめぇ?」
ニコリと笑って聞き返すセレーヌぬから言い知れぬオーラが漂う。
「ちっ、俺がどう思われようとセレーヌには関係ねえだろうが」
珍しく引き下がる姿をみてルナとマリナは目を丸くする。
この傍若無人の魔族の王子がこんな態度をとるのは珍しいからだ。
「そんなことはないです。タック君が悪く言われるのは気分が悪いですし、私はタック君が良い人だと知っていますから」
穢れの無い真っすぐな瞳で打ち抜かれたタックは「うっ」とうめき声を上げるとばつが悪そうにする。そして……。
「わぁーったよ。気をつけるからこれでいいんだろ?」
頭を掻きむしった。
「ねえ、私達って惚気を見せられてるのかしら?」
「本当に同一人物?」
ひそひそと会話をするマリナとルナにセレーヌは友好の笑みを浮かべると。
「このままでは炙り出すのが難しいのはお互い様だと思うんです。なのでお二方には協力いただければと思ったんですがどうでしょう?」
そんな提案をしてきた。
マリナとルナはそんなセレーヌに……。
「私達もかなりのところまで詰めているの。おそらくあと1つ何か出てくれば追い詰められるのよ」
「つまりは組む余地があると考えてよいのでしょうか?」
「それはあなた達次第ね」
「どういう意味だ?」
マリナの言葉にタックは眉をひそめる。
「条件が一つあるのよ」
「やっぱりこいつらと組むのをやめようぜ。俺達だけでもなんとかできなくは――」
「どうぞおっしゃってください」
「特定した場合にその存在をこの場の人間だけにとどめること」
「なんでだよ。島の議員達も探しているし、俺らはB級ライセンスだぞ。仮面の男を売れば確実に上にあがるだろうよ」
これまで国が介入できなかった統治権だが、王族自らA級ライセンスを持つとなればかなり融通が利くようになる。
国益を考えるのなら売った方が得だろう。
「これは私達個人の問題なのですが、期間内にアルカナダンジョンを攻略して見せないと望まぬ相手に嫁ぐことになるのです。その為にも私たちは仮面の人物と秘密裏に接触、協力を仰ぎたいのですよ」
「なるほど、確かにそのような事情なら彼も応じてくれるかもしれませんね……」
その言葉にルナの眉がピクリと動いた。
「…………それはもう誰なのかわかっているというつもり?」
「ええ、色々消去法で考えていきましたが私が握っている手札で推測するに間違いないかと思います」
余程強力な情報を持っているに違いない。
「そうですね、それにもし彼ならば私達が素直に事情を話せば無下にしないと確信してますから」
だが、マリナはその手札は自分達も握っているとアピールする。
「なるほど……」
マリナとセレーヌの間で火花が散る。それぞれの思惑があり主導権を握りたかったのだが……。
「ではその条件で協力して頂けるのですね?」
「え、ええ」
あまりにもあっさりと引き下がったセレーヌにマリナは肩透かしを食う。
「では、私達が知っている情報を教えますのでそちらも教えてください」
そういうとセレーヌはもっている情報を語りだしたのだった。
「では明日は手はず通りにお願いしますね」
「わかったわ。あなた達。特にタック王子は絶対に抜け駆けしないでくださいね」
「けっ、わざわざそんなことしねえっての」
悪態をついて立ち去ろうとするセレーヌとタック。
「待って!」
それをルナが引きとめた。
「どうかされましたか?」
セレーヌは振り返り質問をすると。
「どうして条件に同意したの? そっちには言うとおりにするメリット無いのに」
そんな質問にセレーヌは口元に手をあてて考えると。
「簡単なことです。彼がそれを望んでいないのは明らかですし、それに…………」
次の一言でマリナとルナの表情が歪む。何故なら……。
「私達が取引を持ち掛けるときの条件もそれでしたからね」
最後にセレーヌに一杯食わされたことに気付いたからだった。
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