第129話包囲網1

「うん……うん……わかった、伝えておく」


 ルナの平坦な声だけが聞こえる。

 ここは通信型魔法具が置かれた部屋だ。


「どうでしたか。ルナ?」


 マリナとルナは島の偉い人間に頼んでこの通信型魔法具の使用をさせてもらった。

 古代文明が残した魔法具の中には現在の魔導技術では再現できない装置が多々存在する。

 通信型魔法具はその一つで、これがあれば遠く離れた場所にある通信魔法具を使い連絡を取り合うことが出来るのだ。

 二人はこの装置を使って自国の両親へと状況報告を行ったのだ。


「自分達で倒したわけじゃないから駄目だって」


 ルナは両国の両親から伝えられた内容をそのままマリナへと伝える。


「予想はしていましたが……」


 マリナとルナは特別な恩恵を持っている。

 それはこの世界においてとても希少で、発現すれば後世に名を残せるほどの人物になると言われている。

 元々の血筋もあってか周囲から期待されているのだ。

 この世界において優秀な恩恵を得た人間同士の子供は優秀な恩恵を得やすいという法則があるので、ルナもマリナもそれぞれが国王が選んだ相手を婿にすると決められている。


「それでも。あきらめる理由はない……」


 だが、一つの例外がある。それがアルカナダンジョンの攻略だ。

 今から100年前に一つのアルカナダンジョンが攻略された。そしてその攻略者達の一人がルナとマリナの祖先だ。

 攻略者には特別な権利が与えられ、自由に生きることが許される。

 マリナとルナはその権利を行使するためにアルカナダンジョンに挑んだのだが……。


「現状で命があるだけ運が良かったのでしょうね」


 舐めていたわけではないが、あれだけの人間が集結して挑んだのだ。厳しい戦いになるとは思っていたが、成し遂げられると信じていた。

 だが、結果は無残な敗北。救援がこなければこうして溜息を吐くことすら出来なくなっていた。


「その代わりに期間を延長させてもらった」


「それはつまり卒業までではなくもう少し猶予期間を設けてくれるということですか?」


 マリナの問いにルナは首を縦に振った。


 本来の予定では、ルナとマリナは学校を卒業と同時に婚約者が選ばれることになっていた。

 だが、今回アルカナダンジョンで成果を上げたことにより、将来性を買われたのだ。

 そのことで自分達の自由が首の皮一枚で繋がっていることをマリナは認識した。


「ですが、このままでは厳しいに違いないです」


「うん。難しい……」


 マリナの言葉をルナが肯定する。

 何せ今回のアルカナダンジョンで自分達の未熟さを痛感したからだ。


 最強の剣と最高の魔法を扱える身でありながら巨人相手に手も足も出なかった。

 仮に期間内に他のアルカナダンジョンに挑んだところで、攻略できるとは思えない。


「一体どうすれば……」


 マリナは暫く考えると。


「そうですっ! あの仮面の二人さえ見つけられれば」


 今回。あの二人がダンジョンの攻略者として周囲に認識されている。

 島の議員達も、彼らを見つけたものに報酬を払うと言っているのだ。


 マリナもルナもこれまで生きてきた中であれ程ぶっとんだ力を持つ人間は知らない。

 どうやってあれ程の力を手に入れたのかはわからないが、アルカナダンジョンを攻略する近道があるとしたらその鍵を握るのはあの二人に違いない。


「でも、どこにいるんでしょうかね?」


「さあ? 煙と共に消えた」


 だが、仮面の二人組はまるで消失トリックを使ったかのように忽然と姿を消した。

 あの時、ダンジョンの入り口は開いておらず、突入してきた人間達もそれらしき人物は見ていないという。


「恐らくなんらかの抜け道があったに違いないのです」


 それにマリナの中に一つ引っかかることがある。それに照らし合わせれば一人の人物が候補になるのだが……。


「どうしましたかルナ?」


「マリナはあの仮面の男を探している?」


「ええ、そうです。仲間になってもらえれば最善ですが、話を聞いたり稽古をつけて貰えるだけでも随分と違いますからね」


 もちろん一方的に寄りかかるつもりは無い。それでは今回と同じだし、何よりプライドが許さない。


「方法はあるよ?」


「どうやって!?」


 ルナの言葉にマリナは大きく目を見開いた。


「魔力を探ってみる」


 ルナは魔道士の杖を手にすると何やら唱え始めた。


「初日に広範囲を爆撃した魔法。あの魔力の質と最終日に感じ取った魔力の質が同じ。つまり初日からずっと仮面の男はダンジョンにいたことになる」


 ルナの【大賢者】の能力の一つに他人の魔力を視るというものがある。

 人は一人一人魔力の形や大きさに色、密度が違っており、放たれる魔法もその影響を受ける。ルナは強力な魔法を使う相手に関しては魔法を覚えるためにマークしており、今回のダンジョン探索においてロレンスと仮面の男をきっちりマークしていた。


「サーチという特殊魔法を以前覚えたことがある」


 この魔法は特定の条件を付けた対象を探す魔法だ。

 それ単体なら探し物が出来る程度なので少し便利な能力なのだが、結構な魔力を消耗するので持ち主は殆ど使わなかった能力。


 だが、ルナの大賢者を通したうえで使えば効果範囲も段違いとなる。

 ルナはマリナにそう説明をする。


「と言うことは仮面の男を見つけ出せる!」


 早速ルナは魔法を唱えると周囲へとその魔力を広げていく。

 今回サーチするのはダンジョンでの男の姿だ。


「見つけた……対象はこの島にいる」


「やはりっ! もう少し絞り込めませんか?」


「や、やってみる……」


 ルナは島全域まで広げた探索範囲を狭めていく。こうすることで自分を中心とした円の範囲まで絞り込むことができるようになる。


 どんどんと探る範囲が狭くなり、やがて……。


「ふう、ここで目標をロストした。つまり範囲はここまで絞ったということ」


 マリナが地図を広げるとルナはそこに丸を描く。


「なるほど、やはり最終日に残っていた方の中にいるのですね」


 その丸を付けた場所をみてマリナは納得する。何故ならその場所というのは……。


「ひとまずこの場所を探し回ってみましょう。ルナ行きますよ」


 マリナはルナの手を引っ張ると出て行った。

 最後に残された地図が風で揺れる。その丸を示した場所というのは丁度マリナ達が滞在している建物だったのだ。

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