第131話包囲網3

 外を星明かりが照らす中、広場ではテーブルに豪華な食事が並べられたパーティーが開催されていた。

 このパーティーはアルカナダンジョン攻略を祝うもので、参加できるのはB級ライセンス以上と一部の王族貴族のみとなっている。


 僕はテーブルにケーキを置きながら周囲の様子を観察していた。


 聖騎士アーク、大魔道ロレンス、聖女フローラ。

 アルカナダンジョン攻略の代表三人が島の議員や王族に囲まれて労いを受けている。


 彼らはアルカナダンジョン内でパーティーを率いる活躍を見せたことで名が売れ、こうして勧誘をされているのだ。

 貴族の家の警備兵だったり王国の騎士だったり。あるいは宮廷魔道士など。


 攻略不可能を達成した偉業は彼らを要職へと導いたようだ。


「さて、これで最後かな」


 僕はテーブルにケーキを並べ終えると一息つく。

 目の前にはいろとりどりのケーキが並べられており、僕の目を楽しませる。

 一見するとそこらの店で売っていそうなケーキなのだが、見た目からは想像もつかないような豪華な材料を使っているので、味を想像するだけで今にも唾が溢れてきそうだ。


 早く口にした時の感想を聞いてみたいのだが……。

 食事よりも口説きに夢中なのか、この場でのコネを作ろうと参加者たちは歓談にいそしんでいる。


 僕がそんな連中を眺めていると……。


「よぉエリク」


「エリクさん御機嫌よう」


 不敵な笑みを浮かべたタックと清楚と呼ぶのがふさわしいドレスを身に着けたセレーヌさんが話しかけてきた。


「二人とも楽しんでますか?」


「ええ、おかげさまで」


「まあそれなりだな」


 そんな返事を返している間にも更に話しかけられた。


「エリクここにいたのね」


「久しぶりエリク」


 後ろを振り返ると淡い桃色のドレスを身に着けたマリナさんと水色のドレスを身に着けたルナさんがいた。

 流石は宝石姫と名が広がっているだけあってか周囲の注目を集めまくっている。


「二人ともドレスが良く似合ってますね」


「まあ、ありがとう。エリクにそう言ってもらえると嬉しいわね」


「口が上手」


 言われ慣れてるのか軽く流された。


「エリクはここで何をしているのかしら?」


 マリナさんが質問をしてきた。


「実は、パーティーで出すデザートを担当して欲しいと言われまして。ケーキを作って配膳していたんですよ」


 【料理】の単位をクリアしていた僕は、議員からこのパーティーの存在を教えられていた。

 そして、パーティーに出すデザートを作って欲しいと依頼されていたのだ。


「へぇ……これエリクが作ったんだ?」


「こんなのお城でも見たこと無い」


 感心した様子でケーキをみるマリナさんとルナさん。


「エリクさんが作ったケーキはアカデミーでも有名なんですよ」


 セレーヌさんが僕の評価を二人に伝えている。


「それは是非味わってみたいわね」


「うん。食べてみたい」


 その言葉に僕はケーキを切り分けると皿にのせ皆に差し出す。


「どうぞ、滅多に手に入らない材料ばかりを使用したので結構な自信作なんですよ」


『ゴールデンシープのミルクにバター。【神畑】から採れた黄金の果実をふんだんに使用したケーキ。世界中でもこれだけの材料を用いたケーキなんて無いですよ。いいなぁー食べたいなぁー』


 イブが恨めしそうな声を上げる。


「じゃあ早速いただくとしましょうかね」


 マリナさんとルナさんとセレーヌさんがケーキにフォークを突き差す。


「タックは食べないのか?」


「男が甘い物なんて食えるかよ」


「その言葉後悔すると思うけど?」


 そんなやり取りをしている間に三人はケーキを口にする。すると…………。


「「「!?」」」


 顔色が変わった。三人の美少女が蕩けるような表情になり、タックがその顔を見てぎょっとする。


「ふわぁ……」


「これは……」


「口を開くと味が逃げるので勿体ない……」


「よしっ!」


 最大の評価をもらいぐっと拳を握る。


「なんだと……これがそんなに凄いのか?」


 恐れおののくタックに僕は言う。


「食べてみれば解るさ」


「むっ……そこまで言うなら……」


 不機嫌そうになりながらもタックがケーキを食べた。


「なんだこれっ! 美味すぎるぞ!!!」


 その声が注目を集めたのか徐々に客が集まってくる。


「こっちにもケーキをくれ」


「ずるいっ! 一人1個までよっ!」


 普段いい物を食べているはずの貴族や王族にも人気らしく、僕が用意したケーキはあっという間になくなってしまうのだった。







「エリク、少しお話したいことがあるのですが、よろしいですか?」


 ケーキが捌けてお役御免となっている僕にマリナさんが話しかけてきた。


「ええ、構いませんけど?」


 僕が了承すると皆が連れだって近くのテーブルへと連れて行かれる。そして…………。


「ルナ宜しく」


「わかった」


 ルナさんが魔法を唱えると膜のようなものが発生した。


「これは魔法による結界です。この中での会話は外に聞こえないし、外の人間は私達を意識することはできません」


「なるほど、便利な魔法ですね」


 マリナさんの説明を聞いて頷く。どうやら内密な話があるようだ。


「それで、そこまでして僕に話というのは? もしかして勧誘でしょうか?」


 先程のお菓子に対する反応から見るに僕をコックとして雇いたいとかだろうか?

 ロベルトやアンジェリカも僕の作るケーキに目が無いので、その手の誘いは多い。


 探索者を引退したらケーキ屋を開くのも悪くないかもしれない。

 そんなことを考えているとマリナさんが切り出してきた。


「実はですね、先日のアルカナダンジョン攻略なんですが、私達だけで成し遂げたわけではないのです」


 突然の言葉に僕は驚いた表情をする。


「そうなんですか?」


「私達は神話に登場する巨人を前に全滅する寸前まで追い込まれました」


「そこで、仮面の男女が現れた」


「その仮面の男が武器を取り出して巨人を仕留めやがった」


 マリナさんが、ルナさんが、タックが順番に説明をしてくる。


「なるほど、それはまた驚きの事実ですよ」


 僕がそんな感想を返すと三人の視線がますます僕へと向く。

 僕はその視線を避けるように顔を動かすとセレーヌさんと目があった。


 しばらく視線が交差していると彼女はとんでもないことを口にした。


「私達はその仮面の男をあなただと思っているんですよ。エリクさん」

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