第128話恩恵【鑑定】と【合成】
「まさかあの二人があんなことになっていたとはな……」
僕はあてがわれた自室に戻るとポツリと呟いた。
『他人の恋路を邪魔するなんてマスターは猛省すべきだと思います』
タックとセレーヌさんにアルカナダンジョン攻略のお祝いの言葉でも言っておこうと思って探していた。
見つけはしたもの、何やら深刻な顔で言い合っていたので、二人の友人として取りなさなければならないとタイミングを見計らっていた。
ところが、二人は言い争いを止めてなにやらいい雰囲気を出し始めたのだ。
「だから気を利かせてその場は引いただろ……」
二人の言い訳を聞き流して逃げてきた。祝辞は今度タイミングをみてしよう。
「それよりもこっちを片付けないとな……」
目の前に積みあがっているのはザ・ワールドで摂れた野菜や果物。キャロル産のオリハルコン・ゴールデンシープのミルク・カイザーの卵。
ザ・ワールド内で僕がもっとも重宝しているアイテム達だ。
『他にも魔石と蒼朱のツインエッジも出しておきますね』
「オリハルコンの丸太は……」
『それはスペースをとるから見送りましょう。あの巨人クラスと戦わないなら必要ないですし』
確かに、あの巨人クラスのモンスターが地上にゴロゴロしているとは思えない……。
僕は納得できないもののオリハルコンの丸太を諦めた。
「それにしてもアイテムボックスは不便だな」
今僕は手持ちの道具をアイテムボックスへと移している。それというのは……………………。
『マスター贅沢ですね。普通のアイテムボックスに比べて随分と大きいし、時間停止機能がついているんですよ? どこからどう見ても引っ張りだこになる恩恵です』
そんなふうにイブに説き伏せられるのだが……。
「そんなのイブのザ・ワールドの前には霞むからな」
『…………マスター』
何か気遣うような言葉に僕は少し反省すると。
「取り敢えず、必要なアイテムを入れたら新しい恩恵を試してみようぜ」
そう取り繕うのだった。
「よし、まずは無難なところからやってみようか」
まず取り出したのは【スタミナポーション】と【ライフポーション】。僕が作っているアイテムなのでもっとも入手しやすいものだ。
『マスターにしては大人しい選択ですね』
「そりゃ、能力の検証だからね。最初は確実に成功する組み合わせにするさ」
僕は両手を伸ばし、それぞれのポーションを掴む。そして……。
「【合成】」
次の瞬間、二つのポーションの姿が消え、テーブルの真ん中に一つのポーションが置かれていた。
『成功ですね。イブが調べましょうか?』
ザ・ワールド内には鑑定用の魔道具を購入してある。イブに送れば調べてくれるだろう。
「いや、こっちでやってみるよ……【鑑定】」
目の前のポーションに向けて鑑定を行うと必要な情報が入り込んでくる。
【スタミナライフポーション】……体力と生命力を回復させるポーション。回復値14999。
『ええっ! なんで増えてるんですかっ!』
僕の作るポーションの回復値は最大の9999だったはず、二つを合成すれば一本で二つの回復効果を見込めると予想まではしていたが、回復量が上がるのは予想外だった。
「まあまて、取り敢えず落ち着いてみよう」
そう言うと僕は【マナポーション】を取り出して横におく。
今度の実験は一度【合成】を使ったアイテムに更なる合成が可能かどうか……。
「【合成】」
使ってみた結果、ポーションは一つになった。どうやら二回目の合成も成功したようだ。
『マスター鑑定結果をお願いします』
イブに促されるままに鑑定をすると……。
【スタミナライフマナポーション】……体力と生命力と魔力を回復させるポーション。回復値20000。
「これは……もう色々壊れてて逆に面白いな」
王国一の錬金術師が作るポーションの20倍の効果。しかもこちらは同時に三つの回復が出来る。
こんなの手にする国があったら戦争で負けないんじゃないだろうか?
例によって僕はこのアイテムも自分で使う前提にして封印することにした。
「次に武器なんかも合成できるか試しておこう」
僕は自分で鍛えたショートソードを2本合成してみる事にする。
「【合成】」
慣れた手つきで合成を行いそのまま鑑定をしてみる。
「成功してるね。今までよりも切れ味が上がって、一つ上の硬度の金属と同等の威力になっているよ」
どうやら合成できるのはアイテムなら何でもいいみたいだ。
それからしばらくの間、僕は【ショートソード】と【スタミナポーション】などの種類が違うアイテムを合成してみた。
だが、効果が無かったり消滅してしまったりと失敗しまくった。
「装備品に関しては【種類】と【属性】なのかな?」
普通の皮鎧とスタミナポーションを合成したところ【持続体力回復効果小】というものが付与された。
身に着けていると少しずつだが体力が回復していくというものだ。
これを身に付ければ長時間の活動が可能になりそうだ。僕はただの布にこの【持続体力回復効果小】の効果を付けて服を作れば生活が楽になるのではと考える。
「いや、それはありえない」
『何でですか? このぐらいなら販売できる範囲だし、皆さん喜んでくれると思うんですけど?」
「イブはわかっていないな」
僕は前世での労働環境を思い出す。
疲労回復剤を支給してからの48時間耐久労働。
この効果を持つ服が出回ったら最初は大喜びするかもしれない。だが、その内気付くのだ……。
『これを装備させればもっと長時間働いても平気なんじゃないか?』
そうなると労働基準法がないこの世界だ。ありとあらゆる労働者は酷使されるに違いない。
『は、はぁ……。そんなものですかね?』
熱く語る僕に困惑気味に返事を返す。
「よって、僕はこれを世に出さない」
そう宣言するのだった。
『それにしても今見た感じだと【種類】×【魔法】の関係性に見えますね』
僕が落ち着くとイブがこれまでの考察を述べる。確かに言われてみれば合成して残っているのは魔力を使った効果が多い。
『だとすると、魔石なんかもいけるんじゃないですかね?』
「魔石か……でも、この先を考えると今は消費したくないな……」
『まあ、不安にはなりますよね』
組み込むということはその分手持ちの魔石を失ってしまう。それはこの先を見据えると得策ではない。せめて使い道のない物であれば…………。
「あった!」
『えっ? 何がですか?』
「組み込む魔石だよ。それなりに魔力がありそうで、それでいて使い道が無いのが」
『これですね!』
僕の言葉にピンと来たのか、イブが魔石を送ってくる。
「取り敢えず、ある程度の装備は試したからあと残っているのは……」
僕は以前にⅦランクダンジョンで手に入れたマントと、クリスタルバードの魔石を手に取った。
『どうせ合成するなら有用なアイテムにですね。流石マスター効率的だと思います』
「さて、どうなるかな……【合成】」
『マスター……これって……』
「ああ、うん。どう考えてもお蔵入り確定だよな」
目の前にある青く輝くマント。それをみた僕とイブはこれまで以上の速さでそのマントを封印することにした。それと言うのも…………。
【空飛ぶマント】……魔力を使って空を自由自在に飛ぶことが出来る。
その効果からして厄介ごとを引き寄せるとわかっているからだった。
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