第116話星降りの夜1日目

 空は星々が輝き月明かりが優しく雲を照らす。

 地上では焚火の煙があがり、その周囲を武装した人間達が囲っている。


 その場にいるのは総勢667名。今回のアルカナダンジョン探索を志願した者達だ。


「まもなく星降りの夜となります。アルカナダンジョンへの入口が開かれましたらあらかじめ決められたとおりに入場をお願いします」


 係員の男の声に異議を唱える者はいない。これだけの人数がいながら誰一人声を出さない様子に不気味な印象を覚える。誰しもが緊張に口を結んでるのだ。


 それから暫くすると天が白く輝きだした。


「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」


 この時ばかりは待機していた人間達もその光景に圧倒され空を見上げる。

 まるで昼間のように空が輝き、星々がダンジョンの上空に降り注いでいく。間近から見上げるその光景に探索者達は目を奪われていたのだ。


 そして、光がいったん止むとダンジョンを閉じていた入口がゆっくりと開き始めた。


「それでは入場をお願いします。例年によると入り口には既にモンスターが溜まっているはずです。先陣を引き受けて下さったのは【グランドクロス】【テンプルウォーリア】【ロストマジック】です」


 それは去年から召喚されたままなのか、それとも最初の試練とでも言うべきか。到底一人では圧しきれない量のモンスターが入り口に殺到しているらしい。


「皆。慌てることなく打ち合わせ通りにやればいい。私達ならば犠牲を出すことなく進路を開くことができるはずだ」


「例えどれだけの重傷を負ったとしても私がいる限りは安心してください。必ず治して見せます。神の加護は常にあなたたちについています」


「どれだけのモンスターがいようとも魔法の前には無力。ただ一撃で全てを薙ぎ払え。我らが研鑽を重ね魔力を磨いてきたのは今この時のため。遅れをとることは許さん」


 それぞれのリーダーがメンバーを鼓舞すると。


「「「「「うぉおおおおおおおおおアーク様ああああああ」」」」」


「「「「「聖女フローラ様万歳ーーーー!!!!」」」」」


「「「「「我ら魔道士はロレンス様と共に!!!!」」」」」



 士気が最高に高まると彼らはダンジョンへと突撃していった。





「いいか、まずは押し寄せるモンスターを排除してダンジョンの一角にベースを建てるんだ!」


 アークは叫びながらも目の前のモンスターを斬り倒していく。

 既に最初の1波を受け止めて反撃にでている。


「誰かが極大魔法を放ったお陰でこうして被害を最小にすることができた。こんなところで脱落するような人間はいないと思うが各自注意して対処しろ」


 例年であれば多少の犠牲を出さなければならなかった序盤。

 アークも自分のクランから数名は犠牲がでるかと考えていたのだが、開幕と同時に何処からともなく広範囲に火炎が降り注いだのだ。

 威力こそモンスターを即死させるほどのものではなかったのだが、とにかく範囲が広く、遠くにいるモンスターにまで被弾したことで敵の混乱を誘うことができた。


 お陰で最初の衝突で相手の陣形をくずことができ、探索者達を一気にダンジョン内へと進めさせることができたのだ。


「団長。予定のポイントまでの経路を確保しました。生産職を連れてきます」


「わかった。俺達はベースの安全を確保しつつモンスターの討伐を始める」


 ダンジョンが開いてからそろそろ数時間。入り口は明け方と同時に閉じてしまう。想定していたよりも猶予時間があるもの、タイミングを逃す手はない。

 アーク達は数日前に勧誘した学生達を招き入れた。


「よし、君達の出番はあとになる。設備の設置をしたら後方で休んでいてくれ」


 一応戦闘系の単位もとれる程度に武器は使えるようだが、今回は鍛冶と錬金を見込んで引き抜いた学生達。その表情は初の実戦と言うこともあってか青ざめているようだ。


「安心してくれ。俺達はこの程度のモンスターとの戦いには慣れている」


 事実。アーク達はランクⅦのダンジョンすらも攻略しているのだ。


「よし、雑魚モンスター相手にメイン武器は勿体ない。各自クランで仕入れた量産武器に持ち替えてくれ」


 まだダンジョンが開かれて序盤だ。攻撃力の高い武器は後半まで取っておきたい。アークは部下たちに指示をだした。







「はぁっ! くたばれっ!」


 確かな手ごたえと共にモンスターを斬り裂いた。

 今戦っているのはEランクモンスターのビッグラットだ。犬程の大きさなのだが、数が多くすばしっこい。

 強敵では無いが、数が多いので休むことなく戦闘をする必要がある。


「それにしても中々良い武器だ」


 多少の余裕ができたところでアークは得物を見つめる。

 先日、売り込みに来た商人から格安で大量購入した武器なのだが、これほどの武器が量産品とは信じられない。


 事実、部下たちも武器の切れ味のおかげでかなり余裕がある。


「これはこのダンジョン攻略が終わったら、あの商人を勧誘した方がいいかもしれないな」


 これだけの武器をあの値段で仕入れてくる手腕は是非クランに欲しい。

 アークがそんな皮算用をしていると…………。


「あの、私達も手伝いましょうか?」


 目の前には白の鎧を身にまとった少女と魔道ローブを身に着けた少女が立っていた。


「マリナ王女にルナ王女。貴女達の出番はまだ先です。どうか休んでいてください」


 マリナとルナはアークのクランに勧誘をされその申し出を受けていた。

 そしてダンジョン攻略にいてもたってもいられずにベースから出てきたのだ。


「この程度のモンスターは二人の力を借りるまでもありません。数日後からモンスターが強くなりますのでそれまで英気を養っていてください」


 模擬戦で確認したところ、彼女達の実力は現時点でもこのクランの最高戦力だ。

 であるならば、序盤で疲弊させるのは勿体ない。もう少し強いモンスターと戦ってもらうべきだ。


「そうですか。それなら構いませんが、約束の件忘れないで下さいね」


 自分達を温存しようとするアークにマリナは念押しをする。

 何故自分達がここにいるのか、それはアルカナダンジョンを攻略する為なのだ。


 そのためにマリナとルナは今回挑戦する中で最も戦力が整っているグランドクロスへと参加したのだ。

 これで最終まで出番無く攻略を完了させられては目的を達することができない。


「勿論です。ですが、本当に思っているよりも順調すぎるので出番は遅れるかもしれません」


 序盤が想定よりスムーズに攻略できているのを感じたアークはマリナとルナに言うと自身もベースへと引き上げて行くのだった。

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