第111話続続・順調な進行具合

   ★


 浜辺から打ち寄せる波の音を聞きながら会議が開かれる。

 通常は週に一度の会議もこの時期ともなれば島外からの来客のせいかトラブルも多い。

 なので、数日に一度はこうして会議を行っているのだ。


「――というわけで、現地のライセンス持ち探索者と講師の小競り合いが数件、あとは学生が街中で数件トラブルを起こしたぐらいですんでいます」


 報告内容は概ね予想通りだ。

 島で活動している探索者達には縄張り意識が根付いており、この時期に訪れる外来に対し喧嘩を売るような連中も存在する。

 運営としてはどちらも島の利益を上げるための重大な人材なので仲良くやって欲しいと思うのだが、人間の感情はそう簡単に割り切れるものではない。


「そうか……。では揉めた双方にはペナルティを与えて置いてくれ」


 事前に忠告しているので仕方ない。容赦なく議員が言い渡すと若手の議員は頷いた。


「それでは次に経過報告を致します。昨日の6日目終了時点での単位取得者の報告です」


 先程の話は終わりとばかりに若手議員が話を変えてくる。

 他の議員たちも面倒な事件の話よりも生産的な話に興味があったのか、椅子に浅く座り直すとテーブルに手をついて表情を引き締める。


「現在の単位取得者は6個が5人、5個が7人、4個が23人、3個が85人です」


「ほう、この時点で5人か。その中には【魔剣士】【剣聖】【大賢者】【聖女】がいるのか?」


「……ええ。彼らは優秀な成績でそれぞれの教科をクリアして危なげなく単位を取得していますね」


「そうだろうな。今年の招待講師に実績で及ばぬが、現時点で高ランク探索者クランに混ざっても活躍できる連中だ。星降りの夜にも当然参加するだろうし、Sランク探索者達と組ませたらアルカナダンジョン攻略も夢では無いかもしれぬ……」


 そう言って夢想する議員を遮って1人の議員が挙手をする。


「1つ気になったのだが、今年の6日目の時点で3個単位を取得している生徒が多すぎないか? 例年であればこの半分にも満たないはず。基準が甘いのではなかろうか?」


 その質問に若手議員は書類をパラパラとめくると……。


「その事についてなのですが、私も不思議に思ったので調べてみましたところ、主に生産系――【鍛冶】【錬金】【調理】の単位取得者が多いようです」


「講師に後ろ暗い部分は?」


 特定の専門科目で合格者が多数存在するとなると疑うべきは収賄だ。

 実力の足りない貴族の子息が将来への箔をつけるためにライセンスを売ってくれと持ち掛けてくる話は偶にある。

 今回は講師を抱き込んでそれを行っているのではないかと疑うのだが……。


「そう思いましてこちらをお持ちしました」


 指をパチンと鳴らすと扉が開きカートが押されてくる。


「ほう、これは中々の武器やポーションだな」


 伊達に長い間この島で暮らしていない。元探索者の議員たちにとって武器の良し悪しぐらいは出来て当然なのだ。


「これは授業の一環で学生たちに作らせた物です」


 言葉で言っても伝わらないと思ったのか、若手議員はこうした作品を見せることで他の議員に説明して見せた。合格に不正が絡んでいないと。


「なるほど……。今年は偶々生産が得意な生徒が集まったということなのか……」


 得意科目がある程度ずれるのは良くある話。今年はそのブレ幅が例年よりも大きかっただけだろう。議員達はそう考える。


「話を止めて済まなかったな。いずれにせよライセンス取得学生に打診をしっかりしておいてくれ」


 その言葉を最後に会議は終了した。



   ★


「うん。だからハンマーを振り下ろす時にはやみくもにじゃなくて熱による色の変化を感じ取るんだ。…………こう叩くと音が違うでしょ? この音を覚えておいてよね。良い武器を作るのに必要なのは1に材料2に環境3に職人の腕なんだ。毎日ハンマーを振るうえで音にも耳を傾けて経験を重ねること。遠回りなようだけど良い武器を作る近道だからさ」


「「「「「「「「「「なるほど」」」」」」」」」」


 目の前の学生達が真剣な表情でメモを取っている。彼らは本日の鍛冶の授業で一緒だった者達で、惜しくも単位を逃した人間だ。

 更に付け加えるなら4日目の錬金から一緒に授業を回っている生徒が多い。


「やっぱりエリクさんに教えてもらうと解りやすいです」


「本当にな。ツボを押さえているというか、言ってることが頭の中でカチリとはまて『おおなるほど』って思うんだよな」


 彼らが4日目に錬金を教えて帰る際に「明日は何の授業を受ける?」と聞いてきたので答えた。すると「じゃあ私達もエリク君と一緒がいい」と学友みたいに親し気な態度で言ったのだ。僕はその距離感に戸惑いながらも翌日の同行を承諾した。


 そのせいもあってか毎日質問攻めを受け、ここ最近は指導のようなことをしているわけだ。


「あっ……と、僕はそろそろ行くね。今日の授業で知り合った人達が錬金と調理で質問があるみたいでさ」


 皆で色々作るのは楽しい。時には失敗してみせたりもするが、その失敗話も笑いのネタにして場が盛り上がる。学生らしい青春を送っているなと頬をほころばせていると……。


「うん。ありがとうねエリク君」


「師匠。感謝してるっす」


 その場の全員が一斉に頭を下げて感謝を伝えてくれた。


 やや恥ずかしく感じながら僕は鍛冶場を出る。

 彼らの技術は確実に上がっているので明日こそは単位を取得できるだろう。


 あとは錬金と調理だが、学生レベルでの合格点なら僕でもなんとか教えることができる。

 僕は他の学生が詰まっている部分をアドバイスする為に駆け回るのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る