第110話続・順調な進行具合

   ★


「本日の会議を開始いたします」


 波の音が聞こえる浜辺近くの会議室で穏やかな気候の中会議が行われいた。

 参加しているのはアスタナ島を代表する議員達でいずれも探索者を引退した者達だ。


「そういえば招待から数日経ったな。学生達は頑張っているのかな?」


 必死に勉学あるいは訓練に励む学生に自分が若かりし頃を重ね目を細める。

 こうした感慨にふけってしまうのも自分が年を取った証拠かと思い笑みが浮かびそうになる。


「ええ。3日目終了時点で全参加者200名の内39名が3単位を取得しています」


 会議を進行している若手の議員はその質問につらつらと答えた。


「ふむ、例年通りというところか」


 大抵の学生たちは自分が得意とする授業から取り組んでいく。なので最初の数日が最も単位を取得する学生が多いのだ。


「【魔剣士】も【剣聖】も【大賢者】も噂に違わぬ圧倒的な力を見せつけて単位を取得したようですね」


「他には磨いて光りそうな学生はいるのかね?」


 他の議員も興味を持ったのか若手議員から情報を得ようと身を乗り出す。


「ええ、他にも粒ぞろいですよ。アルバト王国の学生は剣技の授業では魔剣士と剣聖に次ぐ成績を出しておりますし。攻撃魔法の授業ではシール公国の学生が大賢者を相手に善戦したとか。また回復魔法の授業では最近【聖女】になったばかりのモカ王国の学生が訓練で怪我を負った重傷者を即座に癒して見せたそうです」


 その報告に議員たちは満足げに頷く。


「まあ中にはギリギリ単位を取得している者もいるだろうから豊作とは言えないが、こうして若者が育っているのを聞くと安心できるな」


 なんだかんだ言いつつもここは世界の頂点と言っても差し支えがない場所だ。

 今回の招待者の中からいずれはこの島のダンジョンに潜ることを生業にする人間も出てくるはず。

 そうした人物が活躍しないことには島のダンジョン攻略速度も保てないのだ。


「もし順調に単位を取得してD級ライセンスを得られれば参加資格を得られるのだな」


 議員の言葉に若い議員は頷く。


「ええ、せっかく年に1度のイベントですからね。当人たちが希望するようなら参加させてみようかと思っています。もっとも、今年の参加者にはあの3人がいますから脇役になるでしょうけどね」


 彼らはそれが目的で今回の講師依頼を受けたのだ。


「そうか……今年の【星降りの夜】こそ期待したいものだな」


 その言葉にその場の全員がしんみりとした雰囲気を出す。

 かつて多くの探索者や冒険者が挑み大怪我を負いながら帰還、もしくはそのまま……。


「私は予感しているのだよ。今年の【星降りの夜】――数多の星々が降り注ぐこの期間にのみ封印が解かれる【アルカナダンジョン】を今年こそ誰かが攻略してくれるのではないかと……」



   ★


「はっくしょん!!」


『大丈夫ですかマスター?』


(うん、ちょっと鼻が刺激されただけだから平気だよ)


 今は4日目の授業が終わったところで、僕は錬金の授業を受けていた。


「それでエリク君。回復量を決める魔力の注入についてなんだけど」


 とある女生徒が僕に質問をしてくる。本日の授業で隣に座っていた他国からの招待学生だ。


「ああ、うん。ポーションの成分を抽出してから魔力を込められる時間はほんの少ししかないんだ。だからあらかじめ魔力を身体中から集めておいて一気に……こうっ!」


 目の前で後処理をするだけになっていたポーションに魔力を注いで見せる。


「そうすると今の自分が作っているポーションより1つ抜けたポーションを作れるんだ。もっともこれをやると魔力の消費が多いから普段よりも数は取れない。だから貴重な材料の時はやったほうがいいぐらいだね」


「うん解った。ありがとね」


「エリク。終わったらこっちきて教えてくれ。野生のブラックビーンズの見分け方と収集方法なんだが……」


「エリクさん。私も教えてください」


「わかった。順番にね……」


 何故僕が教えているのかというと、錬金の最後でやらかしたからだ。

 元々、エクレアさんの病気を治す目的で錬金を独学で勉強していた僕は本日の授業で作る予定のポーションを独自に考えた方法で作ってしまったのだ。


 そのせいで効果が跳ね上がって講師の人から「あなた天才よ」と大層驚かれてしまい、授業が終わったあとで他の学生達が殺到して質問をされたのだ。


 流石は優秀な学生ということもあり僕が独自に考えた効率的なポーション作成の理論を説明すると「それはこの作用に影響があるから矛盾していないか?」などと鋭い質問も飛んできた。

 その質問に答えつつ実際に作ってみせ、他に手間取っている人間に作業のアドバイスをしたところ改善が見られた。

 お陰で今はこうして居残った生徒達の面倒を見ているわけだ。


『マスター楽しそうですね。他人に教えるのって面倒なんじゃないですか?』


(そうでもない、僕はこういう研究熱心な人間が好きだからね。真面目に取り組む様子は見てて好感が持てるし。鋭い質問を精査すればもっと良い方法を思いつくかもしれないし)


 時には他の学生のやり方をみてその技術を生かせるか考えたりもしている。ここにきて僕は充実感を覚えていた。


『……まあいいですけど。この調子だと残り2日も繰り返しそうなので身体だけはきっちり休めてくださいよ』


 何故か呆れた様子で予言をするイブの言葉を聞き流すと僕は学生間交流を楽しむのだった。

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