第109話順調な進行具合
「……ふぅ。これで3つめ……っと」
訓練場を出ると僕はカードを眺めてそう呟いた。
『流石マスター。余裕の勝利でしたね』
単位取得を示すハンコを確認するとそれを懐にしまう。
「まあ、いまさらそこらの学生に負けるってのはないよな」
本日受講したのは【槍技】の授業だった。
午前中で基本的な槍の扱いについて学び、午後からは実戦を行った。
槍に関しては完全な素人の僕だが、身体能力が高いおかげか技術を習得するスピードが早かった。
先日【斧技】と【弓技】の授業を受けたのだが、最初は何となく武器を扱っているだけだったのだが指導者の動きを真似ているうちにどうしてその動きが有効なのか分かるようになっていった。
それぞれの得物に対して効率的な動きをすれば後は持っている筋力や敏捷性により威力は補正される。
午後の実戦の訓練も、最初こそ動きはぎこちないが相手の動きをよく見て余裕を持てばあっさりと隙が見つかった。
そんなわけで訓練の最後にあった実戦も見事勝利を収めたのでこうして単位を取得できたわけだ。
『これで目標の半分は達成ですね。ライセンスに拘らなければもう遊びに行ってもかまわないかと思うんですけど』
例年の学生の取得単位の平均は3つ程度らしい。なのでここで手を抜いてもかまわないとは思うのだが…………。
「ライセンスがあればいつでもこのアスタナ島で活動できるみたいだからな。面倒ではあるが今のうちに取った方が効率がいい」
なんでも例年であれば6個取得した人間に【D級ライセンス】を与えているらしいのだが、今年はその上があるらしく9個で【C級ライセンス】12個で【B級ライセンス】までもらえるとか。
B級ライセンスは島への貢献度がかなり高くなければもらえないライセンスなので、この機会に取っておけるならそれに越したことはない。
『でもこのB級ライセンスって完全に見せ報酬ですよね』
イブの言葉に僕は頷く。
今回単位をもらえる授業は全部で20ある。それらは4つの分野に各5種類の授業が用意されている。
武芸……【剣技】【槍技】【斧技】【弓技】【格闘技】
魔法……【攻撃魔法】【回復魔法】【補助魔法】【召喚魔法】【特殊魔法】
生産……【鍛冶】【錬金】【装飾】【農業】【調理】
補助……【罠】【魔法陣】【指揮】【歌】【ダンス】
武芸などは単純に身体能力が高く技術さえ習得すればクリアできる。
探索者を目指す人間は大抵武芸のどれかを学んでいるのでクリア数がもっとも多いのが武芸になる。
だが、武芸を扱ってる人間が魔法や生産を習得するかといえばそれは厳しい。
この世界は【恩恵の儀式】のおかげで15歳になると自分が才能を発揮できる恩恵を1つもらうことができる。
そして恩恵を使っていけばツリーのようにスキルが発現し技能が使えるようになるのだ。
だが【剣士】の恩恵を持つものは覚えても大抵が【罠感知】や【マッピング】など補助系のスキルを覚えるのでその他の分野違いのスキルを身につけるには並々ならぬ努力が必要となるのだ。
この世界においてツリーに出現しないスキルを会得することが可能か不可能かで言うと可能だ。
例えば幼少の頃より訓練をしており、恩恵の儀式の前から【魔法】や【剣技】を習得しているような人間も多数存在する。
タックやマリナさんやルナさん。他にもロベルトなども幼少の頃より厳しい訓練をしてきたのだ。
「まあ普通に考えて僕らぐらいの年齢の人間ならできても6つまでだよね」
幼少頃から訓練をして自分で開いたスキルを3つ。他に恩恵によって開花した能力とツリーによって発現したスキルで3つ。
つまりこの年でD級ライセンスというのは英才教育を受けてきた人間が恩恵を授かったあとで並々ならぬ努力をして到達するレベルなのだ。
そこにあと3つや6つ単位が加われば上級のライセンスが手に入ると言われても、普通の人間ではまず無理だろう。
『マスター以外で可能そうなのはタック王子にマリナさんにルナさんですかね?』
「そうだな。彼らは王族の中でも血筋が特殊だから幼少の頃から戦闘訓練を受けているだろうし」
タックは【魔剣士】なので武芸と魔法について強いはず。生産するような性格ではないが補助系を習得していればそれだけで条件をクリアできそうだ。
マリナさんは【剣聖】ということだが、世に知れている剣聖という存在はその恩恵で身体能力の上昇の他に聖魔法を取得することができる。補助魔法で自分にバフを掛けたり、回復魔法で自分を癒したりできるので継戦能力が高いのだ。まさにチート職。
高い身体能力に加えてバフ効果もあれば武芸は総なめできるし、魔法もいくつかクリアできるだろう。彼女は間違いなくライセンス取得可能だろう。
ルナさんは言わずと知れた【大賢者】だ。この恩恵のチートなところは一度見た魔法ならば再現可能という恐ろしさ。多種多様の魔法を扱うには魔力が必要で魔力総量により威力が上下するのだが、彼女の様子をみるに恐らく膨大な魔力を秘めているに違いない。
補助の【歌】や【ダンス】は魔力を乗せて周囲にバフ効果や敵にデバフ効果を与えるスキルなので、それすらも操ってしまう可能性がある。
他にも魔法全部を扱えるということならいくらでもやりようがありそうなので彼女が一番多くの単位を取得できるのかもしれない。
「本当にとんでもない連中だよな……」
あまりのチートっぷりに僕がぼやきを発すると。
『マスターには言われたくないと思ってそうですけどね』
イブが野暮な突っ込みをいれるのだった。
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