第108話【聖騎士】×【聖女】×【大魔導士】
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煌びやかな明かりが差し、豪華なドレスと燕尾服を纏った男女が躍る。
その大半は若人で、彼らは島に招待された学生達だ。
島から歓迎を受けて舞踏会に参加しているのだが、その若々しさが眩しく各々が他国の学生との交流を楽しんでいた。
そんな中、フロアの一角で数人の男女が話をしていた。
「今年も始まりましたね」
そう呟いたのは黄金の鎧を身にまとった20代半ばの金髪の男。
鍛え上げられた肉体は見るものが溜息を漏らすほどに素晴らしく、無駄な贅肉は一つもない。
「聖騎士アークさん。今宵は舞踏会ですわ。そのような鎧はお脱ぎになった方が周囲の女性も喜ばれましてよ」
そう言ったのはシルクに金刺繍を施した聖衣にコアをちりばめたティアラにペンダントを身に着けた20歳ほどの女性。
「聖女フローラ。私にとっての正装はこの鎧以外にはあり得ませんから。これでも人気なのですよこの恰好」
そう返事をしたアークの言葉を別の人物が受け取る。
「どちらでもいいさ、ドレスで身を包もうと鎧で武装しようと。大事なのはお前たちがここにいる目的だろう」
複雑な紋様を編み込まれたローブに身を包む30を超える男だ。
その鋭い視線は二人を見据えると値踏みをしているように見えた。
「そういうロレンス師こそどうしてこちらに? 大魔導士と呼ばれるほどの方がわざわざ教鞭をとる程ではありませんよ?」
フローラの探るような微笑みを受けロレンスはワインをあおると。
「その言葉をそっくり返すぞ聖女殿。神殿には今も多数の難病や怪我人が運ばれているはずだ。そちらの治療をしないでよいのかね?」
そんな皮肉をフローラはほんのりとかわす。
「お陰様で、後任の【聖女】も何名か選出されておりますので、その子たちが頑張ってくれているおかげでこうして外出ができますわ」
一瞬緊張感が支配する。この場にいる3人は周囲からの注目を集めているが誰も近寄ってくる気配がない。それというのも彼らが常人には近寄りがたいオーラを発していたからだ。
「まあこのような場に集う理由をいまさら言うのも野暮というもの。何せ我々は――」
ロレンスは周囲を見渡したのちに言った。
「——Sランク探索者なのだからな」
この世界には超一流と呼んで差し支えがない恩恵を所持する人間が存在する。
それらの人間は世界中から認められSランクの称号を貰っている。
こうして話をしている3人は世界中に100人も存在していないSランクの人間だ。周囲の人間はその気配に圧倒され話しかけることができなかった。
それぞれのプロフィールは以下の通り
・Sランククラン【グランドクロス】団長【聖騎士】アーク
・神官戦士団【テンプルウォーリア】代表【聖女】フローラ
・Sランククラン【ロストマジック】筆頭【大魔導士】ロレンス
いずれも世界をまたにかける巨大組織であり、その代表ともなるとその影響力は絶大だ。
「いずれにせよ我々が集った目的は同じだろうよ」
ロレンスの言葉に二人は頷く。
「今年の招待客には【魔剣士】や【大賢者】に【剣聖】がいますからね。彼らを勧誘して組織に取り込もうとするのが一つ目の目的」
そう、大物である自分達がこうして教鞭をとるためにアスタナ島の要請にこたえているのは将来有望な人物をヘッドハンティングする為という理由が大きい。
「だがやつらは全て王族だ。そう簡単になびくことはなかろうて」
その言葉にフローラは頷く。
だが、世の中何が起こるかは解らない。今のうちに伝手を作っておけば将来味方に引き込むこともできるかもしれない。
「そうですね。それに今のうちに実力を確認しておけばもしかすると近い将来役に立つかもしれないからね」
「そうですね、もう一つの目的の…………」
アークの言葉を受けてフローラが頷く。
「星降る夜の日に……」
その言葉をロレンスが引き継ぐ。
「我々のいずれか、もしくは予想外の人物が……」
最後の一言は誰が発したのか……。
「……伝説を超えることになるかもしれない」
誰の耳に入ることなく喧騒に消えていった。
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