第104話双国の宝石姫
「お前らがあの【双国の宝石姫】かよ……」
「ん……? なんですかそれ?」
壮大な名前が出てきたので先程まで斬り合っていた相手だというのについつい質問をしてしまう。
だが、僕の質問に答えたのは金髪の女の子――マリナ=アナスタシアだった。
「私のアナスタシア王国とルナのシルバーロード王国は祖先が同じで両国は隣接しておりますから。双国の人間達が勝手に広めた名前です。できればその名前で呼ばないでください」
そう言うとマリナさんは僕らを見る。
「ナンパから助けていただいた恩もありますので名前を教えていただけませんか?」
そう言うと剣を鞘へとしまう。
刀身は鏡面のように磨かれた銀色で素材はミスリルだろう。真ん中には樹木の根のような模様が淡いブルーで描かれている。こちらはヴィライトの輝きだ。更に注目するのは刀身の根元の赤い宝石……。
『マスターも気付きましたか。あれダンジョンコアですよ絶対』
流石は王家の人間だけあってか装備品1つ取っても凄い。
身に着けている武器や防具の殆どにダンジョンコアが付いている。
滅多に存在しないが熟練度を上げまくった【付与】の恩恵持ちは高ランクのコアを装備品に付与することができるのだ。きっと熟練の付与士に作らせたのだろう。
「俺はアトラス魔国の第一王子で【魔剣士】のタック=アトラスだ」
そう言うとタック王子も剣を引いて見せる。
黒い刀身はモルバイト鉱石を削り出したもので刀身の根元には深緑のコアが嵌め込まれている。緑系のコアは補助的な能力が多いのでついつい期待の目でみてしまいそうになる……。
「ほら。ルナもお礼を言わないといけませんよ」
マリナさんに促されたのかルナさんがマントをはためかせると近寄ってくる。
彼女の右手に持つ杖は樹齢数千年を超える月光樹の枝を切り出したもの。拳大の月のような色合いの石が嵌め込まれている。
「……ありがとう」
どこか眠たそうな声がする。これがさきほど雷魔法を放った相手だとにわかに信じがたい。だが【大賢者】の名は伊達ではないのだろう。見た目で油断すると痛い目に合いそうだ。
『流石王族。全員がコアまみれです。いいないいなー』
顔を見なくてもわかる。イブの目は現在ハートが飛んでいるに違いない。
(いくら欲しがっても無理だからな。それぞれの武器を見る限り相当大切にしているみたいだし)
コアが欲しいのはやまやまだが、倒して奪うわけにもいかないのだ。
『ううう。せめてコアが売ってればよかったのに……』
楽しみにしていて1つも手に入らなかったのがショックなのかイブは落ち込んでいる。そんなイブから思考を逸らすと…………。
「ん?」
何故か3人揃って僕を見ていた。
「それで、あなたの名前は?」
どうやら僕も名乗る流れだったらしい。
ナンパ男に対して助けたのはタック王子で僕はそのタック王子に勘違いで襲い掛かられただけだ。お礼を言われるようなことは何1つしていなかったのでスルーしていた。
「僕は、エリクです」
他の3人に比べると凄く短い自己紹介だった。
何処にだしても恥ずかしくない純粋な平民なので家名を持ち合わせていないのだから仕方ない。
「他にもあんだろうがよ?」
「他……ですか?」
タック王子が何やら睨みつけてくる。僕は首を傾げて意図を探ろうとするのだが……。
「【魔剣士】と対等に渡り合い【剣聖】に鋭い1撃を放ったのです。恐らくですが何らかの異名をお持ちなのではないですか?」
マリナさんが質問の意味を教えてくれた。
「そんなものはないです。平凡な両親から生まれた普通の村人なもんで」
この場の全員がロイヤル方々なので出来るだけ穏便に立ち去りたい。僕は既に目を付けられているだろうと薄々感づきながら真実を述べるのだが……。
「ふざけんなっ! 俺の【魔剣士】の名はこっぱの雑魚に打ちのめされる程弱くねえ」
「同感です【剣聖】を斬撃で少しでも動かせた人間がただの平民であるわけありません」
「………………何者?」
三者三様に警戒をするのだがそんな大層な名前で呼ばれたことは無いしどうすればいいのか……。
僕が答えを返さないでいるとマリナさんの探るような視線が変わる。
「まあいいです。本当の力についてはその内わかるでしょうし」
「えっと……どうしてでしょうか?」
マリナさんの意味深な言葉に僕は質問をすると。
「その制服はモカ王国の王立総合アカデミーのものですよね? この時期にこの場所にいるということはタック王子も私達も理由は同じはず」
「ということはタック王子様もマリナ王女様もルナ王女様もアスタナ島への招待客なんですか?」
他国の制服を言い当てるなんて恐ろしく記憶力が高い。剣聖という話だが、王族だけあってかかなりの切れ者でもあるようだ。迂闊を晒すのは不味そうだ……。
「タックでいい……」
「えっ?」
「その……ナンパ野郎と間違って斬りつけたのは悪かったよ」
どうやら間違って斬りつけたことにたいするお詫びらしい。見た目は怖そうで誤解しそうだが、ナンパから助けようとしたのだ。悪い人物ではないのだろう。
気まずそうな顔をしているタックに僕は満面の笑みを浮かべて気にしてないことを伝える。
「ああ、あれくらいは問題なかったので平気ですよ」
むしろレベルの高い良い訓練ができたとすら思っている。
中々いないのだ。同世代であれほどの動きをする人間というのは。
僕の気にしてないアピールが微妙に通じなかったのかタックは……。
「…………ちっ。次は負けねえからな」
何故か謎の宣戦布告をされた。
僕がどういうことなのか首を傾げると……。
「中々面白い人ですねエリク」
マリナさんも口元に手を当てて笑う。そして……。
「私のこともマリナと呼んでください」
「……ルナで良い」
そう言うと握手を求めてくる。僕は3人とそれぞれ話をしつつも…………。
『ほら早速トラブル起こした。これ絶対島でも巻き込まれますよ』
イブの不吉な予言を聞き流すのだった。
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