第94話オリハルコン買取

「うぅーーーん。これはちょっと時間がかかりそうですねぇ」


 タートルネックのセーターの上から白衣を身に着けたイブは目の前に置かれた虹色に輝くコアを注視するとそういう。


「流石にランクⅦのコアは別格か」


 僕はいつものようにイブにコアの解析を頼んだのだが、解析はランクが上がるにつれて時間がかかるのだ。

 これまでは用事を済ませている間に解析してもらっていたのだが、この言い方ではかなりかかるだろう。


「わかった、じゃあイブは解析に専念してくれ」


「了解でーす。マスターはどうされますか?」


 その言葉に少し考える。

 イブは解析に手が一杯になるだろう。そうするとアカデミーに戻るのは無理か……。

 何故なら【飛翔】を使うからには風魔法でシールドを張ってもらう必要があるのだ。

 まだ日程に余裕があるとはいえそろそろアカデミーに戻っておかなければ、誰が寮の僕の部屋を訪ねてきているともわからない。


 長期休みの前なのでアレスさんやエクレアさんからの誘いがあり、アンジェリカが来ている可能性は高いのだ。

 断ると一家そろってとても寂しそうな顔をするので、アスタナ島に行く前に一度顔を出しておくべきだろう……。

 とはいえ、現状はランクⅦコアの解析が優先される。


「じゃあ、僕はこの杖を直す方法が無いかマジックショップにでも行って考えてみるよ」


「わかりました。幻惑魔法必要でしょうか?」


 わざわざ聞いてくるということは今回のマルチタスクはきついのかもしれない。僕は逡巡すると……。


「いや、オリハルコンの小粒とかこまごましたアイテムを売るつもりだけど、そのぐらいなら変装しなくてもいいよ」


 実際、ランクⅥのコアぐらいはこの姿でも買っているのだ。隣国なのだしイブに負担をかけてまで変装をする必要はないだろう。


「それじゃあ、あとは頼んだ」


 僕はそう言うとザ・ワールドを出た。





「お待たせしましたエリク様」


「あっ、はい」


 パリッとしたスーツに身を包んだ恰幅の良い男性が話しかけてくる。

 僕は座り心地の良かったソファーから腰を上げるとその男性に向かい合った。


「お預かりしましたオリハルコンですが、鑑定の結果本物でした。是非、当銀行で買い取らせて頂きたいと思います」


 目の前にいる男性はこの銀行の支店長を名乗っていた。


「それは良かったです。実家の倉庫を整理していたら出てきて……もしかしてとは思ったんですけど。これで小屋を新築させられそうでほっとしました」


 僕は安心した演技をして見せた。

 何故、銀行なのかというと、オリハルコン程の希少価値の高い金属は銀行で通貨にされるからである。


 一応、鍛冶屋でも取り扱ってはいるのだが、希少金属で装備を作る人間は少ない。在庫を持つにしてもインゴット1つで家が建つので、どこも手元に置きたがらないのだ。


 そんな訳で、希少金属の買取は基本的に銀行を訪ねることになる。


「それはそれは……それにしても、エリク様の家は余程大きな商家か貴族でしょうか? これまでもこの国で家の倉庫からオリハルコンのインゴットが出てきた話は聞きますが、この量は中々ありません」


「祖父が現役時代は高ランクダンジョンに挑む探索者だったみたいで、家の倉庫に放り込んだまま忘れていたようです」


 実際、Sランク探索者であればクラン単位でのランクⅦ挑戦は耳にする。この程度の嘘なら見破られる可能性は低いだろう。


「なるほど。そうでしたか…………。それではお支払いは現金でお持ちしますか? 高額になりますので、口座を無料でお作りすることもできますが……」


 内心では口座を作って欲しいのだとわかる。

 預けている間は向こうはその金を貸し出して利益を得ることもできるし、こちらもその利子を受け取ることができる。

 だが、今は様々な物を準備する為に少しでも現金が欲しいのだ。


「お気遣いありがとうございます。ですが、この足で建築ギルドに伺って早速小屋を手配したいので、またの機会にお願いすると思います」


「そうですか……。ではすぐに現金をお持ちしますので少々お待ちください」


 そう言って戻っていったので僕はソファーに腰を下ろすと一息吐く。

 そして周囲をぐるりと見渡す余裕が出来たので観察をしてみる。


 ここは銀行の裏側で、表で小口の現金を取り扱っているのにたいし銀行員が普通に業務をしている。どの人達も業務時間だからなのか、とてもせわしなく動き回っていて、お金が絡んでいるだけに大変そうだなと同情をしていると……。


『おい、そろそろ回収したあれを捨てにいく予定じゃなかったか?』


『確か3日後ぐらいか?』


『火山の火口まで運ぶんだよな……大変そうだ』


『でもそうしなきゃ処理できないからな』


 気が付けば2人の男の人の会話に耳を傾けていた。

 その男2人は何やら箱の中に入れられた廃棄物の処理について話しているらしい。


『あっても邪魔になるだけだし、中の魔力は吸い出しちまったからもう使えないんだけどな』


 そう言って取り出したものを見て僕は大きく目を見開く。


『家庭用の低ランクのコアならそこらで処理すればいいんだが、高ランクのコアは滅多に交換しなくて済むが処理が面倒だよな』


 ふらふらと近寄っていく。


「あの……どうかされましたか?」


 いぶかしんで会話を止めた2人は僕に問いかけてくる。僕はその質問にこう答えた。


「そのコア、いらないのならうちで引き取らせて貰えないですか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る