第93話ダンジョンランクⅦ⑤

 目の前には神殿の入口を思わせるような柱で装飾された入り口がある。

 湖の水をどうにかしなければ決して発見できない――ゲームとかでいうなら裏ステージみたいなものだろうか。


 そもそもこのデュアルダンジョンという場所自体が裏ステージみたいなものなのだ。その上ダンジョンランクⅦにしてもあり得ない難易度の罠と迷宮だった。

 それでようやく到達したゴールでは、脱出してくださいとばかりのテレポーターの存在。


 幾重にも張り巡らされた悪意を感じる。どれだけの低い確率を突破したらこの入り口を発見できるというのだろうか?


『マスターって偶にすごい勘してますよね。イブではこの入り口は見つけられなかったですよ』


 イブが心のそこから感心したような声で褒めてくれるのだが、完全な運なんだよね。

 ひとまず、これからこのようなダンジョンを見つけたら潜って確認すべきだろうか。

 そんなことを考えながら、僕は泥でぬかるむ地面をネチャネチャ音を立てながら歩くと、横穴へと入って行くのだった。





「ふーん。ここには罠はなさそうか?」


 イブの指示でさんざん罠を潰してきたせいか、雰囲気をある程度感じ取れるようになったようだ。経験上この部屋に罠はない。嫌な気配がしないからだ。


『流石マスター、罠感知もできるようになりましたか。ところであちらに何かありますよ』


 そういってイブは奥になにかあるのを発見した様子。僕はイブの言葉に従って奥へと向かうと…………。


「なんだこれ、魔法陣か?」


 神殿のようだと思ったのはあながち間違っていなかった、魔法陣からは白い光が出ていてなんとも神々しい雰囲気がある。


『真ん中に何か置かれてますよ』


 そう言われてみてみると、魔法陣の中心に折れた何かが置かれていた。


『これは……修復の魔法陣ですね。魔法陣全集で見たことありますよ』


 最近のイブは割と暇を見つけては僕の本を読んでたりする。

 この魔法陣は複雑で、魔法陣学の授業を履修していない僕には読み解けないが、イブがそう判断するのなら間違いないのだろう。


『侵入を阻むための防護結界が展開されてますね。これをどうにかしないと触れることもできないみたいですよ』


 言われてみれば膜のようなものが魔法陣を覆っていた。


「これ壊せるか?」


 ここまできたのだから何が何でも回収したい。僕はそう思ってイブにこの結界をどうにかできないか聞いてみると……。


『4属性の魔法を順番にぶつけて壊すタイプです。普通なら複数の魔道士が必要ですけど、コアから引き出せるイブたちなら余裕ですよ』


 そう言うと地水火風の属性魔法を次から次へと防護結界にぶつける。

 すると「パリン」と音がして目の前の膜がパラパラと崩れていく。


「ありがとうなイブ」


『マスターの為ならこのぐらいお安い御用です』


 イブを労うと、褒められて嬉しいのか誇らしげな返事が返ってきた。

 僕は魔法陣の中に足を踏み入れた。

 目の前には宝玉をちりばめた棒状の何かがあり、それが2つに分かれている。どうやら折れた杖が置かれていたようだ。


『恐らくこの魔法陣はダンジョンから力を得て起動しています。ここに杖を置くことで修復をおこなっているのではないでしょうか?』


 イブの推測に僕は頷くと。


「なるほど、さすがは裏ステージ。傷物の杖というのはあれだけど、レアアイテムでお出迎えか」


 難易度が高かったので、こうした報酬があると笑顔が浮かぶ。僕は杖を取ろうとするのだが…………。


「まてよ? 修復中ってことは動かしたらダメなんじゃないか?」


 直している最中に止めてしまってよいのか?

 僕はそう思って聞いてみる。


『多分ですけど、このままここで直させた場合あと1ヶ月はかかりそうですね』


「それは流石に待てないな、そのうち何とかできるだろうからとりあえず持って帰ろうか」


 おぼろげにだがやりようはありそうだと思う。

 【増幅】からの【リペア】でも良いけど、あれはかなり魔力を使うのでできれば使いたくないかな……。


『取るものもとったし帰りましょう』


 そう促された僕は杖をイブのところへと送ると外にでるのだった。



「さて、コアをとってしまおうか」


 あれから、目につく財宝を収納する間、モンスターはおろか黒幕も湧かなかった。

 財宝の中身は魔道具や魔法具などの他に剣や槍に弓や鎧などなどのいかにも使えそうな装備品から何かの魔法でもかかっていそうなアイテムがたくさんだった。


 売れば一生贅沢をして暮らすことができるのは間違いないだろう。

 流石はダンジョンランクⅦの財宝である。ついついダンジョンコアに目がいってしまうが、ダンジョンコアを購入する資金も必要になるので今後はこういった方面にも目をむけることにしよう。


『いつでもいけますよ。マスター』


 不測の事態に備えてイブとキャロル、カイザーにもスタンバイしてもらっている。

 もしボスが湧いたら即座に牽制をしつつテレポーターへと逃げ込む手はずだ。


「それじゃ……3……2……1……いまっ!」


 タイミングを合わせてダンジョンコアを抜く。僕は次の瞬間起こることを警戒するのだが………………………………。


『何も起こりませんね?』


 周囲は静寂のままだった。イブの声だけが耳に届く。どうやら本当にこれでおしまいらしい。


「……なんか拍子抜けだな」


 ケルベロス以上のモンスターと戦う覚悟をしていたのだが、ここに仕掛けた人間はどうやら最後までこちらの予測を外してきたようだ。


『まあいいじゃないですか、財宝の売買に新しいコアの解析。時間はいくらあってもたりませんよ』


 うきうきしたイブの様子に僕は肩をすくめると……。


「まあ、いっか」


 ダンジョンから出ていくのだった。



   ★



「ご報告申し上げます」


「うむ。述べよ」


 男は部下の報告を椅子に座りながら聞いていた。


「デュアルダンジョンに潜入したと思われる探索者ですが、どうやらロストしたもようです」


「ほう、3日ももったのか。中々の手練れだったのだな」


「尽きましては、れいの物の回収に向かおうかと思っております」


「うむ。あれの移動先は既に見つけてある。俺の名前をだせば預かってくれるはず。くれぐれも親父にはばれないように頼んだぞ」


 男は若干震えると部下へと指示をだす。


「かしこまりましたタック王子。魔王様に知られないように細心の注意を払って向かいます」


 出かけていく部下を見送るとタックはぽつりと呟く。


「早く直さないといい加減親父にばれるから頼んだぞ……」

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