第88話ダンジョンランクⅦ②
『1つフロアが変わって雰囲気がまた変わりましたね』
あれから、テレポーターを見つけた僕は次の層へと向かった。
このフロアは洞窟のように岩肌がゴツゴツとしていて、光源もぼんやりと光る壁ぐらいしかない。
通常、1つフロアを降りると敵が強くなるのが常識だ。
先程は単体でBランク、集団でAランクのモンスターだったり、Aランクの中でも弱い部類のモンスターが出現していた。
フロアの属性も地へと変化しているようなので、気を引き締めなければならない。
「いずれにせよ、ここからは油断なし。イレギュラーがあったらそっちに逃げ込むから弾幕頼んだぞ」
僕はセーフティーの確認をすると探索を開始した。
「凄い……レア金属がこんなに」
『マスター……油断しまくりじゃないですかぁ』
イブの呆れた声が聞こえる。だが仕方ないのだ。
「だって、ほら。ミスリルやヴァライトが落ちてるんだぞ」
このフロアは鉱山らしく、そこら中に鉱石が埋まっていた。
僕はどうにか掘れないか考えながら進んでいた。
時間をかければ採掘は可能だと思ったのだが、迂闊に背中を向けるのは自殺行為。
ただでさえ強力なモンスターがいるはずなのだ。命の危機には代えられない。僕は採掘を断念して進んでいた。
だが、途中から地面にキラキラ輝く何かが落ちていることに気付いたのだ。
石ほどのサイズで魔法の明かりを受けて鈍く光る。それを手に取ってみると驚いた。その石みたいなものは金属の塊だったのだ。
僕はその塊を早速イブに送ってみてもらったところ【ミスリル】と【ヴァライト】だったのだ。
この2種類の金属はこの世界で上位に入るレアメタルだ。そんな金属が石サイズでそこら中に落ちている。
流石に僕が注意を下に向けて探してしまうのは仕方のない話だった。
「ふぅ、イブ。どのぐらい集まったかな?」
金属と見れば手当たり次第に送っておいたので仕訳はイブがやってくれている。
収集具合を確認すると…………。
『ミスリルとヴァライトならそろそろショートソードの数本は打てそうな量ですよ』
「おお、結構集まったな。流石はランクⅦダンジョン。お宝の宝庫だ」
高ランクダンジョンには低ランクでは手に入らないようなものが多々存在する。この場でしか手に入らないアイテムなんかもあるので、出来る限り収集したいところだ。
僕は思っているよりも順調な探索に気を良くしたのだが……。
――グゥーー――
「イブ。ちょっと腹減って喉が渇いてきたから何か送ってくれ」
ずっと動いていたので小腹が減ってきた。
『わかりました。果物でいいですかね?』
「うん。とりあえずそれでいいよ」
ほどなく桃が数個送られてきた。
その中に黄金の桃も混ざっている。恩恵の【増幅】で得られる桃で特別な味わいがするのだ。
「うん。糖度が高くて疲れた身体に染みわたるな」
自分の【畑】からの収穫物を賞賛していると…………。
『キュルルルルルルルル』
「ん?」
いつの間にか僕の目にリスのような小動物がいてこちらを見上げていた。
つぶらな瞳に、鋭い前歯。煌めく金の毛並み。
こんな生き物は見たことが無い。
相手に敵意がないようなのできにせず僕は桃をかじる。すると…………。
『キュッキュルルン』
リスみたいな小動物は近寄ってきて鼻をひくひくさせる。
「もしかしてこれを食べたいのか?」
僕が桃を持ちあげてみせるとそいつの視線が桃へと向く。どうやら桃の匂いにつられて近づいたらしい。
「ほら、食べろ」
僕は手元の桃を放り投げる。そうすると自分の体よりもでかい桃をそいつは器用にキャッチすると――
『キュルキュル』
嬉しそうな鳴き声をならすと食べ始めた。
小刻みに頭が揺れ、凄い速度で桃を食べていく。
頬袋がパンパンになり、やがてあっという間に桃は無くなり、最後に頬袋も元へと戻ってしまった。
『キュルルン?』
その視線は残りの桃へと向いている。
「いや、この桃は……」
黄金の桃は恩恵を使った時しか手に入らない、流石に与えるのは勿体ないと思っていたのだが……。
『キューゥキューゥ』
悲しそうな鳴き声を出すとお腹を抱えて見せた。その仕草に僕は酷い罪悪感が沸き起る。
前世でも可愛い動物には目が無かったのだ。
「わかったよ。ほらやるから」
まだいくつか保存してあるし、1つぐらいなら上げても良いだろう。
僕が黄金の桃を与えるとそいつは大喜びで食べ始めた。
『マスター。そろそろ戻ってきませんか?』
「ああ、そうだな。そろそろ戻るよ」
そんな愛らしい仕草を観察しているとイブが話しかけてきた。
今日は結構進んだし、レアメタルの収穫もあった。
敵も強くなってきたのでザ・ワールド内で準備をしたいと考えたので、僕はちょっと早いけど今日は切り上げることを決めた。
「じゃあ、またな。達者でくらせよ」
僕が立ち上がり、ザ・ワールドへの入口を開くと……。
『キュルキュルキュルン』
小動物は僕の肩へとよじ登ってきた。
「ん。もしかして付いてくるつもりか?」
僕の問いかけに小動物は――
『キュール』
首を縦に振る。
どうやら肯定しているらしい。
「まあ。餌はいくらでもあるしいいか……」
狙ったわけではないのだが、どうやら餌付けしてしまったようだ。
特に襲ってくる様子もなく無害だったので僕はそいつをザ・ワールド内へと連れて行くことにした。
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