第87話ダンジョンランクⅦ①
「よし、油断せずに行くからな」
『わかりました。マスター』
イブの声に僕は気を引き締めると目の前を見る。
「ここがランクⅦのダンジョンなのか…………」
高い天井に広い空間が広がっている。
暗くて湿った臭いが鼻をつく。
ダンジョンというわりにはひらけている。まるでザ・ワールドのようにこの空間1つが隔絶した世界だとでもいうように遠くの方に壁が見える。
見える範囲で判断するならこのフロアの広さは小さな村程度だと推測できる。
もし、何者かの姿を確認できたとすると相手側からもはっきりと僕の姿を見ることができるだろう。
『ううう。何か妙な気配がピリピリしてます。このダンジョンの主は苦手です』
イブはダンジョン内に入るとそのダンジョンコアのことがある程度わかるらしい。
普段のコアは若者扱いしているくせに今回は一筋縄でいかなさそうなのか怯えを含んでいるようだ。
「取り敢えず下の層に降りる為のテレポーター探してるからマッピングだけはしてくれよな」
今のイブに多くを望むのはやめておこう。
僕は2本のショートソードを確かめると進み続けた。
――ガルルルルルル――
「おっと。危ない」
飛び掛かってきた赤毛の中型モンスターのヘルハウンドの攻撃をひらりとかわす。
身体が通り過ぎていく際に、その赤毛から高熱が放たれていた。
『マスター平気ですか?』
イブの心配そうな声を聞きながら周囲を見る。
そこにはヘルハウンドの群れがいて僕を囲んでいる。
どうやら風上にいたらしく、臭いを嗅ぎつけて集まってきたようだ。
ヘルハウンドは単体ではBランクのモンスターだが、常に集団で行動をしているので実質Aランクの危険度があるのだ。
「ったく、暑苦しい奴らだな」
ヘルハウンドの毛は燃えており、その熱でエモノを焼き尽くすと言われている。
そんなやつらに囲われているせいか僕の頬を汗が伝う。
先程の動きを見ていたせいなのか、相手はこちらを警戒しているのか距離を詰めてこない。
こうして囲っているだけでも周囲の温度がぐんぐん上昇していくので、体力を奪う作戦のようだ。
「そっちが来ないならこっちからいくからな」
だが、そんな作戦に付き合ってやるほど僕も優しくは無い。
――ガルッ!?――
ヘルハウンド達のあごが大きく開いた。無理もないか……。
「おーい。こっちだよ?」
囲んでいた中央から一瞬で僕が消えたのだ。
――グアッ――
振り向いたヘルハウンドを蒼のショートソードで両断する。武器の切れ味もそうだが、属性の相性が良かったのかこのレベルのモンスターならばなんとか1撃で倒せるようだ。
――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ――
吠えるヘルハウンド。恐らくはリーダーなのだろう。何らかの合図を送ったようだが僕には関係ない。
「そっちから襲ってきておいて今更逃げられるとは思わないでよね」
ヘルハウンド達が次の行動に移る前に高速で移動した僕は目の前のヘルハウンド達を葬り去って行く。
「よし。Bランク程度なら何とかできるね」
ランクⅦのダンジョンということでかなり警戒していたのだが、傷1つ負うことなく完勝した僕はクールダウンを兼ねて魔核を拾い集めた。
「それにしても、最初のフロアからして結構広いんだな」
探索を始めてから数時間が経過した。
結構な距離を動き回って何度かの戦闘をしたのだが、次の層に向かうテレポーターは見つかっていない。
『マスター、案外余裕ありますね』
「まあ、動きが速いモンスターがいないからね。当たらなければどうってことないし」
僕のスピードはかなりのものらしく、サイクロプスやらタイタンといったAランクの大型モンスターとも戦ったが、怪力は凄いのだが動きが鈍すぎるのでまるで相手にならなかったのだ。
もっとも、こちらも簡単に倒せはしないようだった。
サイクロプスとタイタンは防御力が高く、現在のショートソードでは致命傷を与えるのが難しかった。
そのおかげで倒れるまで何度も何度も斬りつけることになったのだ。今後戦い抜くにはこの武器では厳しいのかもしれない。
『うふふふふ。おかげで新しい魔核がいっぱいです。ダンジョンに入ると聞いた時はどうなるかと思ったけど、イブはマスターを信じてますよ』
このところの最大の収穫に機嫌が良くなっている。現金な奴だと思ったが、イブがこうして素の感情を露わにするのが僕は嫌いじゃない。
日頃は僕を優先すべく気にかけているのだが、こうして寄りかかるような態度をしてくるのは甘えられているようで可愛いと思うのだ。
「この機会を逃すとランクⅦなんてそう簡単にソロで潜れないだろうからね」
敵が強ければその都度考えればよい。即死しなければザ・ワールドに撤退する方法もあったのだしなによりランクⅦには僕が求めている物がたくさん存在している。
『マスター。イブがサンドイッチ作ったので送りますね』
結構な時間動き回っていたので腹も減っている。イブがそう言うとバスケットと水筒が送られてきた。
『カイザーの卵と【神畑】で収穫した野菜。他には市場で買って冷蔵保存していた肉を焼いて味付けしました』
美味しそうなサンドイッチに唾をゴクリと飲み込む。
イブは僕の記憶を参照できるので、前世の店で出されたサンドイッチのレシピを参考にしているらしく見た目も良く美味しそうに見えるサンドイッチがバスケットから出てきたのだ。
「うん。美味しいよ」
前世の記憶よりも素晴らしい味に賞賛の言葉を送ると。
『えへへへ。マスターが喜んでくれると嬉しいですね』
イブは機嫌良さそうに笑うのだった。
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