第75話テスト勉強
アカデミーに入学してから数ヶ月が過ぎた。
僕は現在図書室に通って勉強をしている最中だ。
『マスターその問題の答え間違ってます。公式はあってますけど魔力抵抗値に属性補正計算がされていません』
(まじでっ!?)
それというのももうじき試験があるからだ。
『あと先程解いてた問題も微妙に回答がずれてました。あれだと三角ですね』
もういっそイブが試験を受けるべきではないかと考えるのだが…………。
『駄目です。マスターの為になりませんから』
と、まるで母親のような厳しさを僕へと見せてくる。
なんだかんだで僕と一緒に授業を聞いているイブ。頭が良いのか内容を全て吸収しているのだ。
(こっちの問題はどう?)
『あってますよ。流石はマスターです』
なので、こうして教師代わりをしてくれている。
下手な教師よりも教えるのが上手で、解らない問題も懇切丁寧に教えてくれるおかげでだんだんと理解できてきた。
この調子ならテストは問題なさそうだ。
自分より頭の良い相手に褒められるのは微妙な気分なのだが、イブに悪気はない。
僕はイブが黙り込んだのを確認すると集中して問題を解くのだった…………。
「エリクさん。こんにちは」
「あっ。セレーヌさんこんにちは。本を借りに来たんですか?」
振り返ってみるとセレーヌさんが1冊の本を抱えていた。
「ええ、エリクさんはテスト勉強ですか?」
「そうなんですよ。テストまで時間が無いので必死に詰め込んでいるところです」
その言葉にセレーヌさんは微笑みを浮かべると。
「大変だけど頑張ってくださいね」
心の底から励まそうとしてくれているのがわかる。
「ありがとうございます」
僕はお礼を返すと何気なく持っている本が気になった。
「それ何の本を借りたんですか?」
「これはですね、ダンジョンに挑んだ英雄の物語です」
「へぇ、セレーヌさんってそう言う話が好きなんですか?」
冒険物の物語はどちらかというと男に好まれている。
女性は恋愛系の物語が好きなようなのだが…………。
「これはかの有名なアルカナダンジョンに挑んだ英雄の実話なんです」
その言葉で1つピンときた。
「もしかしてセレーヌさんのご先祖様の?」
「えっと、そのことを知っているのですか?」
目をぱちくりさせているセレーヌさんに僕は答えた。
「ええ、入学式のパーティーでハワードさんから聞いたもので」
目の前の彼女は歴史的偉業を達成した伝説の人物の子孫なのだ。
「そうですか、父が話したんですね」
顎に手を当てて少し考えるそぶりを見せると…………。
「でもこの本は私の御先祖様には関係ないんですよ」
「そうなんですか?」
少し興味を惹かれたので椅子を引いて完全にセレーヌさんに向かう。
「ええ、この本に書かれているのは入口に『XVII 』の刻印がされているアルカナダンジョンの物語ですから」
確かアルカナダンジョンの入口には何かを示し合わせたかのように刻印が彫り込まれているとか…………。
「それは大変面白そうですね。是非読んでみたいですね」
「そうですか? 私もこの時期なので読み返しておこうと思っていたのですが、エリクさんが読まれるのならお譲りしますよ」
同好の士を見つけたような食いつきをみせたセレーヌさんは僕に本を渡そうとしてくるだが……。
「いえ、今はテスト勉強をしなければならないのでゆっくり読んでください」
丁重にお断りをしておく。
「そうですね。私としたことが……」
恥ずかしそうな顔をするセレーヌさん。
「ところでこの時期って、その本に何か関係あるんですか?」
僕はセレーヌさんが何故この本を求めたのか理由が気になった。
「ええ。エリクさん達に関係するのですが、テストが終わったら長期休暇になりますよね?」
その言葉に僕は頷いて見せる。
「そのテストで優秀な成績を収めた生徒には特典が与えられるんです」
「そういえばそんなことをホームルームで言っていたような」
「その特典というのはこの『XVII 』のアルカナダンジョンがある街への招待旅行なんです。私は生徒会長として同行することになっているので今のうちにこの本を読み返しておきたかったんですよ」
「なるほど……アルカナダンジョンに招待旅行ですか」
僻地にでもない限りはダンジョンは管理されている。
伝説とまで呼ばれたアルカナダンジョン。是非見てみたいと僕は考えると…………。
(色々準備しないとな……)
成績上位に入るべく意識を切り替えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます