第71話助ける理由

「恩恵を受けて間もない君があのポーションを作っただと?」


 アレス国王の言葉に僕は頷いて見せた。


「信じるか信じないかは自由ですが、1つだけ約束してください」


「なんだ?」


「僕の秘密はこの場の人間だけに留めて置いて欲しいのです」


 目の前にいるのは良識に溢れ、家族愛を持った好ましい人間だと思う。

 だが、そういった人間だからこそ釘を刺しておく必要があるのだ。


「それは勿論構わない。妻の命の恩人に対して不義理な真似をするものか」


「ええ、王族として、受けた恩に報いなければなりませんもの」


 アレス国王もエクレア王妃も約束してくれた。


「わ、わたくしだってエリク様を裏切ったりはしませんわ」


「アンジェリカが裏切るなんて思ってないよ」


 必死な様子のアンジェリカに僕は笑いかけた。






「それで、王妃様の病気についてですが、残念ながら僕のポーションでは病気までは治せないんです」


 本当ならこれで完治させられれば良かったのだが、スタミナポーションはあくまで体力を回復させる効果しかない。


「いや、本来なら先が見えていた妻の容体を持ち直したのだ。エリク君には感謝しかない」


 その言葉に頷く。


「そうなるとやはりエリクシールが頼りとなるわけだが…………」


 そう言うとアレス国王は苦い顔をした。


「お、お父様っ! わたくしがいつか必ずエリクシールを作って見せますわ。例え何年かかろうとも」


「よくぞ言った我が娘よ。エリク君のポーションのおかげでエクレアの命は長らえたのだ。こうなれば俺も手間は惜しまぬ。伝説の錬金術士しか作れないエリクシール。その材料は収集は任せておけ」


 エクレア王妃に残された時間が少なかったことで断念していたアレス国王も希望を見出したのか活力をみなぎらせて宣言した。


 僕はそんな2人の間に入っていく。


「あの……発言宜しいでしょうか?」


「何かなエリク君。何でも言いたまえ」


「多分僕の実力ならエリクシールは問題なく作れます。材料だけ用意してください」


 僕はコホンと咳ばらいをすると気まずい思いをしながらも口にした。





「ほ、本当に伝説の万能薬を作ることができるのですか?」


 驚いて詰め寄ってくるアンジェリカから距離を取ると僕は頷いた。


「多分だけど、この国で最も成功率が高いのは僕だと思います」


 その為に必死になって熟練度を上げたのだ。材料さえあれば作って見せる。


「君にそこまで頼っても良いのか?」


 アレス国王が信じられないものを見るような視線を向けてくる。


「勿論です。もし僕が失敗するようなことがあればこの命捧げます。なのでやらせてください」


 胸に手を当てると僕は自分の気持ちを告げた。


「どうして……そこまでしてくださるのですか?」


 その問いはアンジェリカから発せられた。


「エリク様がここのところ毎日アカデミーの研究施設に籠って何かをしていたのは知っていました。恐らくは今回のスタミナポーションを作っていたのでしょう」


 まさか知られていたとは思わなかった。


「そのせいで毎日疲労していたのも知っています。ですが本来ならばこの件はわたくしたちの問題です。エリク様が倒れそうになるほど無理をして……ましてや命を懸けてまで挑む様なことではございませんわ」


 確かにその通りだ。伝説の万能薬のレシピははっきりしている。

 例え僕がやらなくても時間と材料さえ多めにそろえ、腕の立つ錬金術士を見つければ作り上げることが可能かもしれない。だが…………。


「アンジェリカ。お母さんのことで泣いていただろ?」


「み、見ていらしたのですかっ!?」


 ただのカマかけだ。だが、アンジェリカが張り詰めていたのは間違いない。

 僕はアンジェリカを。エクレア王妃を。そして、アレス国王を見ると言った。


「アンジェリカが悲しむ姿を見たくなかった。それだけの理由では不服ですか?」


「えっ?」


 次の瞬間、何故かアンジェリカは顔を真っ赤にするのだった。





「まあまあ……エリクさん。そう言うことでしたの?」


 何故か「あらあら」と言ってエクレア王妃が近寄ってきて肩を叩く。


「どういうことでしょう。王妃様?」


「んもうっ! 水臭いわ。エクレアとお呼びなさいな」


 体力が回復したおかげか妙な勢いがある。僕はやや困った様子でアレス国王に助けを求めるのだが…………。


「こ、こんなに立派な若者ならばアンジェリカを託せる……」


「お、王様?」


 何やらよく分からないことを言っているアレス国王に引いてみると……。


「俺のこともアレスで良い」


「いやいやいや、流石に不味いでしょう。王族を相手に勘弁してください」


「これは国王命令だ!」


「王妃命令です!」


 まさかそんなくだらないことで命令をしてくるとは思わなかった。良識ある大人達だと思い込んでいたが…………。


「ではアレスさんとエクレアさんでどうです?」


「うむ。今はそれでよい」


「ええ。今はそれで我慢します」


 何とか妥協をしてもらえたことで安心した僕は胸をなでおろした。





「それでは、エリクシールの材料とその他に……」


「ええ、ポーションを長期保存する魔法具ね」


 あれからアレスさんとエクレアさんと今後について話を詰めた。

 スタミナポーションはひとまず僕が持っているのだが、このままでは毎週ここに届けにこなければならない。

 エクレアさんの命が最優先なのは当然なのだが、僕もそれだけに関わっているわけにもいかないのだ。


 そのためにアイテムを長期間保存できる魔法具を用意してもらうことになった。


「そんな魔法具が無くともエリク君には毎週あいたいのだが……」


「ええ、新鮮なお野菜も食べたいですものね」


 秘密のついでに野菜の件と武器の件も僕の仕業だと伝えておいた。

 目の前で野菜や作った武器を取り出して見せたところ口を大きく開いて驚いたが、最終的には笑って受け入れてくれた。


 そしてスタミナポーションと野菜に関しては必要であればアレスさんを通して流通させるという確約を貰い、多額の報酬を受け取った。


「お、お父様もお母様もいい加減にしてください。え、エリク様はわたくしの…………」


「ん? どうしたの?」


 何かを言いかけたアンジェリカは僕と顔を合わせると……。


「な、なんでもありませんわ」


 顔を赤くしてプイっと背ける。


「アンジェリカにもポーション飲ませた方がいいのでは?」


 僕が首を傾げると……。


「ふふふ。あの子のことを宜しくお願いしますね」


 エクレアさんに頼まれるのだった。


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