第63話パーティー②
「えっと…………」
娘が去ったのだから当然父も去るものだと思っていたのだが、何故かその場にとどまり続ける。僕が気まずさを感じているのを知ってから知らずか話し掛けてきた。
「失礼、私の名はハワード。王都周辺で商売をしているハワード商会の代表だ」
「あっ、聞いたことがあります。セレーヌさんって商家の生まれだったんですね」
幼少の頃より教会に居たような話を聞いていたので神官の家系なのだと思い込んでいた。
「娘は幼いころから治癒魔法の腕前が優れていたからね。娘の希望もそうだが、苦しんでいる人々を癒すのも大事と考え、教会に通わせていたのだよ」
とても立派な考えだ。ただ市民から搾取するだけではなく全体の幸福を実現しようと頑張っている。この親にしてセレーヌさんありなのだと僕は認識した。
「セレーヌさんは優しいですからね。僕も彼女の優しさには何度も救われました」
ダンジョンから帰還した時も心底安心したような表情をしてくれたし、今だって話し相手がいない僕の相手をしてくれたり。生徒会長だからなのか、治癒士だからなのか、困っている人を放っておけない性分なのだろう。
そんなセレーヌさんを心温まる様子で思い浮かべていると……。
「エリク君。娘とはどういう関係なのかな?」
「……ただの後輩ですけど」
ハワードさんからの良く分からない質問に僕は即座に答えた。
「そんなはずはないだろう。平等を重んじるあの子が紹介状を書くなんて余程の相手に違いない」
どうやらコアを取り扱っている高級店の話らしい。
「彼女は優しいですから、僕がお願いしたので断れなかったのではないでしょうか?」
そんな推測を答えるとハワードさんは何か考えていたのだが……。
「失礼。少々宜しいですか?」
「なんだ? 報告は手短に頼む。今は彼と話をしているのだからね」
商会の部下と思わしき人物に目を向けると何やら話し始めた。
僕はこの機会に離脱したいと思ったのだが、ハワードさんはまだ僕に聞きたい事でもあるのか目で牽制してきて逃がしてくれない。仕方ないので話が終わるまで待っている。
「ええ、なのでこのケースに対応するには代表の意見を伺いたくですね」
「むぅ……この場合は複数の要素が影響しているな。中々に判断が難しい」
僕をそっちのけで商売の戦略を練り始めた。このままではいつ終わるとも知れない。
僕は溜息を吐くと…………。
「その場合、こういう方法を取るとスッキリします」
2人の間に入って行く。
「そ、それだとこっちの問題に対処が……」
焦る様子の部下の人に。
「いえ、そのケースにはこちらに配置している人員が向かえば対応できます。更にいうなら、こう動かしてこちらに回しておけば問題ないかと」
前世の職場が似たようなトラブルに巻き込まれたことがあった。
その時に使われた解決方法をそのまま提示してみせたのだ。
「確かにこれなら……代表!」
「うむ。至急手配してくれ」
ハワードさんが頷くと部下の人は帰って行った。
先程までと違う視線を感じるとハワードさんが肩を抱いてくる。そして……。
「きみ、卒業後とは言わず今すぐにうちの商会に就職しないか?」
「生憎ですが、進路に関して色々決めかねてまして…………」
第一に考えているのは自分の能力をもっとも伸ばす方法だ。その為に商会に就職するのが最善ならば構わないが、恐らくその道は無いだろう。
「そうか残念だ。気が向いたら娘に伝えてくれ。いつでも歓迎しよう」
その言葉に僕はセレーヌさんが秘密を守ってくれていることを理解する。
よくよく考えると僕のザ・ワールドの姿を彼女は見ている。
現在のフェイクルームが無かったころなので、相当大きな空間容量を持っているのを知っているのだ。
もしそのことをハワードさんが知っているのならここで引き下がるわけがない。
「そうだ。僕からも1つお聞きしたいのですが……」
この人があの店のオーナーだというのならこれは情報を得るチャンスだろう。
「ん。何が聞きたいのかな?」
「ダンジョンコアを取り扱う店なんですけど、あそこにある特殊コアについてです」
【アルカナダンジョン】で入手したと言われるコア。あれについて聞いてみる。
「あの店のコアは探索者が攻略したダンジョンのを売っているんですよね。【アルカナダンジョン】のコアはいつから置いてあるんですか?」
僕の質問にハワードさんはアゴを撫でると答えてくれた。
「いつから……か。私が生まれた時にはあったからね」
「それは、いつ購入したか分からないということでしょうか?」
その質問にハワードさんは首を横に振ると。
「あのコアは先祖代々受け継いできたモノなんだ。だから誰かから購入したとかではないのでね」
「それって…………」
「我が家は【アルカナダンジョン】攻略者の子孫ということになる」
「攻略者の子孫……」
「うむ。攻略者達はかの有名な【アルカナダンジョン】に挑み莫大な財宝とコアを戦利品に持ち帰ったのだ。そしてその内の二人が財宝を利用してこの地で商売を始めたのだ。そしてそれは成功を収め、コアは代々お守りとしてあの場所に飾ってあるのだ」
「売ってくれという人もいたのではないですか?」
伝説のダンジョンのコアだ。僕みたいに有効利用できずともコレクターとして収集したがる金持ちは存在するだろう。
「うん、いたね。だから値段を設定したのだよ。1人の力では到底購入できない金額にね」
それがあの無茶な金額ということなのだろう。
「そうすると、ハワードさんはあのコアを誰かに譲るつもりは無いということですかね?」
不可能に近いのは理解しているが、お金を貯める準備はしていたのだ。いざ揃えたところで売ってもらえなければ意味が無い。
計画を白紙に戻す必要すらある。
「私はね、あのコアが我が家の安全を見守ってくれていると信じているのだよ。だからそうだな、譲り渡す相手は……娘——セレーヌ以外にはあり得ないかな」
その言葉に僕はあのコアを入手するのを諦めると共に…………。
『つまりセレーヌさんから貰えば良いってことじゃないですか。マスター』
イブの言葉を完全にスルーするのだった。
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