第62話パーティー①
「うーむ、場違い感が半端ないよな」
先程から壁のシミになりつつ正面を見ると、そこでは様々なドレスに身を包んだ美しい女性や、タキシードに身を包んだ男がグラスを片手に談笑をしている。
あれから、会場の準備が整ったという事で入場して直ぐにパーティーが開始された。
最初は傍にいたはずのロベルトやアンジェリカも今では目先の人だまりの中心にいる。
どうやらあの2人は人気者らしく、僕はあっという間にあぶれたのでこうして1人で待機している。
『マスターもどなたかに話しかけたらどうですか?』
そんな僕を見かねたのかイブが話し掛けてくる。
(僕にそんな真似ができるとでも?)
このパーティーに参加しているのは貴族の息女だ。
一部、学校関係者も参加しているらしいのだが、基本的に両親が同伴しており、親を交えての歓談をしている。
こういった場での繋がりが、のちのちに響いてくるらしく、どの親も子供の縁を最大限に利用しようと目をギラつかせている。
そんなところに特に権力の1つも持たない僕が話に行ったところで微妙な空気を醸し出すだけだろう。
そんなわけで僕はロベルトかアンジェリカが戻ってくるまではやり過ごそうと適当に料理に手を付けていると……。
「ん。これ? ハーブかな?」
ティーポットに浮かべられているのは綺麗な花が付いたハーブだった。
『昨日マスターが見ていたポーション作成の材料にありましたね。確か、レア植物のパパールです』
ハーブティーとして出されているので自信が無かったがイブの鑑定なら間違いないだろう。
(これまだ使えるんじゃ【畑】に植えたら生えないかな?)
レアなハーブということでこうしてみると勿体なく感じたのだ。
『試してみましょう。マスターそれ送ってくださいな』
イブに言われて、僕は誰にも注目されていないのを確認するとパパールハーブを送る。それからしばらくすると……。
『マスター朗報です! パパールハーブが根付きましたよ』
それは何よりだ。そのうちポーション作成で使うことがあるので収集しようと思っていたのだ。それにしても【畑】が万能過ぎて恐ろしい……。
『他にも使えそうな植物があったら送ってくださいよ』
そんなイブの言葉を聞いていると…………。
「エリクさん。久しぶりですね」
話しかけてきたのは純白のウエディングドレスのような恰好をした女性。
「セレーヌさん?」
先日、教会であったばかりのセレーヌさんが何故かパーティーに参加している。
「どうしてここにいるんですか?」
あくまで入学式のパーティーなので、生徒とその家族ぐらいしか参加していないはずなのだ。
僕の疑問にセレーヌさんは答えてくれた。
「私はこのアカデミーの生徒会長なんですよ」
ここで明かされる真実。だから推薦状の資格を持っていたのか……。
「生徒の情報はいち早く入手できますからね、合格者の中にエリクさんを見かけたときは嬉しかったんですよ」
そう言って小悪魔な笑みを浮かべると覗き込んでくる。
周囲の生徒達も突然現れたセレーヌさんの容姿に注目しているようで、一緒にいる僕にも惜しみない妬みの視線を向けてくる。
彼女はその視線を特に気にすることなく僕の方を向くと。
「ではエリクさん。改めて入学おめでとうございます。生徒会の1人として、アカデミーの先輩として歓迎しますよ」
周囲が見惚れるような笑みを浮かべてそう言った。
「そうだ。コアを取り扱っている店を紹介してくださってありがとうござます。品揃えも豊富で接客も良くて素敵な店でした。おかげで勉強になりましたよ」
以前、コアの市場調査をしたくてたまたま出会ったセレーヌさんにお願いをしたことがある。
一見すると綺麗で優しい治癒士なのだが、推薦状を書いたり教会内でも一定の地位を築いていたりとコネクションを持っていそうだったからだ。
そのおかげもあってか【アルカナダンジョン】のコアなんてものを目撃できたので、今後の目標が定まった形だ。
「ふふふ、お褒め頂きありがとうございます」
そんな僕のお礼にセレーヌさんは謝辞を返す。
「どうしてお礼を言うんですか?」
彼女にお礼を言われるようなことをした記憶が無い。僕が妙な表情を浮かべたのが面白かったのか、彼女はお茶目に笑うと。
「あの店は私の家が経営しているので」
「えっ? あそこセレーヌさん家の店なんですか!」
どうりで紹介状を見た店員さんが妙な顔をするわけだ。
オーナーの娘から直々に紹介状を書いてもらった僕をみて気になったのだろう。
そんな事実に驚きを隠せないでいると…………。
「セレーヌよ、ここにいたのか」
僕の背後から声を掛けられた。
「お父様。どうかなされましたか?」
その言葉で話しかけてきたのがセレーヌさんの父親。つまりあの店のオーナーだと知る。
「さっきまで校長先生と話し込んでいたのだがな、入学の挨拶で張り切り過ぎたらしく腰を痛めたらしい。お前に治癒をして欲しいと言っていたのだが……」
そこまで言って僕の方を見る。そして値踏みするように観察をすると……。
「君は今年の入学生かな?」
その質問に答えようとしたところでセレーヌさんの言葉が差し込まれる。
「ええ、こちらは恩恵の儀式で知り合ったエリクさんです。才能にあふれる方でしたので私がアカデミーへ推薦したのですお父様」
「ほう……幼少より教会で修業を積んできたお前が素質アリと認めたのか。それは凄いな」
セレーヌさんが持ち上げたせいか父の視線がいっそう鋭くなる。
「それはそうと校長がお待ちだ。いつもの治療室にいるそうだ」
「わかりましたはお父様。それではエリクさん。またお会いしましょうね」
そう言うとドレスをなびかせて颯爽と歩いていくのだった。
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