第59話鍛冶職人
――カンカンカンカンカンカン――
「今日は随分と繁盛しましたねー」
火入れしたメノス鉄にハンマーを振り下ろす。
そうすると確かな手ごたえと共に形状が変化する感触が伝わってくる。
「それにしても、お客さんが話しかけてくるから大変でしたよ」
ある程度ハンマーを打ち付けると、鉄が冷えてしまったのか硬くなってきたので、炉へと放り込む。
炉の中では木炭が燃えており、入れた鉄を柔らかくする。僕は頃合いを見てはそれを取り出し、またハンマーで叩き続けた。
「私、あんなにたくさんの人と話したの始めてです。中には口説いてくる人もいたんですけど…………」
黙々と完成形をイメージして叩き続ける。雑念は一切捨て、真剣に目の前の鋼材と向き合う。自分が持てる限りの技術を注ぎ込まなければ高い品質のものはできないのだ……。
「………………………………」
何度目かの火入れと打ち降ろしが終わり、最後の工程を終えると……。
「よしっ! ショートソードの完成だ」
僕は自分が作った武器のできに満足すると、シートの上にそれを並べる。
青果市場から戻っていらいずっと打ち続けたのでその数は20本を超えていた。集中して鍛冶をしていたのでどのぐらい時間が経過したのかは分からない。
それというのもこの【鍛冶】スキルは熟練度が上がるタイプの能力だったからだ。
ハンマーを振るえば振るうほどに腕が上がっていき、どこにどのタイミングでハンマーを振り下ろせば良いのかやるたびに理解が深まって行くのだ。
最初は数本打ったら終わりにしようと思っていたのだが、上達するのが面白くて止め時を見失ってしまった。
「みろよイブ。最初に打ったやつと最後ので性能が全然違うぞ」
その喜びを分かち合おうとイブに話を振ると…………。
「ねーカイザーやっぱりメロンは丸かじりが美味しいですよねー」
何やら【畑】からメロンを収穫してカイザーを餌付けしている。聞こえなかったのかな?
「クエクエッ!」
美味しそうにメロンを食べるカイザー。雑食なのは知っていたけど果物も楽しめるタイプらしい。羽をバサバサさせて喜ぶ姿は見ていて微笑ましい。
そんな風に考えてしばらく見守っていると…………。
「ふんっです!」
イブと目が合ったかと思うと逸らされた。イブは唇をすぼめると「私怒ってますから」と分かりやすい態度をとって見せる。
どこか演技めいて見えるのはあまりにも整った容姿のせいだろう。どのような表情をしても可愛すぎて絵になってしまうからだ。
「……どうかしたのかイブ?」
とはいえこのまま放置するのも気が引けるので聞いてみると……。
「マスターが無視するからじゃないですか。せっかく話し掛けてるのに酷いですよ」
「それはごめん。なんか夢中になってて聞こえなかった」
思い返せばイブが話し掛けていたような気がするのだが、鍛冶に集中するあまり聞き流していたようだ。本当に悪いことをしたので謝るしかない。
「マスターなんて知りませんから」
最近になって反抗期なのか、イブは感情豊かに拗ねていた。どうやらザ・ワールドと共にイブ自身の精神も成長しているような気がする。
「その……ありがとうな」
なので僕は謝るのをやめると礼を言うことにした。
「この部屋の温度、鍛冶をしているわりには快適な温度になってる。木炭が燃えてるから息苦しくなるはずなのに空気も澄んでいる。イブが黙って調整をしてくれたからだろ? こういう細かいところを黙ってもフォローしてくれてるのには本当に感謝しているんだ」
話し掛けて無視されて腹が立っただろうに、それでもこうして僕が集中できる環境を整え続けてくれたのだから感謝の気持ちを表すべきだろう。
「…………わ、私は別に。マスターに快適に過ごしてもらうのが仕事だから……。か、勘違いしないでくださいねっ!」
珍しくうろたえると顔を隠してしまった。どうやらイブの機嫌を取るのは中々に難しいらしい。
「それで、どうしてメノス鉄なんかで武器を作ってたんですかマスター?」
それからしばらくしてイブが話し掛けてくるようになった。
「ん。1つは鍛冶の熟練度が上がると解ったから」
【鍛冶】スキルは使えば使うほどに熟練度があがる。今のうちにそれを上げておきたかったのが1つ。
「材料の中で低ランクの金属を使用した武器を作りたかったことが1つ」
元々、僕が作った武器は安い金属の盾であれば斬るだけの威力を誇っていた。
それは【鍛冶】スキルに僕の高レベルの補正が働いたからに違いない。
つまりレア金属を材料にすると威力が出過ぎるのだ。
先日使ったコアを触媒にした武器なんぞ使おうものなら目立ちまくるに決まっている。なので、普通に使える武器が欲しかったのだ。
「なるほど……。それでこんなに作ってどうするんですかね?」
つい興に乗り過ぎたので作り過ぎた点をイブに指摘された。
「……そうだなぁ。潰すのは勿体ないんだよな……」
自分で作った武器をお蔵入りさせるのは勿体ないし、かといって潰してインゴットに戻すのもなしだろう。
「仕方ない……売りに行くか」
「そうだと思いましたよ」
その後、僕とイブは変装をすると幾つかの武器屋に自作のショートソードを売りに行くのだが、メノス鉄を使ったわりに高額で買い取ってもらえたことで大喜びするのだった。
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