第57話お引越し②
「じゃあ、だしてくね」
そういうと、次々に家具を取り出していく。
ロベルトはそんな様子を驚きつつも見守っている。
「質問しない約束だから聞かないが、丸太の時もそうだが不思議な感じだな」
そういえばそんな約束をしていたな。律義というかフェアというか……。
僕はロベルトなら信頼できると思ったので、少しだけ秘密を打ち明けることにする。
「ちょっと人より大きいアイテムボックスを持ってるんだ」
そう言ってザ・ワールドを開いて見せる。勿論本当の部屋では無くフェイクルームになるけどね。
「手で触れているものを収納したり、出したりできる能力なんだよ。だから家具なんかもこうして運べば労力にならない」
そう言うと実演してみせると……。
「ちょっと大きい? かなり大きいような……。そもそも触れただけで出し入れできるって凄いことなんじゃ……?」
ロベルトが困惑していたけど、秘密を見せたわりに利用しようという気は無いようなのでますます好感が持てる。
「そう言えば僕の部屋ってどうなるんだろう? もう住めるのかな?」
学生は全てアカデミー敷地内の寮に住むことが決まっている。
ロベルトが既に引っ越してるのなら僕も住めるのでは?
「貴族は荷物が多いから前もって引っ越ししてるだけだ。一般学生は数日前からのはずだよ」
「なるほど。じゃあ仕方ないか……」
僕は納得する。
なんだかんだで引っ越しはあっという間に片付いたので外にでてアカデミーを歩いていると…………。
「あら、ロベルトではありませんか」
「これはアンジェリカ様。御機嫌麗しゅう」
アンジェリカが建物の前に立っていた。
「ロベルトも引っ越しですか、それにしても……えっ!?」
話続けていたアンジェリカは途中で僕の姿に気付くと表情を一変させる。
「エ、エリク様っ!? どうしてこちらに?」
「アンジェリカ様。御機嫌麗しゅう存じ上げます?」
突然あたふたするアンジェリカに僕はロベルトを真似してみた。
「エリク様、学園内では元の身分関係ありません。どうか呼び捨てでお願いしますわ」
「えっ?」
その言葉に僕は戸惑う。
なんせ、侯爵家のロベルトが『様』付けで呼んでいるのに平民の僕が呼び捨てにするわけにはいかないと思ったのだが……。
僕がロベルトを見ると……。頷かれた。どうやら言う通りにした方がいいらしい。
「わかったよ。それじゃあ無人島の時と同じように呼ばせてもらうねアンジェリカ」
その言葉にアンジェリカは満足そうな顔をする。
「それで、どうして2人は一緒にいるのですか?」
「エリクには私の引っ越しを手伝ってもらったのですよ」
「まあっ」
アンジェリカさんは驚きを露わにする。
「それより、アンジェリカ様はどうしてこのような場所にたっておられたのですか?」
「実は引っ越し業者がこなくて……それで途方に暮れていたのですよ」
どうやらロベルトと同じらしい。この時期は引っ越しのピークらしく、人手不足で回らないようだ。
「そう……なん……ですか」
ロベルトの歯切れの悪い返答にピンとくる。
恐らく手伝いを申し出たいのだろう。だが、そうすると僕の秘密を誘導するようにバラしてしまいかねない。それを危惧しているようだ。
「宜かったら、僕が手伝うよ?」
「え、エリク様が?」
なので僕の方から提案してみる。
「うん、ロベルトの時も言ったけど、同級生になるんだから助け合いは必要でしょ」
一方的に助けるのなら問題かもしれないが、学園生活で僕の手が届かないところがあるかもしれない。そんな時は2人に助けてもらうつもりなのだ。
その後、僕はアンジェリカにもザ・ワールドのフェイクルームを見せて能力の説明をするとあっという間に引っ越しを終わらせてしまった。
「そうだロベルト」
「ん。どうした?」
引っ越しを終えて撤収しようと考えていたところで思い出した。
「これ、欲しがってた野菜。同じ味のやつを市場で見かけたんだ。良かったら持って行ってくれ」
以前、無人島で【畑】で採れた野菜をロベルトは美味しそうに食べていた。
そして「出来れば家でも仕入れたい」などと言っていたので渡す機会を伺っていたのだ。
「ありがとう。この味が忘れられなかったんだよ!」
とても嬉しそうに受け取ってくれる。そんな顔をされると作り手としてとても嬉しい。ロベルトさえよければこれからも定期的に渡していこう。そんなことを考えていると……。
「ろ、ロベルトばかりずるいですわ! わたくしもエリク様から……」
何故か不満げな様子を見せるアンジェリカに。
「アンジェリカも欲しいというのならあげるよ」
僕はロベルトに渡したのと同じ野菜セットをアンジェリカにも渡す。
「あ、ありがとうございます。早速、お城の料理人に料理させますわ」
「ん?」
何やら聞き捨てならない言葉が聞こえたような……。もしかするとアンジェリカの立場って……?
「それでは私は戻らなければなりませんので」
アンジェリカは機嫌良さそうに魔導車に乗り込んでいく。そして太陽のような笑顔を見せると……。
「次は入学後にお会いしましょう」
そう言って去っていった。
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