第53話レンタル工房

『マスター鍛冶で武器作りに行くんですよね』


 先程の会話を聞いていたイブは僕の心の内を的確に読み取る。


(そうだな。修理だけだと勿体ないから【鍛冶】もやっておくつもりだよ)


『だったら武器に使う金属を仕入れなくて良いんですか?』


 確かに武器を作るのには材料が必要だ。だけどそれに関しては問題ない。

 目的地に着くと僕はドアをあけるのだった。



「すいません。鍛冶工房のレンタルをお願いしたいんですけど」


「いらっしゃいませ。1日銀貨20枚になります」


 店の中に入ると気の良さそうな女の店員さんが受け答えをする。

 ここは様々な施設を貸し出してくれるお店だ。


 ポーションを作成する為の器具であったり、装備を修理するための研磨道具や炉など……。

 普通に購入すると高額する道具だが、ここでレンタル代を支払うことで使い放題になるのだ。


 この施設を利用して、武器防具の簡単なメンテナンスや、自分達が冒険で使うポーションの作成をして費用を浮かせる人間もいるのだ。


『なるほど。確かにこれなら修理はできますけど……』


 あまり納得してなさそうなイブの声を聞きつつ僕は店員さんと話を続ける。


「すいません、インゴット売ってください」


「はい。今の在庫はこちらです」


 そう言って店員さんがリストを見せてくれる。

 そう、ここ『レンタル工房』は各種材料の販売も行っているのだ。

 生産系の人間が集まる場所でその手の材料を販売する事で効率よく売り上げを伸ばすという上手いやり方をしている。


「流石にオリハルコンは高すぎるから……今後も考えると……」


 オリハルコンはインゴット1つで金貨1000枚だ。因みにインゴットは1つでショートソードを1本作れるように大きさを調整されている。


「よし、ヴェライトインゴットを2つお願いします」


 ヴェライトとはそこそこレアな鉱石で、中堅の探索者達が好んで装備する鎧や武器などに使われている。


「はーい。2つで金貨100枚です」


 なので、現在の僕の手持ちでも何とかなるのだ。

 それ以上のミスリルとかになれば金貨500枚を超えるので、これらの材料はできれば購入しないで採掘で手に入れたいところだ。


 そんな訳で、インゴットを手に入れた僕は案内されて工房へと入って行くのだった。



「さて、先に修理をしようか」


 フリーテーブルに僕はイザベラさんから預かってきた刃物を並べる。

 取っ手の部分に血がしみ込んでいたり、刃物が欠けていたり錆が目立っていたり。解体の仕事が大変なのが良く分かる傷み具合だ。


「まずはこの汚れなんだけど…………【クリーン】」


 僕が刃物にクリーンの魔法を掛けると先程までの汚れが嘘のようにピカピカになる。

 錆もとれており、これだけで切れ味が戻ったように感じるのだが……。


「細かな刃こぼれは直ってないからね。研ぎなおすとしますか」


 僕は備え付けの設備に腰かけると……。


「すいません。お隣宜しいですか?」


「ああ、構わないよ。そっちもパーティーの武器の修理かな? 大変だね」


 ここは鍛冶をする人間が共有するスペースなので、お互いに声を掛け合って使うのが望ましい。


「あははは、そんなところです。お互い大変ですね」


 さび落としから研ぎなおしは上手さの上下はあるけど一般人でもできる。

 なので、探索者の一人が代表して武器を預かり、こうして利用して仕上げるのは珍しくない。

 鍛冶屋にメンテナンスに出すのは、ある程度ガタがきてからにする人が多いのだ。

 この人は当番なのか、大量の武器を背後において研磨をしている。


「よし。それじゃあやろうかな……」


 とはいってもやる事は簡単だ。刃物を水で濡らし、砥石にかけていく。

 途中、目詰まりすると研げないのでこまめに洗い流すだけ。僕は【鍛冶】のスキルに身を任せて一心不乱に刃物を研ぎ続けた。


「よーし、大体こんなものかな」


 それから数時間程して作業を終えた。


「おおっ、早いな」


 お隣さんはまだ半ばらしく羨ましそうな目で見られる。


 僕は切れ味が戻っているかの確認をするために試し斬り用の木材をセットする。


「よーし。これを振って斬れるようなら問題ないかな」


 僕は自分の研ぎ方が正しかったのかワクワクしながら刃物をゆっくりと木材に押し当てると………………。


 ――スルリ――


「えっ?」


 次の瞬間、木材が斬れ落ち綺麗な切断面が転がっていた……。





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