第54話蒼朱のツインエッジ
『うわー、凄い綺麗な切断面です』
イブの声で思考が戻ってくる。
僕はまじまじと木材を見ると、もう一度セットして同じことをしてみる。
木材の上に刃物を乗せ、すっと引く。すると、まるで抵抗が無く木材はスパンと切れてしまった。
どうやらこの【鍛冶】も僕のザ・ワールドで強化されているらしく、本来の恩恵やスキルとは別物になっていたようだ。
「ま、まあ。イザベラさんの解体も楽になるしいっかな?」
意図していなかった切れ味に戦慄するが、やってしまったものは仕方ない。多分喜んでくれると思うのでこのままにしよう。
「さて、次は僕のメイン武器作りだな」
『マスターには丸太があるのでは?』
(あれはあくまで緊急時に振り回してただけなんだけどさ……)
確かに重量感があり、下手な武器よりもリーチが長いので味方を巻き込むことを気にしなければありだ。
だけど、絵面が格好良くないし、何よりもどうせなら剣を持ってみたいと考えていた。
そんなわけで僕が作るのは2本のショートソードだ。
まず、先程とは違う場所に行く。
炉は全部で4つ程用意されていて、いつでも鍛冶が出来るように火が入っている。
僕はそこにヴェライトのインゴットを置くと熱で柔らかくなるのを待つ。
そして柔らかくなってきたら金床に乗せハンマーを振るって中の空気を抜く。
しばらくして空気が抜けたのでハンマーを振るい形を整えていく。
最後に粗熱を取って磨き上げれば…………。
「格好いいかも……」
周囲の人間も途中から手を止めてこちらを見ていたようで僕の剣に見惚れていた。
自分で打ったとは思えない程の出来ばえだ。刀身はツルリと輝き、手に持つ重さのバランスも丁度良い。右手と左手用に刃の角度を変えているので振り回しても問題は無い。
そしてグリップの上の剣の真ん中にはちょっとした窪みを設けてあるのだが……。
「さて、切れ味の確認をしなきゃな……」
先程は木材がすっぱり切れてしまった。作っている時の感覚では解体用の刃物より斬れそうだ。
なので僕は盗賊からもらってきた鉄製の盾を立てかけると切れ味を確認することにする。
恐らくだが、金属製の盾だし多少欠けさせるぐらいの威力は期待できるんじゃないだろうか?
もしそうなら今の時点で合格点だ。僕は次の工程を考えながら剣を振る。
「えいっ!」
――ゴトリ――
何の抵抗もなく盾が真っ二つになった。
周囲の人間が大きく口を開いて驚いている。中にはハンマーを足に落として飛び跳ねているもいた。痛そうである……。
「えっと……、あはははは」
僕は笑うことでその場をごまかすのだった。
「くそー。もう少し色々作りたかったな……」
あれから、周囲が注目し始めたので、僕は何かを言われる前に引き上げてきた。
今は日も落ちたのでルーム内に戻っている。
「仕方ないですよ。あれだけ目立つと流石に……」
イブがカイザーを膝に乗せて頭を撫でてやっている。
もちろん幻惑魔法による映像なのだが、カイザーの寛ぎようをみると本気でそこに身体があるように錯覚しそうになる。
「しかし【鍛冶】も十分やばいな。こうなるとあれをやったらどうなるのか……」
「ん? マスター何か考えがあるんですか?」
そう、実はこのショートソードの威力を上げるためにある方法を考えていたのだ……それは……。
「うん。実はこれを使おうかと思ってさ」
そういって手に取ったのはダンジョンコアだ。
「そんなランクⅡのコアなんてどうするんですか?」
イブが首を傾げると髪の毛がさらさらと零れ落ちる。段々と精巧な映像になってきてるのでどれだけ無駄に力を入れているのだろうと気になってしまう。
僕は作った2本のショートソードの窪みに火のコアと水のコアをそれぞれ嵌めこむ。そして…………。
「右のショートソードに火属性及び、火の魔法を付与。左のショートソードに水属性及び、水の魔法を付与」
手をかざして【付与】を発動させる。そうするとショートソードの刀身が輝き始める。
「マママ、マスター一体何をっ!」
イブが慌て始める。そんな表情まで作ってるなんて本当に芸が細かいな。
「【付与】の恩恵は触媒を用いて属性や魔法を付与することができる」
「そ、そうですけど……それが何か?」
そうこうしている間にも刀身は輝き続けている。
「普通なら付与師の人が魔法を伝わらせる金属――ミスリルなんかに長時間かけて魔法をしみこませるものらしいけどね。これなら短時間でできるのかなと思ったんだよ」
そうこうしている内に輝きが収まり始め、僕も手をかざすのを止める。
やがて輝きが収まるとそこには2本のショートソードが置かれていた。
「む、無茶苦茶過ぎませんか?」
イブが目を見開いて動揺している。
そんな中僕は蒼と朱に染まった刀身を見ながらうっとりする。
「うん。蒼朱のツインエッジだな!」
朱の剣を振ると炎が立ち上がり、蒼の剣を振ると冷気が漂う。
「そんな武器ってありなんですか…………」
イブの驚き声だけがルーム内に響くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます