第36話試験終了

「それでは、これにて王立総合アカデミー入学試験を終了する」


 あれから、二日が経過した。

 僕を含む21名は試験期間終了と共に開始地点に集まった。

 そこで船に乗せられ王都へど戻ってきた。


 王都へ戻った僕らを待っていたのは、試験開始時に僕らの前に立ち試験内容を伝えた試験官だ。

 彼は壇上に立つと僕らを見渡すなり試験の終了を宣言したのだ。


「今回試験を受けた受験生が200名。うち合格者はここにいる39名とする」


 試験官の前に整列した僕ら。その人数は開始時に比べて圧倒的に減っている。


 それだけ今回の試験内容が厳しかったのか。その分残されている人間はやり手を思わせる雰囲気が漂っている。


 それにしても、王立総合アカデミーは1000人程の学生が3年間生活を共にする学校だと聞く。

 今年の合格者がたったこれだけでは、広い施設が無駄になるのではなかろうか?


『いやー。それにしても最後までモンスターが殺到しましたねぇ』


 試験官の有難い言葉に退屈しながら考えこんでいるとイブが話しかけてきた。

 先日の幻惑魔法で姿が刷り込まれたため、笑顔を浮かべているのが想像できる。


(最後はCランクモンスターまで襲ってきたからな)


 何故か毎日のように強敵と呼んでさしつかえの無いモンスターが僕らのキャンプ地を襲ってきた。

 大半はイブとカイザーに任せて倒してもらっていたのだが、昨晩になるととうとうCランクモンスターのオーガが現れた。


 オーガは並外れた怪力で木を引っこ抜いては投げるという常識はずれな存在な上耐久力も優れている。


 イブの魔法でもカイザーの突撃でもさほどダメージを受けず、このままキャンプ地に入り込もうとしていたオーガだったが、僕は対峙すると突進を真っ向から受け止めた。

 カイザーの卵を毎日食べていたせいかその攻撃はさほど重く感じず、取り出した丸太1号を振りかぶってホームランの刑に処すると首を折ってお亡くなりになった。

 オーガの素材に需要があるかは分からないけど、今は冷室に安置してある。


 とにかくそんなわけで、普通なら実質合格不可能だった試験も本日で終了となったのだった。




「それじゃあ、エリク。次は学校で会えるのを楽しみにしているよ」


 あれから船に乗り込み、街へと戻った僕ら受験生。

 試験が終わって安心したのか、他のメンバーは僕に礼を言うと思い思いに散って行った。


 最後にロベルトが「約束の報酬を支払う」と言ってお金を用意して戻ってきたのでありがたく受け取った。ジャリ、とお金がこすれる音とともに手に重さが加わる。

 どうやら結構な金額が包まれているようだ。


「こちらこそ。また会えるのを楽しみにしてるよ」


 僕らは握手をすると別れた。

 次に会うのは1か月後にある入学式になるだろう。


 それまでの間に色々とやっておきたいことがある。ルーム内の設備の充実から新たなコアの入手など。時間は限られているのだ。


『結構支払ってくれたみたいでよかったですね』


 イブの言葉に頷く。

 ロベルトは約束通り多額の報酬を支払ってくれた。何でもアンジェリカの家からも支払われたらしい。


 彼女は王都に戻るなり迎えの馬車が来てしまったので挨拶が出来なかったが、今度会った時にでもお礼を言っておこう。


(これだけお金があれば色々出来そうだけど、取り敢えず移動しよっか)


 無人島では結構な時間があったので、戻ってからの行動をあらかじめ決めておいたのだ。


「取り敢えず、まずはあそこだな」


 僕は必要な作業を順番に消化すべく歩き出した。




 ★


「アンジェリカ様。お疲れさまでした」


「二人こそ、試験中お疲れ様」


 アンジェリカは豪華な馬車の椅子に腰を鎮めるとようやく気分が落ち着く。


「随分とお疲れのようですね」


 迎えに来た執事が話しかけてくる。アンジェリカは億劫に感じながらも答えた。


「ダイアウルフの集団に襲われましたからね」


「なんですと。良くご無事でしたね?」


 驚きの表情を浮かべる執事に。


「助けて下さった方がいましたからね」


「となるとカベロ家の子息が役に立ったのですな?」


 確かにロベルトなくしては無人島での生活は成り立たなかっただろう。

 アンジェリカは王城で育ったので食事一つ用意できないのだから。


「彼には非常にお世話になりました」


 だが、アンジェリカが思い浮かべたのは別な人物だ。


「入学式まで1ヶ月。長いですね」


「何か言われましたかアンジェリカ様?」


 疲れてぼーっとしていたサーラが反応する。


「いえ、気にしないで頂戴」


 平静を装ったアンジェリカは窓の外をみるのだが……。


「それにしてもダイアウルフですか……。これはやはり他の派閥の妨害ですかな?」


 王位継承権は低いがアンジェリカは王女だ。事情あってゆえ試験に参加していたが、それを好機とみて刺客が入り込んでいても可笑しくは無い。


「そうかもしれないわね。だとすると本当に……」


 運が良かったのかもしれない。ダイアウルフのあとに追撃は無かったが、もしあったなら自分は命散らしていたかもしれない。


「エリク様に感謝しかありませんね」


 つかみどころのない少年にそう言えばお別れの挨拶をしなかったと思い出すとアンジェリカは柔らかく笑うのだった。



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