第35話謎の美少女登場

「それはどういう恩恵なんだ?」


 イブの説明からいまいち使い方が解らなかったので質問をする。


『言葉の通りです。対象に幻を魅せて惑わす力ですね。使用許可をもらえますか?』


 どのような力か知っておいた方が良い。


「ああ、使ってくれ」


 僕が許可をすると、目の前の光景がガラリと変わった。


「へぇ……懐かしいな」


 そこは元の世界の街並みだった。車が走り、スーツ姿のサラリーマンやOLが行き交うスクランブル交差点。この世界では見る事が出来ない光景に間違いない。


『マスターの記憶を元に再現してみました』


 目の前に駐車してある車に触れてみるが当然のように触れない。まぼろしなのだから当然か。


 イブは目の前の光景を次から次に変えていく。

 見た事がある街並みに屋内施設、はたまた行ったことも無いような自然界でオーロラが浮かんでいたり。


『ある程度は記憶と知識から造って見せています』


 どうりで、テレビなどで見た事はあるがオーロラなんて生で見たことがないからな。


 やがてスライドショーは終了したのか、元のルームへと戻った。


「なるほど。これは強力だな。対象に幻惑を見せられるとなると色々応用が思いつく」


 イブが使っているのを見てやり方を理解したので、目の前にスクリーンを映し出してみる。映画館をイメージすると周囲をくらくして、やがてスクリーンに映画が映し出される。

 昔好きだった映画だ。


「僕の記憶から引っ張れるということは今まで見た映画なんかは全部再現出来るんだな。


 今は覚えているシーンを写しているが、イブならばもっと深い記憶をサルベージする事も可能だろう。


『そうですね。ベースがマスターの記憶なのでバリエーションは少ないですけど可能ですね』


 仕事ばっかりしていたので、娯楽のストックはそれ程多いくないらしい。

 それでも、この世界のものではない娯楽をもう一度体験できるのなら贅沢は言うまい。


 落ち着いたらこの恩恵で楽しむことを決定していると…………。


『あっ、もしかすると……』


 イブが何かを思いついたようだ。





「なあ、イブ。寝ていいか?」


『も、もう少しだけ待ってください。あと少しで調整が終わりますので』


 あれから1時間、イブが思いついたことがあるというので僕はそれに付き合っていた。

 ちなみに、外の見張りをイブにお願いしていたのだが『集中する必要がありますので』ということでカイザーに変わってもらっていた。

 半分寝ていたカイザーだったが、僕の服に顔をこすり付けて瞼を開くと文句を言わずに外へと出て行った。


 本当に物分かりが良くて可愛いやつだ。


 そんな訳で、イブの思い付きを待っていたのだが何もすることがなく待たされていると急激な眠気が押し寄せてくる。

 いよいよ欠伸を堪えきれなくなり横になって目を瞑っていると、ようやくイブが歓声を上げた。


『やった! できましたよマスター。完成ですっ!』


「おおーそうかーそれは良かったなーー」


 僕はイブに適当に返事をすると夢心地に浸る、眠気に任せて幸せな夢へと誘われようとしていたのだが…………。


「マスター。起きてくださいよぉ」


 ゆさゆさと揺らされる。硬い何かが背中に触れる。イブが話しかけて僕の睡眠を妨害してくる。


「しつこいぞイブ。僕はもう疲れてるんだ、続きは明日に……」


 振り払うように腕を回し、瞼を開いてそちらを見る。


「えっ?」


「お待たせしましたマスター。こちらが見て欲しかったものになります」


 そこにはあり得ない程の美少女が立っていた。年の頃は僕と同等ぐらい。

 腰まで届く金髪に青の瞳。薄桃の唇に純白のドレス。整った顔立ちから仕草。

 僕の好みにピッタリ一致する天使がそこに存在していた。


「これは……夢か?」


 いつの間にか熟睡していて夢を見ているのだろう。でなければこんなこの世の者とも思えない完璧な美少女が存在しているわけが無い。僕がそう結論をつけると。


「安心してくださいマスター。夢では無くてイブです」


 目の前の美少女はそう名乗った。


「イブだって?」


「ええ。マスターの記憶の中でもっとも好ましいとされる要素をかけ合わせて最適になる容姿を再現しました。どうですか?」


 そう言って悪戯な笑みで見上げてくる。その声に僕は確かにイブらしさを感じた。


「なるほど。幻惑魔法の思わぬ使い方だな」


「御明察です。マスター」


 イブは僕が許可している限りコアの力を使うことができる。攻撃魔法でモンスターを撃退したり、補助魔法で部屋を綺麗にしたりだ。


「この魔法は相手に虚像を見せることができますから。それならば私がイメージする虚像を投影することでマスターともっとコミュニケーションをとることができるのではないかと考えました」


 胸に手をやって自慢げに振舞う。声は完全にイブなのに、こうして表情が加わると新鮮だ。


 声は僕が元の世界で一番好きだった声優で、身体は僕の好みを集めた姿を使っている。そりゃ目を惹かれるわけだ。


「さっき揺すったのはなんだった?」


 まさか手を使って揺すったわけでは無いだろう。


「それは、ルームの一部を動かしてです。硬さを調節することで人の手を再現するつもりでしたけどこっちはまだ改良する必要がありますね」


 そこまで改良してどこを目指すのか。僕はイブの決意に満ちた顔を見ると。


「まあ、良い目の保養にはなるかもな」


 相棒であるイブと目線を合せて会話できるようになったことで無意識に笑みが浮かんできた。




 

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