第32話集団キャンプ
目の前ではロベルト達が食事をしている。
寝床と食料を用意した僕は休憩をしているロベルト達の元に戻ると「安全を確保できそうな場所にテントを用意した」と告げ浜辺へと案内した。
ここならば森から離れていて見晴らしがよいので、モンスターからの不意打ちを受けづらい。
(イブ。カイザーの調子はどうだ?)
Dランクのモンスターが近くにいるとなるとおちおち休んでもいられない。
まずはその排除ということでカイザーを出した。
カイザーには高ランクモンスターを仕留めたらイブに渡すように言ってある。
『既にカイザーがDランクモンスターを4匹も仕留めてきてくれましたよ』
イブも上機嫌になっている。今は冷室を作らせてそこに仕留めたモンスターを保存させているのだが、街に戻って剥ぎ取りが済めば魔核を取り出すことができる。
雑魚の魔核では物足りないと言っていたイブなので、舌なめずりするような感じで楽しみにしているようだ。
(それにしても、試験の説明と大違いだな)
通常、Dランクモンスターは単体でも同ランクの冒険者か探索者が複数で戦うべき敵だ。
これは単体でのランクであり、5匹を超えるとCランク相当。10匹を超えたらBランク相当の難易度になるのだ。
アカデミーの試験がいかに厳しいとはいえ、不自然すぎる。
こんな状況、普通の受験生では絶対に突破出来ない。
『おかげで大量の獲物が手に入ってるんですけどね』
そこに関しては僕も利益を得ているから文句は無い。
森に潜むモンスターを間引く事で安全を確保しつつ後の資金を稼ぐ。
Dランクモンスターから採れる素材はそこそこの値段で売れるはず。そうなれば色々と買い揃えることが出来るので、ザ・ワールド内の設備を充実させられるのだ。
(……と、その話は後にしよう)
ロベルトが近づいてきたので僕はイブとの会話を止めた。
「それにしても凄い手並みだな。まさかこの短時間で食料の調達からテントの設置まで終わらせるとは」
キャンプ地を見渡すとロベルトは感心したような表情を僕に向ける。
「まあ、このぐらいは。引き受けたからには出来る限りはさせて貰うつもりです」
なるべく丁寧に対応しようとしたのだが、ロベルトは眉を顰める。
「エリク、敬語は止めてくれ。リーダーのお前にそんな態度をされると話し辛い」
そうは言うが、あちらさんは貴族の三男。平民が舐めた口を聞いて怒らせてしまったら一族郎党皆殺しにあうのではないか?
そんな勘繰りを話してみるのだが……。
「いや、お前は貴族をどんな目で見ているんだ?」
非常識な人を見るような視線を向けられた。
「冗談だよ。ロベルトさんの意見はもっともなので敬語はやめるよ」
「俺の事は呼び捨てで構わない。他の連中もだ」
「わかったよロベルト」
譲らなそうな顔をしていたのでその要求を受け入れると、
「それにしてもエリクが採取してきた果物や野菜なんだが、これまで食べてきた中で一番美味いぞ。持って帰って家族にも味あわせたいぐらいだ」
『ふっふっふ。そうでしょそうでしょう』
ロベルトの賛辞にイブが機嫌良さそうにする。
「この辺にあったのは取り尽くしたからな。探して見つかったら確保しておくよ」
そこまで気に入ったのなら今後の売り込み先として考えてみるのは良いかもしれない。
街に戻ったら検討してみようかと考えていると。
「なあ、エリク」
ロベルトが真剣な眼差しを向けてくる。そして――。
「これを受け取って欲しい」
渡してきたのは首に飾っていた緑色の宝石が嵌められたペンダントだった。
「これを? どうして?」
「試験終了後にポーションの代金の他に護衛してもらった分も報酬で渡す。だが、それとは別にこれを受け取って欲しいんだ」
「見たところ、結構なモノじゃないのかこれ?」
太陽の光を浴びて輝く宝石は見ているだけで吸い込まれそうな雰囲気を持っている。
「ああ、俺が15の誕生日に両親が贈ってくれたお守りなんだ。持っている者に幸運をもたらしてくれるそうだ」
「そんなの受け取るわけにはいかない。こんなのもらわなくても約束は守る。それとも僕が信用できないか?」
ロベルトが必死になるのは分かる。僕が見放した時点で彼らはこの試験を降りるしかないのだから……。
だが、そんな僕の言葉にロベルトは答えた。
「勿論信用しているさ。いくらでも吹っ掛けられる相手を無償で助けるお人好しだからな。俺はこれまで生きてきてそんなやつ一人しか知らないぞ」
そう言って笑顔を見せる。
「むぅ……。なんだか褒められてる気がしないんだけど……」
「褒めて無いからな。とにかくそれは俺の気持ちなんだ。だから遠慮せずに受け取ってくれ」
「……まあ。そういう事なら」
そこまで言われては断るのも申し訳ない。
僕はしぶしぶとロベルトからペンダントを受け取るのだった。
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