第31話リーダーになってくれと頼まれた

「えっ。今なんて言ったんですか?」


 あれから、戦闘の処理が終わり落ち着いたところでロベルトが戻っていた。


「俺達のリーダーをやって欲しい。そう言ったんだ」


 20人の視線が僕に集中する。その瞳は真剣で、それでいて縋りついているように見えた。


「申し訳ないんですけど……僕は団体行動はちょっと……」


 ロベルト達の気持ちはわかる。あれだけの恐怖を植え付けられたんだ、普通に考えるなら心が折れているのだろう。


 ここから体制を立て直そうにも、あらゆる物が足りなさすぎる。


 だけどそれは僕には関係ない。先程助けたのはあのまま見殺しにしていたら受験が終わって戻ったあと、レックスやミランダに合わせる顔が無いと思ったから。


「そこを何とか頼む。このお礼は後日絶対にすると約束するから」


「そうは言われても……」


 僕が断ってもロベルト達はリタイアしなさそうな雰囲気を漂わせている。

 回復ポーションも尽きて、ろくに休むこともできなければ食料も確保できていないのに……。


 このままだと危険そうなのだが、残り二日を何とか耐え抜くつもりのようだ。

 別に見殺しにしたいわけではないのだ……。


 どうしたものか……。僕が悩んでいるとイブが、


『マスター』


(なんだ? こんな時に)


 決断しなければならないのに判断する材料が不足しているのだ。

 後にしろと思考を飛ばすのだが…………。


『ちょっと報告したい事が…………』


 そう言って僕に新しい情報を寄越す。

 その情報を得た僕はどうするか決断をした。


「分かりました。3つの条件を守ってもらえるのならリーダーの件引き受けます」


 正面から視線を受け止めると指を3本立てるとロベルトに突き付けた。


「その、条件というのは?」


 ロベルトは苦い顔をしながら条件を聞いてくる。


「1つめに、僕は人に指示をした経験がありません。なのでロベルトさんにサポートをお願いしたいのですが、やってもらえますか?」


「勿論だ。俺で良ければサポートさせてもらう」


「2つめに、僕の恩恵は詮索しないで欲しいです。それはこの試験期間中だけではなく、試験終了後についてもです。可能なら他の人に聞かれてもどんな行動をしたかも含めて黙っておいてください」


「それも了解だ。我がカベロ家に誓おう。そしてこの場にいる全員にも徹底させる」


 まあ、そこまで堅苦しくなくても構わないんだけど、今は色々聞かれると面倒なので黙ってもらうだけだし。仮に王族とか身分の高い人物と接触できたらバラしても構わないのだ。


 力というのはただ持つだけでは意味が無く、大きな勢力と協力する事で効率的に運用すべきものなのだから。


「それで、3つ目は?」


「3つめは、まず全員休んでください。戦闘が終わってからも碌に休んでいないでしょう。周囲の警戒は僕がやりますから」


 戦闘のせいで全員がボロボロになっている。装備は血や汗、泥なので汚れていて無残な姿だ。今のままでは移動すらままならないだろう。


 僕はこの後の行動を考えるとその場を離れようとするのだが……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「なんですか。何か不満でも?」


 僕が首を傾げるとロベルトが戸惑いを浮かべる。


「いや……、だって。それだとお前にとって得が無い。俺はてっきり足元を見た要求をするものだとばかり思ってたんだ」


「そんな事はしませんよ」


「何故なんだ? 今なら俺達はお前に逆らうことができないというのに」


 警戒心をむき出しにするロベルトに向けて僕はできるかぎり優しく微笑む。そうするとその場の全員が毒気を抜かれたかのような顔をする。


「困ってる時はお互い様です。もし今回のことを恩だと思うのなら、いずれどこかで困っている人がいたら助けてあげてください」


 僕がしてもらって嬉しかったことを返しているだけなのだ。

 この先ロベルト達が困っている人を助けて同じようになれば、この世界はもっと優しくなる。


 僕はイブと今後のことについてやり取りをしながらその場をあとにした。




「さてと、こんなもんかな」


 あれから先程バーベキューをやった浜辺まで移動すると、使っていなかったテントを設置して【畑】から二日分の食料を採取する。

 伐採をして動き回っている間に果物も発見したので品目は大幅に増えている。


『本当にマスターは優しいですよね』


 整えた場を眺めているとイブがそんな感想を言ってきた。


「よく言うよ。あれを聞かなかったら僕は離れていたかもしれないんだぞ。イブこそ何故わざわざ情報を寄越した?」


 イブから寄せれた情報というのは、どうもこの周辺にDランクのモンスターがまだいるというもの。もし彼らが遭遇してしまえば全滅は避けられない。


 知ってしまったせいで僕は引き受けるしかなくなったのだ。


『うーん。多分なんですけど』


 イブは少し考えこむ素振りを見せると言った。


『あのまま離れて、もしも誰か死んだらマスターが気にするじゃないですか。そうなるとマスターの平穏を守るのが私の仕事なのに果たせないなーと思ったので』


「それだけか?」


『他にはですね。マスターこのまま放っておくと他の人間と関わらないんじゃないかなと思ったんです。過去に嫌な思いをしたのは分かります。でも時には手を差し出す必要があると私は思ったんです』


 僕の過去の記憶を読み取ったのか、真面目な口調で語られる。

 元の世界であったちょっとした嫌な記憶が邪魔をするのか僕は他人と関わりに行くつもりがあまりなかった。


 助けはするが、それ以上踏み込まれたく無いし踏み込みたくない。そんな僕にイブはこのままでは駄目だと言ったのだ。

 僕の為ならばあえて苦言も申してみせる。そんなイブの心情がわかったので。


「ほんと。お前はおせっかいな奴だ」


 素直にお礼を言えないのでぶっきらぼうに答えると、


『私はマスターに仕える管理者ですからね』


 僕の気持ちが伝わったのか、イブはそう答えるのだった。


「さあ、準備は出来たから移動させるか。いつまでもカイザーに見張りを頼んだら可哀想だからな」


 念のためにカイザーに指示してロベルト達を守るように言っておいた。

 カイザーはスピードだけならSランク。その他で総合的に見ればBランク以上の実力がある。


 余程の相手が出てこなければ安全を確保できるだろう。


 僕はロベルト達を呼びに行きながら今後の事について考えるのだった。

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