第29話騎士見習いロベルトの奮闘

 俺の名はロベルト。今年16歳になる侯爵家の三男だ。

 本年の王立総合アカデミーを王女が受験するという事で護衛を命じられていた。


 無人島のサバイバルと聞かされた時はこんな不便な場所でまともな生活できるのかと思ったが、王女はできた人で不平不満一つ言わなかった。


 俺は周囲の受験生達を王女の素性を隠しつつ説得すると20人の簡易クランを結成した。


 初日は大雨で食料の補給もままならず、テントがギリギリ一つ間に合っただけ。

 王女を除く他の受験生は寒さに耐え忍ぶことになった。


 翌日からクランを束ねて役割分担をすることで少しずつこの島での生活基盤を整えていった。


 無人島とはいえ食物は豊富で、果物や野菜など探せば見つかった。

 小川に入って魚を獲るのにも、受験生の中に【漁】の恩恵を持つ者がいたおかげで食べきれない量の魚が手に入った。


 燻製技術などを使い、食料を備蓄していき、ようやくこの島での活動が安定してきたと思った頃、そいつらはやってきた。

 現れたのはDランクモンスターのダイアウルフ。


 本来ならばDランクの探索者か冒険者が数人掛かりで倒すべき敵なのだ。

 それが一度にたくさん。正直絶望したので10を超すと数えられなくなってしまった。


 それでも俺は諦めなかった、他の受験生を怒鳴りつけ陣形を組むように命じ、自身は実家から与えられた魔法剣を振るって応戦した。


 だが、こちらはあきらかに経験が不足している。ダイアウルフ達は無理をする事無く連携を駆使して攻めてくるのだ。


 対してこちらは連携の訓練などしていないうえ、戦闘に適した恩恵がある人間も数人。このままでは近い内に陣形を崩されて全滅する。


 そんな焦りを浮かべていると、


「きゃああああああああああああああ」


 背後を振り返ると王女様と二人の付き人の所に1匹のダイアウルフが到達していた。


「しまったっ!」


 最悪、我が身を犠牲にしてでも王女様だけは逃がすつもりだった。だが、隙を作ろうにもダイアウルフ達は狡猾。


「くそっ! 間に合えっ!」


 俺は自分の背中が隙だらけになるのにも構わず走り出す。だが、ダイアウルフの方が距離が近い。


 俺は次の瞬間王女様が引き裂かれるのを覚悟して目を見開いたのだが…………。


「させないよっ!」


『ギュアアアアアアア』


 今まさに襲い掛らんとしていたダイアウルフが何者かの蹴りを受けて吹き飛んでいく。


「手助けは必要ですか?」


 乱入してきたのは一人の男だった。


 この場の雰囲気に何ともそぐわない、確か試験の初日にあまりにもみすぼらしい格好をしていたので、パーティーに誘うには品格が足りないと見切りした相手。


 そいつが、まるで散歩でもしているかのような気楽さで聞いてきたのだ。

 突然現れた男の存在感なのか、ダイアウルフ達は動きをピタリと止めている。


 今ならば突破口を開くことができるかもしれない。


「頼む。助けてくれっ! 試験官達がこの事態に気付くまでで良い。時間を稼ぐのに協力してくれ」


 流石の試験官達もこの事態を見張っていないはずが無い、何らかの原因で救援が遅れているのだろう。いずれにせよ目の前の男の力を借りる事ができれば時間を稼ぐのは不可能ではなさそうだった。


 ところが、男は俺の要請に頬を掻くと言った。


「時間を稼ぐ。ね……」


 何やら難しい顔をする。ひょっとすると今からでも俺達を見捨てて逃げた方が良いと判断したのだろうか?

 単独で包囲網を突破してきたのだ、この男にならそれが可能かもしれない。


 俺はもっとも恐れる言葉が目の前の男の口から漏れるのではないかと恐怖したのだが…………。


「別に倒してしまっても構わないんですよね?」


「は?」


 男はあり得ない確認をしてきたのだった。

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