第28話伐採をしつつモンスター狩り

「ウインドカッター」


 目の前で100本近くある木が僕が放った風の魔法で切り倒されていく。

 それを次から次へと回収してはザ・ワールドに収納していく。


「食後の腹ごなしには丁度良いな」


 素早く動き回る事で適度な運動になっている。


「イブ。周囲に生物の反応はどう?」


『大丈夫ですマスター。周囲500メートルに敵は見当たりません』


 イブにモンスターか人間がいたら知らせるように言ってある。

 魔法で他の受験生を倒してしまってはシャレにならないからだ。


『それにしても、こんなに木を集めてどうするんですか?』


 集めた木は枝を落として丸太にしたうえで【牧場】に置いている。

 現時点で家畜が用意できていないので、スペースを有効活用してやろうと思ったのだ。


「そりゃ、何かに使えるかと思ってだよ」


『何かって……使い道決めて無いんですか?』


 イブがやや呆れた声をさせる。

 僕は移動しつつ次のウインドカッターで木を切り倒すと返事をする。


「王都に戻ってから木材が必要になった場合、取りに行くのが面倒だからさ」


 木材は家を建てるのにも薪としても使える。つまり売ろうと思えばお金にも換えられるのだ。

 現在、素寒貧の僕としては、様々なコアを購入できる資金が欲しい。

 そうなると、自分でも消費できる上、売買可能な資源を誰にも邪魔されないここで貯め込むのは当然の判断だ。


 僕はイブが納得するのを確認すると、しばらくの間伐採をし続ける。

 途中でモンスターに遭遇することもあったのだが、それに関してはカイザーが倒したそばからザ・ワールド内の自分の巣へと持っていく。

 あるいはイブが魔法を使って撃退して見せる。


 イブの魔法についてなんだが、僕が許可している限りは彼女もコアから力を吸い出すことができるのだ。

 雑魚モンスターに手を止められるより資源を集めたい僕はイブに命じるとカイザーと協力して寄ってくるモンスターを倒させていた。


『マスター。そろそろ屋敷が10は建ちそうなぐらいの木材が集まってますけど』


 移動しつつ伐採をするのに夢中になっていたところ、イブから声が掛かった。


「途中から楽しくなりすぎて目的見失ってたかも」


 一応環境に気を遣うつもりはあったので、伐採をしては移動を繰り返したので影響は少ないだろう。

 面白いように資材が集まって行くことに充足感を得てしまい、少しばかり集めすぎたかもしれないが、稼げるうちに稼ぐのは元の世界で学んだ経験でもある。


『あと、カイザーが卵を2つ産んでますよ』


「やっぱり、食べた分だけ産むのか?」


 普通の鳥は1日もしくは数日に1個の卵を産むのだが、カイザーに好きなだけ食べさせていたところ、1日で2個目の卵を産み落とした。


 それで思ったのが、もしかして食べたモンスターや食材の栄養や経験値を凝縮したのが卵なのではないかと考えたのだ。


 ここに来るまでに結構な数のモンスターを倒している。そしてカイザーはそれらすべてを魔核を残して食べているのだ。


「わかった。卵は後で食べるから茹でておいてくれ」


 恐らくモンスターの経験値がずっしり詰め込まれた卵を食べるために僕はイブに連絡すると…………。


『マスター。先の500メートル、森を抜けたところで反応があります』


「モンスターか?」


 僕の問いかけにイブは一瞬返事を遅らせると。


『人間が20人、モンスターが15匹。これまでのモンスターに比べて随分と強いようです』


 その言葉を聞いて僕は走り出した。






「なるほど、これはやばいのかもな……」


 数百メートル先では受験生達がモンスターと戦っている。

 確か、有名な工房の特注品の武器や防具を見せびらかしていた連中だ。


 数の上では有利なのか、陣形を組んで対抗しているようだが、その及び腰が伝わってしまっている。


 狼めいたモンスターが速度で翻弄していると次第に陣形にほころびが目立ち始めた。


『Dランクモンスターのダイアウルフです。単体でDランクですが、集団で遭遇したならCランク。同レベルの冒険者か探索者がパーティー単位で戦う相手ですね』


 イブが淡々と情報を寄越してくる。

 なるほど、戦闘経験が少ない駆け出しでは絶対に勝てない相手というわけか。


「きゃああああああああ」


 その時悲鳴が聞こえる。

 先程から厳重に守りを固めていた一角に穴が空き、そこにいた数名の女子生徒の前にダイアウルフが立ち塞がったのだ。


「仕方ないな。イブ! スピード・パワー2個ずつだ」


 僕の簡素な命令に。


『えっ。助けるんですか? どうしてです?』


 本来ならば助ける必要は無いのかもしれない。最初に僕をパーティーに誘わなかった連中でもある。特に義理は無いのだ。


 だが、僕はレックスやミランダに助けてもらった。本当に辛いときに助けてくれる存在がどれだけ有難いか僕は知っている。だからこそ…………。


「人を助けるのに理由は必要ない」


 僕は地を蹴るとその集団へと突っ込んでいった。

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