第27話砂浜でバーベキュー

「よっと。……今度は海老か」


 僕は釣竿を掲げるとかかった海老を掴む。伊勢海老によく似ているのだが、こちらの世界ではなんと呼ぶのか分からないので取り敢えず海老と呼称する。


 食べがいがありそうでよだれがでそうになるのだが、取り敢えず壺の中へと放り込んだ。

 中では他にイカやらホタテ貝やサザエにアワビががぷくぷくと泡を立てている。


 これまでの間にゲットした海産類だ。

 まず素潜りをして貝類をゲットして、そのあとは身体が乾くまでの間を釣りをして楽しむ。


「あー……和むなぁ」


 日向ぼっこをしながら無心で釣りをする。前世の頃に一度会社の人間に誘われて行ったのだが、海がそれほど綺麗ではなく、天気も悪かったので楽しく無かった。


 こうして自分のペースでする釣りは心が落ち着くのだな。


『マスター。釣れてますか?』


 そんな風に考えているとイブが話しかけてきた。


「野菜はお願いした通りに切ってくれた?」


『もちろんです。マスターの指示通り寸分たがいなく』


 そう言うとトレイに乗せた野菜盛り合わせが出てくる。ちなみにこのトレイは剣を溶かして余った金属で作っている。イブが地面をへこませてくれるので型を作る必要が無く流し込むだけで簡単に形状が再現できるのだ。


 これは地味に凄い能力で、量産の剣を作ろうと思えばイブにお願いすれば剣の型を地面に作ってくれて流し込むだけで完成させる事も可能だ。


 もっとも、レア金属などは高温が要求されるため、今の設備ではやりたくない。

 今回のバーベキュー用の網を作るだけでも部屋の温度が急上昇して汗を掻いたのだ。


 いずれはワールド内にも工房なりの設備を用意する必要があるかもしれない。


『マスター。そろそろ火が良い感じです』


 そう言って真っ赤に焼けた炭を送ってくる。

 僕はそれを作った網の下に並べて行くと……。


「よし。早速はじめるか」


 うきうきしながら野菜と海産物を並べて行くのだった。



 ――ジュージュー――


 ホタテ貝がパカッと開き、真ん中で切った海老やイカからにじみ出る汁が炭に落ちると白煙が立ち上がる。

 本来なら煙たいところだが、食材が焼ける香ばしさと場の雰囲気もあって気にならない。


「さて、そろそろ食べてみるか」


 トング(イブが作った)を使って皿(イブが作った)へと乗せる。


 箸を使ってイカを持ち上げると「ふーふー」と息を吹きかけて冷ましてからかぶりつく。


「美味いっ!」


 お酒が欲しくなるところなのだが……。

 この世界の成人は18歳だ。祝い事の際の飲酒は認められているが、それ以外では保護者がいなければ飲酒は許可されていない。


 そんなわけもあって、お酒を購入する事ができないのが残念だ。


「他のも食べてみよう」


 【畑】から収穫したししとうやらとうもろこしも頃合いだ。

 そもそも、僕がバーベキューを計画したのはこの野菜があったから。


 単純なトマトだけでも凄く美味しいのだ。もし、これを使ってバーベキューをやったらどんな味になるのか気になったのだ。


「とうもろこしは粒が大きくて甘い。ししとうも仄かな苦みが癖になるな」


 結果は上々。これまで食べたことの無い極上の野菜を堪能できた。


 【畑】で作られた野菜は最上の味まで引き上げられるという予測は当たっているようだ。


 ただ、惜しいのはここに醤油やみりんが無いことだ。調味料があればこの味は格段に引きあがったに違いない。僕はいずれ調味料も作らなければと決意をすると自分の作業スケジュールにそれを追加する。


『ううう。私も食べたいです……』


 恨みがましいイブの声。だが、願ったところでどうしようもない。口が開くのなら食べさせてあげたいが、球体のイブにはそんな機能は備わっていないのだ。


 こんな美味しい物を食べられないイブに僕が若干同情をしていると…………。


『マスター。カイザーがそっちに行きたいそうです』


「いいよ」


 許可を出すとザ・ワールドの入口を開く。

 そうすると、カイザーが飛んできて僕の膝の上に乗った。


「よーしよし。食べさせてやるからな」


「クエックエッ!」


 嬉しそうに海老の半身を一口で食べるカイザー。こいつは雑食らしくモンスターでも野菜でもなんでも食べる。


「美味いか?」


「クエエークエエー」


 なので、これまでは焼いていたモンスターをそのままカイザーの元に送ると魔核を残して食べてくれるのだ。


 僕があごを撫でると気持ちよさそうな声を上げる。どうやらご機嫌なようだな。


 結局イブの恨めしそうな声を聞きながら、僕とカイザーはバーベキューを堪能するのだった。



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