第24話クリスタルバード
「それで、そいつはどこに追い込んだ?」
ザ・ワールドに戻ると僕は警戒しながらイブに問いかけた。
『ちょうど【畑】に入り込んだので入り口を塞いで檻に閉じ込めました』
その言葉を聞いて【畑】へと向かう。
「これが襲撃者の正体か」
そこには檻に捕らわれた1匹の鳥がいた。
鶏ほどの大きさで水晶のような羽が美しく身体を地面に伏せた状態でこちらを見ている。
『綺麗な鳥さんですね。なんなんでしょうかこの生物は?』
イブが溜息を漏らして目の前の鳥を見ている。
「こいつは童話に出てくる幸運の象徴、クリスタルバードだな」
目にもとまらぬ速度で動き回り、キラキラ光るその羽は高純度の魔力を内包し、その羽をもつ人間に幸運をもたらすと言われている。
この世界のどんな生物よりも素早いらしく、今まで捕まえた人間は存在しない。
童話では親の病気を治すためにクリスタルバードの卵を探しに出かけた男女の子供達が、クリスタルバードに卵をわけてもらいそれを食べさせる事で病気が治ったとされている。
『へぇー。そんな鳥さんなんですか』
童謡を話してやるとイブが感心した様子を見せる。
「それにしても、こんな無人島にいるなんてな」
こいつは無人島でずっと生活してきたのだろう。人間を見たことが無いのか、先程の襲撃など無かったかのようにクチバシで羽を繕っている。
『他の生徒と遭遇してたら顔に穴があいてましたね』
確かにそうだ。もし最初に会ったのが僕でなければ今頃死人が出ているところ。
そう考えると捕まえられて良かったのかもしれないな……。
「とにかく今日はここまでかな」
スピード8倍の世界で神経が擦り減っている。
急ぎでダンジョンを二つも回ったのだから成果としては十分だろう。
僕はクリーンの魔法で自分の身体を綺麗にすると、
「クエエェ?」
クリスタルバードが何やら不思議な鳴き声をさせた。
「こいつも結構汚れてるな」
木に突っ込んだりしていたからな。
僕はついでにクリスタルバードにもクリーンを掛けてやると、
「クエェェーン」
気持ちよさそうな声で鳴く。
「汚れが無い方が綺麗だな」
すっかり綺麗になったクリスタルバードが眠たそうに首を丸めるのを見ながら、僕も自分のベッドへと入っていくのだった。
『マスター。起きてくださいよ』
「ん……? 朝か?」
爽やかな空気が流れて頬を撫でる。昨日手に入れた風のコアのおかげで空気の循環が出来るようになったようだ。
清浄化された空気を吸い込むと脳がスッキリする。僕は大きく欠伸をすると背を伸ばして立ち上がった。
『昨日の鳥さんが何やら変なんですよ』
その言葉を聞いて僕はクリスタルバードの元へと向かった。
「よお、おはよう」
相変わらずの態度で檻の中に入っているのだが…………。
「これ、卵だな?」
クリスタルバードの足元には宝石のような青くキラキラした卵が落ちていた。
『なんか、さっきからこの卵を押し出そうとしてるんです』
そう言っている間にもクリスタルバードはクチバシで卵を押し出そうとするのだが、土が入らないように傾斜が仕掛けてあるのでコロリと戻ってしまう。
僕が檻の中に手を伸ばすと後ろに退いていく。クリスタルバードが見るなか卵を手に取ってみると、
「もしかしてくれるのか?」
僕の言葉を理解したのか「クエッ」と首を縦に振る。
『綺麗ですねー。価値ありそうです』
イブの言う通りだ。確かに高額で買う人間はいそうだが……………………。
「童話の伝説を信じるなら危険な行動だな」
病気が治るという話が本当なら狙ってくるやつもいるだろう。なのでまずは……。
「今からこれを食うけど良いか?」
僕の問いかけにクリスタルバードは「クエエ」と叫んだ。多分良いという意味だろう。
イブに鍋を作らせると水を張り煮立たせる。
そこに卵を入れて茹でること10分。卵を引き上げて冷水で冷やせばゆでたまごの完成だ。
『なんだか産んだ本人の前で食べるのって可哀想な気がしますね』
そんなイブの感想をよそに殻を剥いていく。そして…………。
「美味すぎるっ!」
一口食べると自然と言葉が出てきてしまった。
濃厚な黄身と淡い上品な白身。噛みしめると口の中でほろほろと溶けてじわりとうま味がひろがるのだ。
こんな美味しいゆでたまご今まで食べた事がない。
僕の最高の評価にクリスタルバードは「クエックエッ」と自慢げに踏ん反りかえる。
僕がその仕草を見て頭でも撫でてやろうかと思っていると…………。
『マ、マスターっ!』
「どうした?」
柄にもなくイブが慌てた声を出す。
『今急激にマスターのステータスが上がりましたっ!』
「なんだと?」
イブは僕の力量を把握できるらしく、実力を見た上でモンスターに挑めるかを判断している。
そのイブが言い出したのだから本当に急激に伸びたのだろう。
「ちょっと待ってて。伸びるかどうか確認してくれ」
そう言うと、残りのゆでたまごを食べ終える。
『あっ、また増えましたっ!』
やはりそうか。童話で聞いて何かあるかとも思ったが、恐らくクリスタルバードの卵にはレベルをアップさせる効果があるに違いない。
「これは売り物以前の問題だ。市場に出せないな……」
そして少し考えた末に。
「お前、まだ人間を襲うつもりはあるか?」
賢い鳥なので僕の言っている言葉を理解しているだろう。
クリスタルバードは首を左右にふる。
「よし、イブ。こいつ逃がしてやってくれ」
先日襲撃された件については卵を上納してきたことでケジメがついている。
罪滅ぼしがすんだのなら拘束しておくのはフェアでは無い。
仕事で縛られる事の辛さは前世で散々体験しているからな。
イブに命じて檻からだしてやったのだが、クリスタルバードは動かない。
「どうした? もう出てっても良いんだぞ?」
クリスタルバードは歩いてくると――
「随分となつっこい奴だな?」
スリスリと足に顔をこすりつけてきた。
『きっとこの子もマスターのこと好きになったんですよ』
「そうなのか?」
僕の問いかけに顔をこすりつけるのを止めると頷いた。
僕はクリスタルバードの身体を撫でてやる。透明な水晶かと思われた羽だが、柔らかく暖かい。極上の撫で心地だ。
「じゃあ、お前が気がすむまでここにいてもいいよ」
僕の言葉に「クエエッ」と嬉しそうに鳴いた。
『じゃあ、その子にも名前つけてあげないといけないですね』
そんなイブの提案に。
「クリスとかバードとかどうだ?」
『マスターちょっと安易すぎますよ?』
種族名から一部を取ったのだがどうやらお気に召さないらしい。
クリスタルバードも首を左右に振って拒絶する。
「じゃあ……カイザーとか?」
「クエエックエックエッ!」
突然バタついて主張を始めるクリスタルバードに。
『流石マスター、素敵な名前だと思います』
実は元の世界の水の名前なんだけど、当人たちが気に入ったのなら黙っておこう。
「クーーーエッ!」
嬉しそうに鳴くカイザーを見ていると…………。
『マ、マスター【畑】が大変なことに』
本日何度目になるのかイブの慌てた声が聞こえると【畑】に目を向ける。
カイザーが暴れたことで卵のからが吹き飛ばされて【畑】に入り込んでいるのだ。
僕はイブが何を慌ててるのかわからず眉を潜めるのだが…………。
『【畑】がカイザーの卵の殻を吸収して恩恵にランクアップしました。派生スキル【牧場】が発現しました』
「なん…………だ…………と?」
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