第15話事前準備
「それで、その水ってのはどこにあるんだい?」
そう問い返したお婆さんに僕は。
「これですよ」
と言って目の前に水が入った壺を出して見せる。
「ほぉ。何とも便利な恩恵だね。特殊系かい?」
「そうです。詳細は教えられませんけど、結構重宝できる能力ですね」
特殊系はゴミ恩恵から希少性の高い恩恵まで様々だ。
相手からすると何かを転移させる能力に見えても不思議では無い。
「それじゃあ、早速調べさせて貰うよ」
壺から水を汲み、装置の上に垂らす。そして出てきた数値を読み上げた。
「これはダンジョンランクⅡの水だね」
鑑定結果を聞いて初めてあれが難易度で下から2番目だったことを知った。
「壺一つにつき銀貨25枚になるけど良いかい?」
「それで大丈夫です。全部で50個程あるんですけどいいですかね?」
流石に量が多すぎるかと思って聞いてみると、
「こっちは問題ないよ」
どうやら問題無いらしい。それだけ水の需要が高いという事なのかもしれない。
今後も水を入手するべきだと判断した。
お婆さんが承認してくれたので僕は次々と壺を並べて行く。
「じゃあ、これで移させて貰おうかね」
ポンプのような物を持ち出すと壺と貯水槽を繋ぎ水を吸い上げ始めた。
「この魔道具便利ですね」
「これが無きゃ重労働だからね」
確かに、僕も水を汲み上げるのに結構疲れた気がする。
今は優先順位が低いけどいずれはこの手の魔道具も買うべきだろう。
そうこうしている内に、水の移動が完了した。
「金貨12枚と銀貨50枚だよ」
そういってお金を渡してくれる。あれだけの労働でぼろ儲けとも思ったが、実際の場合はアイテムボックス持ちならあらかじめ空間を空けておかなければならないし、そうでな場合は単純に運ぶのに労力が発生する。
そう考えるとこの報酬は妥当かやや安めなのだろう。
「ありがとうございます」
ほくほく顔でお金を受け取ると僕は次から次へと壺に触れ、イブに回収させていった。
「これで全部かな?」
回収し忘れた壺が無いか確認をして辺りをキョロキョロしていると、妙な気配の物を発見した。
「ん。まだ何かあるのかい?」
お婆さんは僕の様子に気付いて声を掛けてくる。
「ちょっと変な事聞いてしまうかもしれないけど宜しいでしょうか?」
「今時の若者にしては随分と礼儀正しいね。なんだい? 大量に売ってもらったからね。何でも聞いておくれ」
お言葉に甘えて僕は隅の棚を指差した。
「この石なんですけど、これって何ですかね?」
そこには透明な石が乱雑に積まれていた。
「こいつはダンジョンコアの不良品さね」
「ほう。不良品ですか?」
「基本的にダンジョンの等級はⅠ~Ⅶだけど二つ例外があるんだよ」
お婆さんはまるで生徒に教鞭をとるように教えてくれる。
「一つ目は等級なんかでくくれない人類が未踏破の固有名を持つダンジョン」
おとぎ話で聞いたことがある。何時から存在するか分からない侵入者を100%退けてきたダンジョンの話。
「もう一つは特殊ダンジョン。部屋が一つしかなかったり、レア鉱石などが存在するわりにモンスターが一切湧かなかったり、はたまた転移の魔法陣で違う場所と繋がっていたり。難易度が設定できないダンジョンのこと」
そちらについては知らなかった。なんだかんだでエリクの頃の知識というのは子供が得られる範囲なので間違いや不足が目立つ。
外に出たからには情報収集を強化すべきかもしれない。
「それで、その特殊ダンジョンからもコアが獲れるんだけど、こいつは他のコアと違って魔道具に反応しないのさ。だから不良品と呼ばれているんだよ」
「なるほど。使えないダンジョンコア……そんなものがどうしてここにあるんですか?」
乱雑にとはいえ積まれているのには何らかの意味がある。僕はお婆さんの返答を待つ。
「こいつはすりつぶして塗料と混ぜれば魔法陣を描くための道具になるんだよ。一応魔力は残ってるからね」
これで謎が解けた。それにしても使えないダンジョンコアか……。
僕は妙な引っ掛かりを覚える。もしこれが成功するのなら賭けてみる価値はある。
「ちなみにこれは全部でいくらするんでしょうか?」
「金貨12枚だね」
誂えたかのように今受け取った金貨とほぼ同じだ。
試験は明日なのだ、まだ準備で揃えなければいけないものは残っている。
その他に滞在費やらなんやらでお金が必要だ…………。
『マスターどうするんですか?』
イブの声が聞こえる。これまでも様々なピンチを救ってくれた僕の恩恵だ。なにより、このまま試験にのぞむとして本当に合格できるのか疑問だ。
お婆さんも年々難易度が上がっていると言っていた。たかが2種類の魔法をちょっと使える程度で突破できるのかは分からない。
僕は少し悩んだ末にこう答えた。
「そこのダンジョンコアを全部引き取ります」
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