第13話推薦書

「あれ? そんな大きさ変わってないよな?」


 水のダンジョンコアを取り込んだという事で中に入った最初の感想がそれだった。

 火のダンジョンコアを取り込んだ時に敷地が広がっていたのでそういうものかとばかり思っていた。


『空間の拡張にもコアの力を使いますから。お望みならばコアの力を使って広げますよ?』


「そうだったんだ……」


 だから急に部屋が広くなったという事か。逆にいえばコアさえあれば相当空間を広げることができるわけだな。


「いや、今はいいよ。それよりも水はどこに?」


『あっちに部屋を作って置いてますよ』


 地面から矢印が浮かび上がったのでそっちの方向を見ると、部屋の片隅に仕切り壁とドアが出来ている。

 流石は管理者を自認するだけある、こちらが指示しなくても意を汲んでくれているようだ。


 感心した様子で僕が台座の中央に置かれたイブのつるりとした球面を見ていると…………。


『マスターお疲れ様です。休むのならベッド出します?』


 僕が疲れていると思ったのかイブがそう提案してくる。


「いや、そろそろ戻らないといけないからいいよ」


 家を出てから結構な時間が経っている。既に父も起きている頃だろう。

 僕は一度家に戻ることにした。






「お待たせしました」


 あれから家に戻って何食わぬ顔でドアを開けると父が起きていた。

 そして「なんだ出掛けていたのか?」と聞いてきたので「寝すぎて早くに目が覚めたから散歩してたんだよ」と答えた。


 それから二人して遅めの朝食をとっていると、セレーヌさんが訪れたのだ。

 そして「至急来て欲しい」と呼ばれたのでこうして再び探索者ギルドを訪れた。


「昨日の今日ですまないな」


 ギルドマスターが気を使って話しかけてくる。


「いえ、問題無いですよ」


 僕が答えるとギルドマスターは、


「お前さん。王都に行くつもりは無いか?」


「えっ? 王都?」


 いきなりの言葉に僕が聞き返す。


「ここからは説明させていただきます」


 そういうと一枚の書類がテーブルを滑ってきた。


「これは?」


「王立総合アカデミーの推薦書です」


「どうしてそんなものを?」


「あなたはこの街で埋もれさせるには惜しい人材だからですよ」


 先日、僕に一定の価値を認めてくれたのは分かったが、これでは説明不足だ。


「一般的に恩恵の儀式を終えた人間は資格を得るために三年間学校に通います。戦いの恩恵を受けた者は騎士や戦士になる為。魔法を使えるものは魔道士になる為。それぞれ街にある学校で技能を伸ばすのです」


 それは恩恵の儀式の後でそれぞれ話をされている。僕の場合は……。


「ですが、それ以外の人材に関しては街にろくな学校がありません。特殊系と言えば聞こえが良いですが、くだらない能力が殆どで、大抵は卒業後にはダンジョン前の受付だったり、街の簡単な仕事に就く事になります」


 それも聞いている。僕なんかはレックスやミランダが「将来一緒に探索者になろう」と誘ってくれていたが、特殊系の恩恵は役に立たないものが多いのだ。


「だけど僕は既にこの街の特殊系学校に通う予定ですよ?」


「王立総合アカデミーでは優れた人材を求めてる。有力者3名の推薦があれば入試を受ける資格を得られるんだよ」


 それを聞いて僕は正面を見る。

 ギルドマスターにサブマスター。そしてセレーヌさんと目が合った。


「お二人が僕を買ってくれてるのは分かりましたけど……」


 推薦人が足りないのでは?

 そんな疑問が伝わったのか。


「私も推薦してますから」


「セレーヌさんが?」


「正直、王都の学校はエリート意識が高く、街で突出した才能を持つ子供もそこでは平凡になります。なので、無理にというわけではありません」


 厳しい受験の末に自分が劣るという現実を突き付けられた過去の記憶。


「そうだな。街に残ってそれなりの学業を修めてそれなりの仕事に就く。そんな未来を否定するわけじゃない」


 前世で過ごした時間が蘇る。どの世界でも同じ。与えられた環境と歯車に徹する自分。


「それどころか王都の方が危険な仕事が多いと聞きます。平穏を望むのならこれは差し出がましい提案なのかもしれません」


 だけど、折角こうして異世界に転生する事が出来たのだ。今の僕には信じられる未来がある。そしてそのための力も…………。


「全てはエリク君。あなた次第ですよ」


 セレーヌさんの言葉を聞くと僕は推薦書に触れると…………。


「その入試。受けさせてもらいます」


 この世界に来てから最大のチャンスを掴み取るのだった。


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