第12話水のダンジョンコア
「暑いな……」
僕はムクリとベッドから起き上がると寝汗を拭う。
『おはようございますマスター。寝心地はいかがでしたか?』
起き抜けにイブが話しかけてくる。
「地べたよりはましって程度だな」
ここはザ・ワールドの中で、僕は休息をとっていたところだ。
あれからダンジョンに潜って行ったのだが、モンスターが結構でたため、段々と疲れてきたのだ。
そんな訳で中に引っ込んで休憩をとる事にしたのだが……。
『仕方ないですよ。まだ他のコアが手に入ってませんもの』
どうせ寝るならとイブが地面を操作してベッドを作ってくれたのだが、素材の感触が地面とさほど変わらないので安眠とはならなかった。
「それにしても、温度もう少し下げられないのか?」
全体的に室内は温度が高い。これでは長時間いると脱水症状が出かねない。
『はい。だからこそ水のダンジョンにご案内したのですよ?』
「ほう。その心は?」
『水のコアが手に入れば火と合わせて温度調整が出来るようになりますからね。生活基盤を固める為には必須です』
どうやらイブなりに僕の為に考えてくれているらしい。
『さあさあ、あと少しなので一気に攻略してしまいましょう』
「全く。どっちが主人なんだかなぁ」
とはいえ、異論はない。僕は身体をほぐして装備を身に着けると外に出る準備をするのだった。
『というわけでここが最奥ですね』
洞窟の中に湖があり、湖には橋が架かっていて中央へと続いている。
湖の水はこれまで見た中でもっとも澄んでいてキラキラと輝いていた。
「喉乾いたから水が欲しいんだけど…………」
飲んでも平気だろうかと考えていると。
『では手を上にして受け取って貰えますか?』
「うん?」
なんだかわからないが了承すると、急に掌に黒いコップが現れた。
「これって?」
いつの間に持たされたのか、僕が戸惑いを覚えると。
『先程の応用ですね。コアの力を使って室内にベッドを用意したように今回はコップを作りました』
イブは室内であればわりと自由に壁やら何やら作れるみたいだ。家具を頼んだらやってくれるのかな?
『飲み終わったら言ってくださいね。戻しますので』
僕はコップで水をすくうと一気にあおった。
「ぷはっ! 凄い美味さだな」
これまで飲んできた水と違い、雑味が一切なかった。
『私の目によると、この水は錬金術師がポーションを作る材料に最適ですね』
その言葉に異論はない。実際、ポーションの材料として澄んだ水を汲んでくる依頼などもあるのだから。
僕はコップを握りしめて暫く考える。
『マスター。どうかされましたか?』
「なあイブ。さっきコップを渡したよな?」
『ええ。私とマスターは繋がってますので。双方の合意があればアイテムの受け渡しができますので』
ここまでは予想通りの言葉。
「だったら壺みたいなの作れるか?」
『は、はぁ……できますけど?』
こちらの意図がわからないらしく初めて困惑した声をきかせる。
「じゃあ、作ったら僕の手元に送ってくれ。ついでに水をすくえる道具も」
それから程なく送られてきた壺に僕は水を一杯貯める。中々に骨の折れる作業ではあるのだが、先を考えるとここでやっておいた方が良いからな。
やがて壺が満タンになったところで。
「よし。この触ってる壺をそっちに回収してくれ」
『はい。わかりました』
目の前から壺が消える。
『そろそろどういう意図があるのか教えてくださいよ』
「うん。良質の水は結構高値で売れるからさ」
探索者ギルドの依頼にもわりとあるようなのだが、モンスターと戦ったり、運ぶのが大変だったりとかでやる人間が少ない。
「その点僕の能力ならいくらでも運び放題じゃないかと思ったんだよ」
最奥に到達する事さえ出来れば汲み放題。万が一売れなくても水はあっても困る物では無い。畑に撒いたりとか身体を清潔に保つのにも使える。
『なるほど。流石マスターです。そんな単純な使い方思いつかなかったです私』
心の底から感心するイブ。
「ある程度備蓄したいから、どんどん壺を送ってくれよな」
『はい。マスター』
イブはこれまでで一番活き活きした返事を返すと僕の指示を受けて壺を作り続けるのだった。
「ふう。だいぶ補充したけどどのぐらい貯まった?」
ぶっ続けで作業をして、時折現れるモンスターは魔法で瞬殺していると結構な時間が経っていた。
『壺で55個ですね』
壺1つで依頼を1つこなせるとして、当面の在庫は十分だろう。
「よし、それじゃあ水のダンジョンコアを獲って撤退しようか」
『はーい。これで私も新しい力を振るえます』
中央の台座に向かうと水色の石を発見する。
火のダンジョンコアに比べると一回り程小さい。
それを取り外すとイブに送った。
『うふふふ。涼し気で可愛らしいコアです。早速……』
嬉々として台座にセットしている様子が浮かんでくる。
『マスター手をかざしてください』
「かざしたよ」
『今度はウォーターと叫んでください』
恐らく魔法を教えてくれるつもりなのだろう。僕は心持ち威力を抑えめにすると、
「ウォーター」
中々の勢いで水が飛び出し壁に当たってはじける。
『これで水魔法も大丈夫ですね』
わずか一日で2属性の魔法を手に入れた僕はイブの言葉を聞きながら、この力の凄さを改めて思い知るのだった。
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