第11話フロストゴブリン

「それで……どうしてこんなところに?」


 現在、目の前には岩で出来た入口がある。


『マスターが能力について知りたいと言ったからじゃないですか』


 その場には誰もいないにもかかわらず声がする。

 これは僕の脳に直接話しかけているので他人には聞こえない。


 声を掛けてくるのは僕の恩恵の管理者であるイブだ。僕とイブは恩恵を通じて繋がっているためこうして会話が出来るのだ。


「そうは言ったけどさ、別に家でもできただろ?」


 ゆっくり寝たから身体は回復している。とはいえ、夜に抜け出してまでここに案内されたのは疑問だった。


『これが私の能力の一つです。近くに存在するダンジョンがわかるんですよ』


「そうか、分かったから帰ろうか」


 あくまでもマイペースなイブに僕は帰宅を宣言するのだが、


『折角だから中に入ってみましょうよ。未踏破のダンジョンが近くにあるなんて運が良いですから』


「いやいや。何言ってんだよ」


 僕がダンジョンで遭難しかかった事を忘れたのか?


『平気ですよ。ここは前のダンジョンに比べたら生まれて日も浅いので、子供みたいなものですし』


 ダンジョンに年齢とかあったのか?

 僕が新たな事実を認識していると、イブは押し切るように僕を説得するとダンジョンへと案内するのだった。






「へぇ。水が流れてるんだな」


 入り口を抜けると雰囲気がガラリと変わった。

 外と完全に隔絶したその場は、岩から水が流れてきて空気が澄んでいる。


 やや肌寒さを感じるのだが、心地よくもあった。


「こういう雰囲気は悪くないね」


 落ち着く雰囲気に浸っていると、


『マスター。前から敵が来てますよ』


 イブの忠告に前を見ると、何やら小型のモンスターが数匹こちらに向かってきていた。


「だから言ったのに。流石にあの数は面倒なんだけど」


 現れたのはフロストゴブリン。僕が先日戦ったゴブリンと同程度の雑魚モンスターだ。

 だが、僕はそこらのゴブリンに苦戦をする程度には雑魚なので、複数相手だと大苦戦する事になる。


「仕方ない。粘れるだけは粘ってみるけど……」


 僕が短剣を構えて敵を威嚇すると…………。


『マスター掌をかざしてください』


「えっ? なんで?」


 突然の指示に僕は思わず聞き返してしまう。


『いいですから。私を信じて。ほらっ!』


 何ともマイペースな、この状況をピンチと思っていないのかイブは急かすように僕に言う。

 僕は短剣をしまうと目の前のフロストゴブリンに手を突き出す。そして…………。


「これでいいのか? どうするんだよ」


 そうこうしている間にもゴブリンは迫ってくるのだ。


『良いですかマスター。狙いをゴブリンたちの真ん中に向けてこう言ってください――』


 腕がチリチリするのを感じる。何かが収束していき爆発しそうになると――


「ファイア」


 次の瞬間、僕の腕から大火炎が放たれ、目の前にいるゴブリンを一瞬で焼き尽くす。それどころか火炎は勢い衰えず直進していき、数百メートル先にある壁にぶつかると爆音を響かせてそれを大きく抉った。


「……おい。イブ?」


『なんでしょうマスター?』


「これは何?」


『今のは火属性の最弱魔法のファイアです』


「これが……ファイア?」


 記憶にあるファイアはせいぜい焚火をつける程度なはず。これは火の上級魔法のフレアじゃないのか?


『いいえ。今のはフレアではありません。ただのファイアです』


 したり顔で言っているのが想像できる。


「これがイブの能力なのか?」


『何言ってるんですか、これはマスターの力ですよ』


「僕の?」


『ザ・ワールドは取り込んだコアの力を使う事ができるのです。今回はイブが補助しましたが、一度使い方を覚えれば大丈夫かと。次からは自分の意志で魔法を使えるはずですよ』


「それって、ダンジョンコアがあればあらゆる属性の魔法を使う事が出来るってふうに聞こえるんだけど?」


『その通りです。なのでマスターには早く全種類のコアを集めてもらわないといけません』


 この世界で魔法は重要な能力だ。

 特化型と言われる魔法を扱える恩恵を持つタイプはほとんどが魔法使いになる。その上で得意な属性を磨きあげ仕事に役立てる。他の属性に関しては相当の修練を積まなければ使う事はできないのだ。


 それを…………。


「一応確認なんだけど、全ての属性のコアを集めたら全属性の魔法が使えるって事なんだよな?」


 柄にもなく心臓がドキドキする。


『ええ。その通りです。他にもコアによっては色々な種類がありますからね、出来る限り集めた方が良いと思いますよ』


「マジか……」


 試しにファイアを唱えてみる。今度は先程の現象を意識して威力を落として見せる。


 ――ゴオオオオオオオオオオオオ――


「出来たな」


 コツを掴めば何という事はない。まだ威力が高いのだが、自分の意志で魔法を使って見せた。


『この魔法があればこの程度のダンジョンは楽勝ですよ』


 どうりで慌てない訳だ。これなら何が現れても消し炭にしてやれるに違いない。


『とりあえずここのコアを回収するところから始めましょう』


 イブの言葉に僕は高揚感が沸き起こるのを抑えきれなかった。

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