第10話管理者
『どうされたのですかマスター?』
声が聞こえる。まるで僕を心配するような優しい声。
「ははは。疲れが溜まってるのかな? よく寝たつもりだけど寝ぼけてるみたいだ」
だが、そんなはずはない。このルームの中には僕しかいないのだから。
転生に続いて幻聴。いよいよ自分の頭が心配になり始めると、
『むー。どうして意地悪するんですかマスター』
何処か咎めるような声に僕は目の前の球を見つめるのだが…………。
『そんなに見つめられると照れちゃいます』
認めたくはないが、どうやら目の前の球が声を出しているようだ。
「えっと、君が何なのか聞いてもいいのかな?」
意志の疎通はできるようなので意を決して聞いてみる。
『私は【管理者】ですよ。この【ザ・ワールド】の』
「ザ・ワールド?」
『マスターが支配するマスターの為の世界です』
当然とでもいうような態度で答えてきた。ここはもう少し突っ込んで聞いてみよう。
「つまり、僕の恩恵――ルームと名付けたこれだけど、実はザ・ワールドという能力で君はそこの管理者って事でいいのかな?」
『流石マスターです。知能が高いです』
「……なんか馬鹿にされてる気がするんだが?」
言い回しの問題なのか、悪意はなさそうな声だ。
『そうだ。さっき私の事踏みましたよね。酷いですよ』
「えっ? そんな事した?」
『しましたよ。土足でグリグリと』
恐らくダンジョンで最初に入った時の事を言っているのだろう。あの時は小さい球だったのに少し見ないうちに大きくなったものだ。
それにしても感情が豊かというか…………。
「わ、悪かったよ」
取り敢えず謝っておく。
球は「許します」と言うと沈黙した。それを観察していた僕はついつい聞いてしまう。
「ところでさ、さっきからどうやって喋ってるんだ?」
目の前にいるのは水晶のようにツルツルとした球だ。口が付いているわけでもなければ振動で音を発しているわけでもない。
『マスターの脳に直接送信してるんです』
なんと予想をはるかに超える返答だった。声の主は続ける。
『マスターの記憶を探った中で、もっともマスター好みの声を選択して話しているんですよ』
「なるほど。……どうりで」
聞き覚えがあると思った。よくよく思い出してみれば元の世界で大好きだった声優の声だったのだ。
「それで。なんでいきなり話しかけてきたんだ?」
「いきなり? 私はずっと話しかけてましたよ」
その割には声が聞こえたのは先程だが…………。
僕は少し逡巡してみると結論が出た。
「もう一つ先に聞いておくけどさ。そのダンジョンコアどうなってるの?」
球の横に嵌められた赤い球体。紛れもなく行方不明になっていたダンジョンコアだった。
『マスターからのプレゼントですか? いいでしょ。折角なので飾ってみました』
あげた記憶は無いのだが……。
『これのお陰で力を得ることが出来たんです。それまでは話しかけても交信が届かなかったみたいですね』
彼女(?)は魔核を吸収していた様子だ。だとするとそれ以上の存在であるダンジョンコアを取り込んでしまったのでは無いだろうか?
そう考えるとこの広くなった空間も話しかけてきたタイミングも説明がつくのだ。
「それで君。管理者というのはどういう事? ここで何をするつもりなんだ?」
意志を持っているのだから放っておくわけにはいかない。万が一能力が暴走したとして、僕まで危険人物指定を受けるのは不味いからだ。
何とかして制御しないと。
『私の仕事はこの【ザ・ワールド】を管理する事です。強いて言うならマスターの安穏を守る事こそが使命ですよ』
「それは助かるけど……」
安穏を約束してくれるなら早々無茶な事はしないだろう。ここの管理を任せられるのなら僕としても異存はない。そんな事を考えていると、
『マスターその”君”っていうの止めて貰えませんか?』
「えっ。良いけど……? 名前教えてくれない?」
『名前はありません。マスターが付けてくださいよ』
僕から生まれた能力だから当然名前も無いと。色々考えなければいけないから裏で思考しているのにまた難題を押し付けてきたもんだ……。
僕は頭が痛くなりつつも…………。
「…………じゃあ”イブ”で」
『わぁ。気に入りました。私は今日からイブです』
喜んでくれたようだ。
「それでイブ」
『なんでしょうかマスター。このイブが答えますよ』
鈴の音が鳴るようなころころとした態度。
「僕はこの力がどんなものか良く分かってないんだ。だからイブが知りうる限りの情報を教えてくれないか」
魔核を取り込んだりダンジョンコアを取り込んだり、更には空間拡張としゃべりだす球。あとどれだけ仰天させられるかわかった物じゃ無いからな。
僕はイブの返答をじっと待つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます