第9話ザ・ワールド

「これは……倉庫5つは入る広さだぞ」


 あれからギルドマスターたちも回り込んできて僕のルーム内を見渡した。


「こんな恩恵は前代未聞ですね。特化系、補助系、生産系。いずれにも当てはまりません」


 サブマスターが興味深そうに資料を捲り続ける。


「そうするとエリクって何になるんですか?」


 中の様子を見ながらミランダが質問をする。


「通常、特化系恩恵の場合はそれぞれの分野の学校に進みます。補助系や生産系も同じくです。ですが、それらに当てはまらない例外が存在します」


 サブマスターは僕を見ると。


「それが特殊系ですね。一人一人が特殊な――レアと呼ばれる恩恵を持っています」


 なんでも、一般的な火や土、剣技や槍技など一つの能力を伸ばす恩恵とは隔絶した存在らしく、これに当てはまらない恩恵を特殊系と呼ぶらしい。


「特殊系にも色々あります。有用なものから役に立たないものまで。ですが、これは間違いなく役立てられますね」


「そうだな。この恩恵は単に倉庫として使っても一生楽して暮らせるだろう」


 ギルドマスターとサブマスターの間でなにやらやり取りがされている。その様子をどこかぼーっとしながら見つめていると…………。


『……………………スカ?』


「ん? レックス何か言った?」


「いや、別に何も言ってないぜ?」


「おかしいな……何か聞こえた気がするんだけど……」


「それで、エリクよ。ダンジョンコアはどこにあるんだ?」


「はっ……えーと……?」


 広くなったとはいえそこそこ大きい石だったのだ、見逃すはずがないのだが……。


「見当たらないじゃねえか。本当にあるのか?」


 父が疑わしそうな視線を向ける。


「おかしいな?」


 頭がぼーっとする。僕は瞼が落ちそうになるのを堪えながらルーム内をくまなく探すのだが……。


「もうっ! 皆。エリクはダンジョンから帰ってきて疲れてるんだよっ! そんなのは明日で良いでしょ!」


「本当です。疲れが溜まっているようですね。残りは後日にしてまずはエリク君を休ませた方が良いのではないですか?」


 ミランダとセレーヌさんが周囲を説き伏せてくれたお陰で僕はようやく休む時間を手に入れられた。







『…………すか? マ……』


「うん?」


 何かに呼ばれた気がして目を覚ます。外は完全に日が落ち、星々が輝いている。

 あれから家に帰った僕は食事もそこそこに寝所に入ると、ダンジョンの疲れもあってか死んだように眠ってしまった。


「寝ぼけてたかな?」


 寝すぎたせいか頭が重たい。何かにささやきかけられた気がするが、部屋には誰もいなかった。


『きこ……らへん……して…………。マス……』


「気のせいじゃない。聞こえた」


 女性だろうか。綺麗な声が頭に響くがまだよく聞き取れない……。


『へんじをして……さい』


 声の主は何やら訴えかけてきているようだ。


「どこから話しかけてるんだ?」


 僕がその声に質問をすると、暫く間が空き。


『……ザ・ワールド』


 聞いたことがない。だが、妙な気配を感じる。

 自分の内側に誰かがいてそこから呼びかけているようなそんな感覚。


「開け!」


 僕はルームを開くと中へと入っていく。そうすると……。


『返事をしてください。マスター』


「誰だ? 何処にいるんだ?」


『良かった。聞こえるのですね』


 声に誘われるままに進んでいく。そして部屋の真ん中までたどり着くと。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 地面が盛りあがり、台座のようなものが隆起する。そしてその中央には水晶玉のような球体が嵌め込まれており、その横に先程僕がルームに入れていた赤いダンジョンコアが同じく嵌っていた。


「これは一体……?」


 どうしてこんな事になっているのか?

 僕が気持ちを整理しようとしていると、


『お会いできて嬉しいです。マスター』


 目の前で今度こそはっきりと声がするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る