言葉は残り、妻は従う


 モンスター族の二人の執政は、ベルタ・ドンより総族長のこの言葉を伝えられた……

 アンネリーゼとジャンヌは、この総族長の最後の言葉を聞き、恥じ入るばかりだった……


「ベルタ様……今さらながらですが……ヴラド・ドン総族長は偉大な方でした……それに気が付かなかった自分を恥じ入ります……」

 アンネリーゼが言った。

 ジャンヌが、

「ベルタ様……このような時に失礼とは思いますが、ご自身のお気持ちをお聞かせ願えませんか……」

「夫の言葉です、そしてその夫は亡くなりました、しかし言葉は残り、妻は従います」


 ジャンヌが、

「分かりました、とにかく総族長の葬儀をまずは立派に行いましょう、そしてその後、総族長の最後のお言葉を遺言として公開いたしましょう」


「そうだな……ベルタ様、ジャンヌの云うとおりです、まずはご葬儀、そして遺言を公開して、しばらく時を置きましょう……」


「ミコ様はあのような方、時を置き、皆で嘆願すれば嫌はないでしょう……内々で嘆願したら、うやむやにされてしまいます」

 確かにアンネリーゼの言葉は的を得ている。


「では、ご協力願えると?」

「ベルタ様、少なくとも私たちは、共に手を携える者と思ってください」

 ジャンヌが答えた。


 ヴラド・ドンの葬儀は、こうして盛大に行われたのです。

 そして遺言が公開された……


 それを聞いて、ルシファーは渋い顔をしたということです。


「ベルタ様……良からぬ動きがあるようです」

 良人の代わりに、総族長臨時代理を務めるベルタの元に、ゾーイが報告にやって来ての一言でした。


 ベルタはルシファーに、当面ブラッド・メアリーを配下におくことを願い出て、許可を取っていたのです。


「不測の事態に対してですか?」

 ルシファーに図星を刺されたベルタでした。


 その不測の事態が起こるという、ゾーイの報告なのです。


「どういうことですか?」

「ヴァンパイアにもモンスターにも、良からぬことを画策している者がいます」


「まずモンスター族ですが、一部の素行の悪いものが集まり、暴動を起こそうとしています」

「自由勝手にするのだなどと息巻いています、とりあえずはタナトス・シティ逢魔街で放火をして、商店街を襲撃する計画のようです」


「ヴァンパイア族ですが、こちらの方がまずいかもしれません」

「ヴァンパイア至上主義というか、八十年前の主流派の考えに、賛同するものが居るようです」


「どうも自分たちだけでヴィーンゴールヴを支配、身分制度を確立、モンスター族を昔のように下僕とするつもりのようです」


「あれほど……ルシファー様のお力を目の前にしたのに……もう忘れたの……言葉がないわ……」

「ゾーイ、この事が表に出れば……ヴァンパイア族には多大な不幸が降りかかる……」


「そうですね……あのルシファー様ですから……良くて、そうなの、分かりました、立派な考えです……とか言われて、お見捨てになる……」


「多分……造血装置は跡形もなく消えるでしょう……悪ければヴィーンゴールヴが……次の朝が来ない……」

「亡き夫もそういっていました……心得違いする者が出るのが、一番危ないと……」


「いかがいたしますか?」

「モンスター族の方は、アンネリーゼとジャンヌに任せましょう」

「あのお二人に任せれば、まず『処分』となります」


「ジャンヌが目立たぬように処理するでしょう」

「アンネリーゼは小細工などできませんが、ジャンヌならね」


「ヴァンパイアの方は?」

「こちらも『処分』するしかないでしょう……」

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