良い贈り物


「話は一応聞いた、で、どうしたいのだ……」

「何度も言いますが、琴音を妻に迎えたい!」

「どうしてもか!」

「どうしてもです!」

 

「この馬鹿者が!儂の言うとおりに出来んのか!」

「出来ません!」

「なんでモンスターなどを妻とするのか!」

「お前はヴァンパイア族の族長になる男だぞ!後継ぎはどうするのか!」

「誰かに継がせれば、いいではありませんか!」

「なに!」


 ベルタ・ドンが、

「あなた、ゲオルグも、とにかく落ち着いて、この娘さんの話も聞いてみましょう」

「……そうだな……はしたないところをお見せした……琴音とかいわれるか……この馬鹿息子の父である」


 琴音さんが、

「私はつまらない琴の付喪神ですが、ゲオルグさんを愛しています、その為全てを失ってもいいと、思っています……」

「メイド任官課程ですが、卒業すれば任官拒否をいたします」


「いま跡継ぎはどうするのかとおっしゃられていましたが、ヴァンパイア族の方からもうお一人、妻をお迎えいただかれても、私は構いません」

「その方と必ず仲良くいたします」

 これにはベルタ・ドンも驚きました。


「……」


 ゲオルグが、

「琴音さん、そんなことをいうものじゃない、私は貴女だけを愛している……」

 ヴラド・ドンが、「黙っておれ!」と一喝します。


「私はゲオルグさんに愛していただければ、どんなことでもいたします、お料理だって勉強いたしました」

 ベルタ・ドンが、

「では未来のお嫁さんに、その腕前を披露してもらいましょうか」

「まだ決まったわけではない!でも、まぁ……作ってみよ」


 琴音さんは気持ち悪いのを我慢しながら、ブラッド・カレーを作ります……

 このカレーに、琴音さんの愛と希望と、ささやかな欲望が籠っています。


「どうぞ、ゲオルグさんも食べてみてください」


「カレーか、やはり若い娘ではこんなものか」

 ヴラド・ドンがあざけるようにいいましたが……


 その後、無言で食べています。

 ゲオルグが、

「琴音さん、とても美味しいよ……」

 ベルタ・ドンが、

「本当に、お世辞抜きで美味しいわ」


「確かに旨いな……しかし食事という物は、共に食べる物、これはヴァンパイア向きに作られておる、しかしモンスター族のあんたは無理であろう?」

「いえ、大丈夫です、いただきます」


 琴音さんは顔色変えずに、ブラッド・カレーを二杯食べ、もう一杯食べようとしたとき、

「もうよい、分かった……」

 とヴラド・ドンが止めました。


「ゲオルグ、お前とは親子の縁を切る、妻をつれてとっとと出ていけ!」

「父上……」

「儂はこのカレーを気に入った、時々作りにこい」


「あなた、作りに来てくれ、でしょう?」

「儂は人にはたのまん!」

 プイと顔をそむけました。


 ベルタ・ドンが朗らかに笑ったのは、いうまでもありませんでした。


 後でラダは、総族長夫妻から手紙をもらいました。

 その最後にこうありました。


 儂ら夫婦にも、息子夫婦にも、良い贈り物をありがとう……

 ブラッド・カレーはうまかった、四つの人生は美味しい人生となろう……


 一年後、ゲオルグと琴音は結婚しました。

 ヴァンパイア族の総族長夫妻と、モンスター族の二人の執政が臨席、滅多に無い絵面ゆえか、マスコミが大々的に報道したおかげで、これを契機にヴァンパイア族とモンスター族は、少し仲良くなったのです。


    FIN

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