第六章 ベルタ・ドンの物語 鮮血推戴

総族長家の孫


 ヴラド・ドンがなくなった……

 ベルタ・ドンは、惑星ヴィーンゴールヴのフィメール・ドミナンスになっていた。


 息子とモンスター族の嫁の間には孫もでき、徐々に二つの種族は共存に向かい始めていた矢先……ヴァンパイア至上主義がはびこり始めた……


 このままではまずいことになる。

 闇に葬るために、おおっぴらに首謀者を処分できる、あるイベント開催を宣言した……


     * * * * *


 惑星ヴィーンゴールヴに、ヴァンパイア族が移住して八十年近く、ベルタ・ドンは『おばあちゃん』になっていた……


 夫が勘当した息子夫婦に子供が出来たのだ……

 あれほどモンスター族の血が混じることを嫌ったヴラド・ドンであるが、孫が出来た瞬間に、そのようなことは綺麗さっぱり忘れてしまったようで、孫が可愛くて仕方ない……


 孫の顔を見たいばかりに、自ら息子夫婦の自宅に入り浸る始末……

 挙句の果てに、息子の妻である琴音までほめちぎっている。


「よくやった!あんたは世界一の嫁だ!息子は果報者だ!」と……


 ベルタ・ドンはおかしくてしょうがない。

 夫のこのような姿は見たことが無いのだ。


「いつも苦虫を噛み潰したようなのに、こんなにはしゃぐなんて……琴音さん、ありがとうね」


 息子のゲオルグは珍しく妻はこの琴音だけ、側女をすすめられても断固として断る律義者。

 周りはこのままでは総族長の家が絶えるのではと、心配していたのである。

 そこへ奇跡のように子供が授かった、しかも男の子、立派なものがついている。


 これは大変な事……そもそも種が違う……というより、モンスター族は生物がどうか怪しいものもいる。

 事実、琴音がそうである。


 琴の付喪神の琴音、その彼女がゲオルグと枕をかわし、精を身に取り込み、子を身籠る……

 本来は絶対に不可能、ありえないのだが、人型になっているモンスター族、なにかが変わってきている……

 はっきりいえば人型が常の姿、こちらが本当の姿になりつつある。


 しかも抗ボルバキア菌薬が確実に効いており、男子はなかなか生まれないようになっている。

 惑星ヴィーンゴールヴの性差は、六対四から七対三になりつつあるのだ。

 これはマルス文化圏の、一級市民地域において共通の傾向だ。


 八十年の年月、徐々にわかってきたことがある。

 モンスター族の成り立ちについては、どうやら残留思念が絡んでいるらしい……

 ヒューマノイドの心、いわゆる魂の残骸が、何かの拍子に憑代と一体化した……

 そんな仮説がモンスター族の学者から提出され始める。


 しかしそんなことはどうでもいい、全てのモンスターは根っこに『人』の魂がある……実際子供が生まれているのである。

 つまりヒューマノイド、いや『人』のカテゴリーに分類される存在……


 ヴァンパイアが『人』から進化した種族である以上、どこか通じるところがある……

 そして、ルシファーに献上品を出すために人型を取り始め、急速に変化を始め、ついに性交まで可能となった……


 そして子供まで授かりだした……


 いがみ合ってきた二つの種族の垣根が徐々に崩れていく……


 このことはルシファー、つまりはヴィーナスとイシスの姉妹にとって、あることを意味していた。

 有機体ヒューマノイドという視点に立てば、アンドロイドとホモ・サピエンスも性交し、子を身ごもることが可能……


 二人は話し合った結果、今はこれ以上の交雑は禁止する……

 そのように決めたようである。


 ただ惑星ヴィーンゴールヴに住む、この両種族にたいしては黙認することにした。

 とにかく二つの種族とも個体数が極めて少ない、惑星ヴィーンゴールヴ移住時、ヴァンパイア族は二万五千名を多少超えるぐらい、モンスター族は少し多く三万名程度、互いの第一都市と言えど、人口二万程度の小さい都市なのである。


 八十年たったいまでも、惑星ヴィーンゴールヴの人口は十万も超えていない状態、牛が二桁多いかもしれない、牧畜の星と言っても良い。


 とにかく生まれた子は間違いなしにヴァンパイア、そして琴音の血も引いているのか、異様に聴感がいい……

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