正一位金長大明神の名誉


 三好糸女には家族が出来た……

 父親……それは立派な……


 それからしばらく経ったある日、

「お養父様、ルシファー様がお茶会を開かれるの、私も呼ばれたの、お養父様も熊鷹様も一緒にいかが?」


「ルシファー様って、とっても怖いけど優しい方よ、私の愛する方ですもの……お養父様にも、会っていただきたいの」


「優しい方なのか……」


 田左衛門大明神が、藤の木の熊鷹に、この話をしますとあまりいい顔をしません。

「正直、儂は怖い……死神みたいなものも恐ろしいが、あの漆黒の闇に浮かんだルシファー様は……今でも身震いする……」


「儂も恐ろしい……初代の金長様に、軍師として従った儂だが、あれほど恐ろしい思いをしたことは無かった」

「いや、恐ろしいのではない、なにか絶対的な物に触れた……身がすくんだ……うまく言葉で言えないが、そんな感じだった」

「そうだな……」


「しかし、行かねばなるまい……糸女のためにも……」

「良い父になったな?」

「そうか……」

 結局、ともに参加することにした。


 お茶会には、惑星ヴィーンゴールヴの色々な階層の者が呼ばれていた。

 ヴァンパイアの総族長ヴラド・ドン、その妻ベルタ・ドン、ヴァラヴォルフ族の二人の執政、ルシファーの寵妃たち、中にはダチア高等女学院と籠目(かごめ)高等女学校の一号生徒、産業界の実力者などなど……


 ルシファーの周りには、人垣が出来ていますが、ルシファーが、田左衛門大明神と藤の木の熊鷹を呼びました。


「お二人には、お礼をいいたかったのです」

「糸女さんは私の大事な方、血のつながらないのに、良く慈しんで育てていただきました」


「一応私は、糸女さんの夫に当たる立場でありますので、お二人は義理の父とも呼べる存在」

「ご挨拶が遅れたことを申し訳なく思っています」

 そして招待客に向かって、このように云ったのです。


「皆さん、この方たちを紹介させてください」

「お二人は、あの偉大な正一位金長大明神のゆかりの方です」


「こちらは藤の木の熊鷹さん、正一位金長大明神の仲間であった、藤の木の大鷹の御子息」

「こちらは田左衛門大明神さん、正一位金長大明神の軍師で、阿波の狸合戦を勝利に導いた方です」


 モンスター族の中から、おぉ……と声が出ます。


「そして私事ですが、私の寵妃である三好糸女を苦労して、育て守ってくれた殿方でもあります」

「糸女さんはモンスター地区の保険教育局長として、この世界に多大な貢献をしている有能な方」

「ご覧のように大変美しく、それゆえに私の毒牙にかかってしまったのですが……お二方は、いわば私にとって父とも呼べる方です」


「今夜のパーティーは、お二人にエスコートをお願いしようと思います」

「お客様がた、私の我儘をお許しくださいね」

 そしてルシファーは二人の腕をとり、

「さあお父さま、私をエスコートしてくださいね」


 拍手が起こります、誰もがこの二人の老紳士への、ルシファーの配慮に感心したようです。

 この時のルシファーのスピーチで、正一位金長大明神は名誉を回復できました。


「ルシファー様……ありがとうございました……初代の金長様も、喜んでおられると思います」

「いえ、私に出来る事といえば、正一位金長大明神を正しく評価されるように、スピーチすることだけです」

「それよりお二人は、モンスター地区の事に対して、良く大所高所から、ご判断いただき感謝しています」


「ルシファー様は、最後の最後はお優しい……」

「いえ、公には冷酷ですよ……せざるえないのですが……」

「大変ですね」


「そうですが、寵妃の方々が私を慰めてくれますので、彼女たちの為に踏ん張れます」

「父としては、ありがたいお言葉です」


 三好糸女は、感激しながらこの会話を聞いていた……

 ハンカチがビショビショになり、化粧が落ちて困りながら……


    FIN


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